行政書士中村和夫の独り言

外国人雇用・採用コンサルティング、渉外戸籍、入管手続等を専門とする26年目の国際派行政書士が好き勝手につぶやいています!

7年前のある在留資格変更不許可案件 その3(シリーズ第21回)

2009-04-12 13:28:04 | 行政書士のお仕事

 入管から在留を拒否されたMさんとは、ペルーに帰国された後も連絡を取り合っており、就籍の審判を申し立てた家庭裁判所の調査官からの追加質問や、追加の資料提出要請をペルーに伝え、その資料や回答文を私が翻訳して弁護士経由で家裁に提出していたのでした。

 その中で、家裁はやはり国立公文書館の資料を最も重要視しているように思えました。そこで、ペルーのご家族に対して、更なる補強資料の調査要請をしたところ、新たな公文書資料が見つかり、ある新事実が明らかになったのでした。その資料とは、移民一世である日本人父が、ずっとMさんの現地での出生の届出をしなかったこと、日本人父が既に他界した後に洗礼証明書を基に、裁判審判によって出生証明書が作成されなけれならかった事情を裏付ける重要な証拠となりうる資料だったのでした。

 それは、第二次世界大戦開戦直前に、移民一世である日本人父が、ペルー外務省外国人登録課にMさんを日本人として届け出ていた資料だったのでした。当時、子供であったMさんの記憶によれば、日本人父は、ペルー人妻を亡くして、現地での生活に将来を見い出せずに子供達を連れて日本へ帰国しようとしていたらしいのです。ところが、日本大使館は既に、閉鎖されていました。そんな大戦直前で排日的な世相であったにも関わらず、日本人父はMさんを敵国ともなりうる日本人としてペルー外務省に届けていたのでした。実は、この点が日本人父が、Mさんに対して積極的に認知していたと認めうる最大の証拠になったのでした。

 つまり、日本人父は、現地ペルー女性との間に生まれた息子であるMさんの洗礼は受けさせたものの、ペルー人としてペルー政府への出生の届出をしたくなかった事が容易に推定できたのでした。更には、Mさんは、今現在では廃校となってしまった移民達が設立した小学校に通っており、常に「お前は、日本人なのだから」と、父親に云われていた育った事や、ペルー陸軍軍人となった戦後でも、この事が障害になって軍人として出世できなかった事などの証言にも、なるほどと思わせる整合性が出て来たからです。

 これらの事実関係を裏付けるべく、家裁はMさんに再度来日して貰い、直接ヒアリングしたいと、弁護人を通じて要請して来たのでした。Mさんとしては、体調さえ問題がなければ来日したいと回答して来ました。

 しかし、私としては、果たしてMさんが再来日できるかどうかの不安があったのでした。つまり、入管局により旅券に在留資格変更不許可のスタンプを押印をされている以上、現地日本大使館が簡単に査証を発給するとは思えなかったのでした。そこで、家裁名にて招へい状を出して欲しい旨の要請を弁護人を通じて依頼したのでした。また、仮に短期滞在の査証が現地公館から発給されたとしても、成田空港で上陸拒否に合わないという保証もないので、合わせて入管局への要請書の発給も依頼したのでした。

 しかし、家裁側も刑事事件ではない案件に対して、行政側にその決定に影響を及ぼさせるような文書を作成する事は困難だったようでありました。そこで、家裁側からの質問内容に対して、宣誓供述書で回答する形での内示があったのでした。それにより、万一Mさんが来日できない場合でも、審判審理の重要な材料に十分になりうるとの判断からでした。

 結局、その宣誓供述書の内容が十分であった為なのか、家裁側はMさんに来日しなくてよいとの連絡をして来たのでした。

 こんな、やりとりがあった後、家裁からの連絡が暫く途絶えた事で、家裁の判断がどうなるかは、私としては全く想像ができませんでした。そこで私は、万一の場合を考えて、即時抗告を念頭に置きながら、更なる証拠集めを現地のご家族側に要請したのでした。しかし、大方の証拠は出し尽くしており、新たなる証拠入手は、既に非常に困難になっていました。

 唯一、もう既に生存者が極端に少なくなっている同年代の日系人老人達を見つけ出して、現地で新たな新証言を聞き出して貰うしか打つ手が無くなっていた時でした。こうして手詰まりを感じていた矢先であった、申し立てからおよそ8ヶ月程経った頃でしょうか、日本国籍が認められた就籍許可の審判があったと、弁護人から連絡があったのでした。

 即時抗告をして、実際に高裁で逆転勝訴判決を受けられるだけの新たな有力な証拠の提出が難しかっただけに、私は正直ほっとしたのでした。こうして、審判謄本を弁護人から受け取った私は、市役所に届け出るべく書類を作成して、Mさんの署名を求めるべく、届出書をペルーに送付したのでした。

 以下、次号最終回に続く。

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