一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

最高裁の時計

2008-06-05 | 法律・裁判・弁護士

久しぶりの最高裁での違憲判決です。

「国籍法は違憲」婚外子10人に日本国籍 最高裁判決
(2008年6月4日(水)20:57 朝日新聞)

国籍法の2条1号によれば、父母が結婚していない「婚外子」でも、生まれる前の段階で父の認知があれば、国籍を取得できる。一方、国籍法3条1項は、生まれた後に認知された場合に父母が結婚しなければ国籍を得られないと定めている。その違いは、出生の時点で子どもの国籍をできるだけ確定させるのが望ましいという考え方による。

この国籍法を違憲と判断したのは15人の裁判官のうち12人。このうち9人が多数意見で、「84年の立法当時は結婚によって日本との結びつきを区別することに理由があったが、その後に国内的、国際的な社会環境の変化があった」と指摘。その例として、家族生活や親子関係の意識の変化や実態の多様化、認知だけで国籍を認める諸外国の法改正を挙げた。  

遅くとも、原告たちが国籍取得を法務局に届け出た03~05年には、結婚を要件に国籍を区別するのは不合理な差別になっていたと認定。3条1項のうち結婚の要件だけを無効にして、要件を満たせば国籍を認めると結論づけた。

この制度自体を知らなかったのですが、言われてみれば、認知と出生の前後関係で父母の婚姻を要件とするかしないかを変えるのはあまり合理的な理由がないように思います。

件の国籍法はこうなってます。

(出生による国籍の取得)
第二条  子は、次の場合には、日本国民とする。
 一  出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
 二  出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
 三  日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
(準正による国籍の取得)
第三条  父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2  前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

どうやら国籍法の2条1号が父「又は」母の一方が日本国民であれば出生時の父母の婚姻を要件としていないのに対し 3条1項は「父母の婚姻」と「及び」「認知」が条件になっているようです。
そしてこれは民法の嫡出子の規定からきているようです。

(準正)
第七百八十九条  父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
2  婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。

ということはつまり嫡出子でなければ国籍を認めない、というのは違憲だ、と言っていることですね。

今回、親子関係・国籍をめぐる変化があったと認めた期間は84年の立法当時から24年で、今までの最高裁の尺度でいえば比較的短いという感じもしますが、最高裁の時計も若干早くなったのでしょうか。

そうすると、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1であるという民法900条4号についてはの従来の合憲判断(参照)も変わる可能性が高くなったということでしょうか。(少子高齢化が進み、年金も破綻に瀕しているなかであえて日本国籍を持ちたいと思う人は歓迎すべきなどという判断をしたわけじゃないと思いますので。)



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Sue Easy.comと弁護士ドットコム

2008-04-25 | 法律・裁判・弁護士
医学都市伝説さん経由のネタ。

アメリカに、訴訟を起こしたい人が登録すると弁護士がアクセスしたり、弁護士の登録したクラスアクションに参加できる、いわば「訴訟出会いサイト」的なSue Easy.comというサイトがあるとか。

早速拝見してみると、仕組みとしては①自分の事件をガイドに沿って登録する②それを見た弁護士が本人にアクセスする③訴訟を依頼するという手順を踏み、④成約するとこのサイトが弁護士から報酬を得るというもののようです。

うたい文句では
"No Yellow Pages Scrambling, Frantic Phone Calls or Confusing Internet Searches. Let lawyers contact you!"(もう電話帳をめくって電話を掛け捲ったり、インターネットで苦労して検索をする必要はありません。弁護士があなたに声をおかけします!)
ということです。

WSJ Law-blogによると、以前からmaltindale.comのような弁護士検索サイトはあったものの、弁護士からコンタクトを取る仕組みは初めてだとか。

サイトを覗いてみると、事件のカテゴリが「ケガ」「破産」「交通事故」「労働災害」「親族問題」「入国審査」など10に分けられ、さらにそれぞれに小分類がされています。
たとえば「ケガ」では「動物によるもの」「第三者による危害」「製品事故」「危険物質」「転倒・転落」など更に10に分けられています。
そして、それぞれの項目では「どこの州で」「いつ起こった」「医療費はかかったか」「休業したか」「相手は保険にはいっているか」など20項目近くの質問に大半はyes-no形式で答えて自分の事件を登録します。

なんだか個別の質問に答えているうちに、訴訟を提起したくなってしまうところがうまく出来ています(笑)

そのせいか
「ホットドッグのパンとソーセージの一袋に入っている個数が異なるのは、最小公倍数まで買わせようとする陰謀だ」
とか
「割礼は"the most sensitive part of the penis"を除去する性的虐待だ」
というようなクラスアクションも提起されているようです(参照)ただし前者はリンク切れなので、敗訴したか参加者が少なかったかどっちかなのかもしれません。


一方日本でも、弁護士ドットコムというサイトがあり、弁護士検索、インターネット法律相談(有料)、弁護士報酬見積などのサービスを提供しています。
実は報酬見積サービスを開始したのは2005年と弁護士がアクセスするタイプのビジネスモデルとしてはこちらのほうが早いみたいです。

ただ、こちらのほうは「さあ訴えましょう!」と盛り上げるよりは、相談する弁護士を探すことに主眼を置いているような感じがします。

このへんは、国民性の違いとか弁護士の需給関係の違い(アメリカだとカネに結びつかないサイトだと弁護士側の登録も減ってしまう?)もあると思います。
さらに日本では弁護士法72条で弁護士以外のものが法律事務の周旋を業として行うことが禁じられているので広告サイトという建てつけにしている(推測)ことも影響しているのかもしれません。


クラスアクションといえば日本でも消費者団体訴訟制度が始まりました。
内容的には「消費者団体」訴訟制度なので団体訴訟(class action)とは微妙に違うのですが、どのような発展をするのでしょうか。



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一橋は×だったようで

2008-03-28 | 法律・裁判・弁護士

一橋・北海道など4法科大学院に「不適合」評価
(2008年3月27日(木)23:43 読売新聞)

法科大学院の評価機関「大学評価・学位授与機構」は27日、大学院9校の評価結果を公表し、一橋、北海道、千葉、香川の国立4校を、教育内容に最低限必要な水準を満たさない部分があるとして「不適合」と認定した。  
26日にも別の評価機関が愛知大を不適合としている。74の法科大学院のうち昨春以降24校の評価結果が出たが、2割を超す5校が不適合と判断された。  
同機構の評価報告書によると、一橋大は行政法など3科目で、最大80人と定められている一クラス当たりの人数が83~100人に上り、「少人数で議論しながら授業を行う基本が守られていない」と指摘された。千葉大は、期末試験の成績が悪くて単位を落とした学生を翌年度の再試験で救済する仕組みを設けていたことが問題視された。  
北大は法学未修者を想定した3年制コースの入学者選抜で、法律科目を重視した選抜方法を採用していた点、香川大は教員の専門分野と指導科目にずれがある点がそれぞれ不適切とされた。  
不適合となった大学院は、文部科学省の調査対象となり、必要に応じて改善指導を受けることになるが、学生の募集や、在学生の修業、修了者の司法試験受験資格に影響はない。新潟、金沢、熊本、上智、専修の5校は「適合」と認定された。

おとといのエントリで紹介したように、漏洩疑惑のあった慶應大学は「適合」だったのとのバランスがよくわかりませんね。

ただ、記事をよく見ると、上の「不適合」格を出したのは独立行政法人大学評価・学位授与機構で、慶應を「適合」としてのは、財団法人大学基準協会と異なっています。
大学基準協会のサイトによると

2002年の学校教育法改正に伴い、2004年度以降わが国の大学は、文部科学大臣の認証を受けた評価機関による評価を7年以内の周期で受けることが義務づけられました(認証評価制度)。

という制度の中でそれぞれが認証を受けた異なる評価機関に評価を依頼したということのようです。

評価者によって多少のばらつきはあるにしろ、今回はちょっと差が目立つ結果となりました。


建築確認において審査が緩いと評判な民間審査機関があったり、耐震偽装事件の反動で今度は急に厳格になったり、の二の舞にならないといいですが。
今回は「評価」というより主観的な作業にかかわることなので、もっと面倒かもしれませんね。


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KO漏スクール

2008-03-26 | 法律・裁判・弁護士

などと昨年来2ちゃんなどでは言われているらしいですが・・・

新司法試験で教授が不正な受験指導、慶大に改善勧告
(2008年3月24日(月)20:40 読売新聞)

法科大学院の評価機関「大学基準協会」は24日、慶応大法科大学院の評価結果を公表し、新司法試験で出題担当だった同大教授(辞職)が不正な受験指導をしたことについて「大学院の授業時間が(新司法試験の出題科目に)過度に偏っており、そうした教育姿勢が司法試験問題漏えい疑惑につながったとの見方を否定できない」として改善を勧告した。その上で、評価基準には適合していると結論づけた。  

同協会の評価報告書によると、慶応大は新司法試験に出題される法律基本科目で、授業後に「フォローアップタイム」と呼ばれる補習を実施。また若手弁護士を講師とするゼミを設け、新司法試験対策の指導を行っていたといい、報告書は、こうした大学院全体の教育方法が不正の背景にあった可能性を指摘した。  

同協会は、次回の評価を行う5年後までに毎年、不正防止策の実施状況を報告することも要請。慶応大法科大学院は「評価結果を 真摯 ( しんし ) に受け止め、速やかに改善を図っていきたい」としている。  

ロースクールを卒業しないと司法試験を受けられない、という制度を作った以上、ロースクールに入学する人のほとんどが(というか例外的に勉強熱心な人を除いてほぼ全員が)司法試験を受験するつもりだと思うのですが、司法試験対策重視の教育方法はよろしくない、というのでしょうか。

であれば、今回「評価基準に適合しない」という評価をすべきだったと思います。 
また考査委員である教授が類題を出した行為は「大学院全体の教育方法が不正の背景にあった」というなら不正は組織的なもの、と(昨今の企業不祥事に対するマスコミの論調でいえば)言えるのではないでしょうか。


とても中途半端な対応のように思います。

たとえば今回の事件が合格率の低い弱小私立大学や新設国公立大学のロースクールで起きたななら「評価基準に適合しない」となったのではないでしょうか(そういう大学の教授は司法試験の考査委員にはならないだろう、という問題はさておき)。  


そもそも、僕も含め世の中の人の大半はロースクールは司法試験の予備校に近い機能を果たしていると思っているのではないでしょうか。
現に知り合いのロースクール(慶応ではない)の先生が自校の卒業生の司法試験の合格率に一喜一憂してますし、雑誌『ビジネス法務』で「法曹資格を持たないロースクール修了者の企業での採用を考える」という特集が組まれるくらいですから(こちらのエントリなどもご参照)。

慶応大学自体も「教育方針を見直す」というコメントはしていないわけですし、そうだとするとコメントの「速やかに改善を図ってい」くというのが、何の改善を図るのかよくわかりません。 
たぶん大学自身も教育方針がまずい、とは思っていないんじゃないでしょうか。

慶応のロースクールは司法試験の合格率は高いのようですし、不正に関係なくその数字が達成されたのであれば、教育方針としては問題はないどころか望ましいじゃないでしょうか。
医師国家試験の合格率の低い医学部はレベルの低さが問題にされるのに、法科大学院は受験に焦点を当ててはいけない、というのもちょいとおかしいです。


もし試験結果と評価機関の考える教育のレベルに正の相関関係がないというのであれば、真っ当な教育を受けた法科大学院生が合格できないような、受験テクニックが必要な司法試験のほうを問題にすべきではないでしょうか。



まあ、将来法律家になるには、この程度の本音と建前の矛盾は当然に飲み込んでロースクールを選択するはずなので、評価機関は理想論を言っておけばいい、ということでしょうかねぇ・・・


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弁護士法72条

2008-03-13 | 法律・裁判・弁護士

最近バタバタしていてひと様のブログを読む機会がなかったのですが、昨晩久しぶりに巡回しました。

スルガコーポレーションの事件については ろじゃぁさんtoshiさんも取り上げられていました。

個人的にはこの事件の「筋」は暴力団排除とか従来からとかく噂のあったところにきっかけを見つけたので一気に、という案件だと思うのですが、罪に問われている弁護士法72条のいわゆる「非弁行為」については、なかなか微妙な問題があると思います。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条  弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

と①「法律事件」か、②「鑑定、代理、仲裁・・・その他の法律事務」か、③「報酬を得る目的」かというあたりが問題なのですが、規定自体がかなり漠としたものになっています。
この法律の趣旨は、いわゆる「事件屋」とか「示談屋」のような「強きを助け弱きをくじく」という衡平に欠ける解決をするような輩を紛争処理に介入させない、というところにあるのではないかと思います。

しかし一方で、これを厳格に解釈すると、(法定代理人でない)親戚のトラブルの示談交渉に一肌脱ごうというオジサンも「あとでお礼の一杯」を期待しただけで弁護士法違反になりかねないわけですし、街場の賃貸アパートを管理している不動産屋が入居者との現状復旧費用の負担について金額の交渉をするのにも宅地建物取引業法で認められた「賃貸の代理」を逸脱して法律紛争に関与した、などと言われかねません。

またこの問題は、形式的には弁護士法72条(=弁護士の職業独占)に抵触するかどうかについて弁護士の意見を確認すること自体、利害関係者の意見として信用できないわけなので、論理的には解決不能なわけです。
(このへん、立法担当者はどう考えていたかは聞いてみたいですね)


結局この辺は、最後は委託する側が自分は社会正義に反してはいない、という確信を持ち、「文句言うなら言ってみろ」万が一訴えられても受けて立つぞ、という腹のくくりをしているかどうかの問題だと思います。


そしてそこから先は、法解釈論でなく経済原理に頼ることになるわけで、

① 必要以上に弁護士の既得権益を守るインセンティブのない(=比較的金回りが良くて弁護士会の役員の地位なども狙っていない)弁護士を味方につける。
② 就職にあぶれた弁護士を交渉専門に安価に囲い込む(初任給もかなり安くなっていたりするようですし)
③ 毎年3000人は多いなどと言わずに5000人くらい司法試験に合格させろと要求する。

という対応をとることになります。

弁護士になるような人も、何も好き好んで建設会社の地上げとか街場のアパートの畳の日焼けはどっちの負担か、などという交渉ごとだけをやるために難関の司法試験を突破したわけじゃないでしょう。
しかし一方で検察や弁護士会などが弁護士法72条の解釈にあたり厳格な姿勢をとるのであれば、就職にあぶれたり、あまりに低い給料しかもらえない弁護士を雇うコストとそういう交渉委託業者を雇うコストの比較の問題になり、そういう安価なマーケットを作り出せ、という政治的プレッシャーがかかることにもなりかねないと思います。

toshiさんは

このたびの事件で「ドキ!」っとされていらっしゃる企業様もいらっしゃるのではないかと思います。

とおっしゃっていますが、企業としては費用対効果さえあえばあえて法を犯すリスクを負う必要はさらさらなく、 おいしそうな仕事は独占したいけどおいしくない仕事は「法律事務でない」という解釈を事後的にされるのはたまらん、逆に職業独占を主張される弁護士会が、小口の紛争とか紛争予備軍というグレーゾーンの案件まで社会的コストとしてリーズナブルな範囲内できちんと受任することを約束してくれるのであれば喜んでお願いします、となるのではないかと思います。


今回のスルガコーポレーションの行為を擁護する気はさらさらないのですが、弁護士法のあいまいさは企業だけのリスクではなく、弁護士業界側にとっても「法律事件未満の案件もカバーするような人員体制を求められる=弁護士の供給過剰状態の新たなプレッシャーになる」という意味でリスクなのではないかと思います。

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池をひろげる、という発想

2008-02-14 | 法律・裁判・弁護士

岡口弁護士のボツネタ経由
「日本弁護士連合会の新会長を決める選挙では、「安定した生活をしたい」という多くの弁護士の本音が噴出したようだ。」
(2008年2月13日 東京新聞社説)  

新会長選では、現在の司法改革路線、弁護士の大幅増員に反対する高山俊吉氏が43%も得票した。従来通りの改革推進を掲げ辛勝した宮崎誠氏も、選挙中に増員ペース見直しを明言せざるを得なかった。  

ということで、有力弁護士会の互譲で選ばれた本命候補の宮崎氏が「改革推進派」で対立候補の高山氏が「改革反対派」なんですね。
以前、弁護士会の選挙について「派閥」単位の「党議拘束」が厳しいことを「津軽選挙」などと揶揄したのですが、そういう従来型の密室での候補者選び(密室じゃないのかもしれませんが)に反旗をひるがえす側が「改革反対派」というのも妙な感じがします。
いずれにしても  

新会長選では、現在の司法改革路線、弁護士の大幅増員に反対する高山俊吉氏が43%も得票した。従来通りの改革推進を掲げ辛勝した宮崎誠氏も、選挙中に増員ペース見直しを明言せざるを得なかった。

と弁護士全体としては(急激な?)改革には批判的な人が多いようです。
さらにこの社説では  

司法書士などの試験と同じく司法試験も法曹資格を得る試験にすぎず“生活保障試験”なぞではない。  

「生存競争が激化し、人権擁護に目が届かなくなる」-こんな声も聞こえるが、余裕があるからするのでは人権活動と呼ぶには値しない。

と手厳しいです。
また、2月9日の日経新聞の社説も  

弁護士不足の危機を感じるこれらの業務は、手間がかかる割に報酬が低いところが共通する。「仕事にあぶれる」は有り体に言えば「もうかる仕事にあぶれる」なのか。  

「大幅増員すれば弁護士間の生存競争がひどくなり、人権の擁護・社会正義の実現を目指す仕事には手が回らなくなる」。増員反対派の、こんな言い分にうなずき、法曹は増やさないほうがよいと判断する国民はどれほどいるだろう。

と批判的です。


確かに制度上は、同じ職業独占が制度化されている医師は厚生労働省から資格停止等の処分を受けるのに対し、弁護士は自治に任されていて、資格の停止や剥奪をするには弁護士会での懲戒処分しかないので弁護士会次第で「司法試験に合格すれば自動的に一定レベルの生活を保障する」(=司法試験を生活保障試験にする)という運用は理論的には可能です。

国民の事由と権利を擁護するという役割故に職業独占が認められ、しかもこのご時勢監督官庁とか外部監査人・社外役員などの第三者からのチェック機能が働かない数少ない団体だけに(他には国会議員くらいでしょうか)、弁護士会にはより厳しい自律性が期待されているし、世間の目も厳しくなるのは仕方ないと思います。

もっとも、「一定の保護を内部の論理と国民感覚のズレ」という意味では、新聞の戸別配達を維持するための再販価格制度の位置づけも似たようなものではないかと(お互いに一緒にされては不愉快かもしれませんが・・・)。


前置きが長くなりましたがこれからが本題です。


「弁護士が増えると競争が激化して収入が減る」という議論で気になるのは弁護士業のパイが増えないことを前提にしていることです(弁護士が増えるとアメリカのように乱訴の弊害が出るという議論は、人数が少なくてもそういうことをする人は出かねないわけなのでとりあえず置いておきます)。

一般的には今後弁護士の果たす役割が増えると期待されているわけで(そのために増員が図られたはずです)、日弁連としても「池の魚の数を増やすな」と言う前に池を大きくするという方向での議論はしないのでしょうか?  

今までと同じサービスをより大きな人数で提供しているだけでは一人当たりの収入は減るのは当然ですし、新しい市場を開拓するにはリスクが伴うのもこれまた当然です。 
鶏と卵の順番にこだわって市場を広げるチャンス(法律サービスの需要増)にサービスを提供しないでいると、逆に他業者の市場参入を招いてしまうと思います。
たとえば債務整理業務についての司法書士の参入がいい例です。 
また、この前被害者国選弁護というエントリを書きましたが、ドイツでは犯罪被害者支援については民間支援団体が30年以上の歴史を持っているそうですので、あまり内向きな議論ばかりをしていると、先の司法書士だけでなくNPOによる活動などにも陣地を取られてしまうのではないでしょうか。


新会長は多少の見直しを示唆したものの「改革推進派」とのことなので、頑張っていただきたいと思います。

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被害者国選弁護?

2008-01-22 | 法律・裁判・弁護士

被害者国選弁護 費用返還求めず 法務省案を自民了承
(2008年1月19日(土)04:15 産経新聞)

刑事裁判に犯罪被害者らが参加する「被害者参加制度」をめぐり、法務省は18日、公費で選任される弁護士費用については原則、被害者側に返還を求めないなどとする原案を自民党司法制度調査会などの合同会議に示し、了承された。同省は総合法律支援法などの改正案を通常国会に提出する方針。

久しぶりにものすごい違和感を感じた報道です。

法律の改正案がすぐに調べられなかったのですが、被害者参加制度の概要は、殺人や業務上過失致死傷などの犯罪において被害者や遺族が一定の制限付きで、被告人質問や量刑に関する意見陳述などをすることができるというもののようです。

違和感の中身は

① なぜ被害者の意見陳述に代理人として弁護士が必要で、弁護士に限らないといけないのだろうか。
被害者の気持ちを伝えるのならマスコミやジャーナリストでもできるのではないか。弁護士に限定する理由は何か?
刑事訴訟制度上被害者は被告人に対峙する立場ではないので、法律紛争の代理人ではないし、弁護士法上も弁護士の職業独占にする必然性はないのではないか
(あくまでも国選弁護人を選べるということで弁護士の職業独占にはしていないのかもしれませんが)

② 弁護士が被害者の代理人になったとして、刑事訴訟法上は推定無罪の被告人に対してどのようなスタンスで被害者の心情を伝えるのだろうか。
もし弁護士に限るとするなら誰かの法律的権利を保護する必要があるからでしょうが、被害者は意見陳述をするだけなのでこれ以上権利を侵害されるおそれは少ないように思います。
そうだとすると被告人の人権を保護する、ということになるのでしょうが「あなたのせいでこうなった!」という発言は弁護士としては職業倫理上言えない(言うべきでない)はずで、「もしあなたが犯人だとしたら、(または、あなたかどうかはわからないが犯人のせいで)私はこのような苦しみを受けた」としかいえなくなります。
でもそれは被害者にとって歓迎されることなのでしょうか。

弁護士を代理人として選任することは、制度自体の矛盾点を浮き彫りにする感じがします。
 
日弁連からは昨年の3月に会長声明として被害者の参加制度新設に関し慎重審議を求める会長談話が出されているようです。

 これまで、犯罪被害者等が、経済的補償の面でも、また医療・精神的ケアの面でも、十分な支援を受けられずにいたことについて、われわれは真摯に反省し、当連合会は、犯罪被害者等補償法の制定及び公費による被害者の弁護士選任制度の導入が早急になされるよう強く要請するものである。

(中略)

被害者参加制度には、以下に述べるような裁判現場での影響を考慮すべき様々な問題点がある。

まず、犯罪被害者等の生の声を被告人に伝えることの重要性は理解できるが、既に被害者等の意見陳述制度が導入されている。さらに被告人に対し、直接法廷で犯罪被害者等の生の声を尋問や求刑という形で対峙させるよりも、検察官や弁護人を介して伝える方が被告人に冷静に受け止められて反省を促すには有効であり、実際そのような努力がなされている。

また、本来刑事手続が予定しているところとは異なり、結果の重大性に圧倒され、検察官の主張に対して言うべきことが言えない被告人は少なくない。特に、正当防衛の成否、被害者の落ち度、過失の存否という重大な争点について、結果が悲惨であればあるほど、これらの点を主張すること自体が心理的に困難な状況に置かれている。法廷で犯罪被害者等から直接質問されるようになれば、被告人は沈黙せざるを得なくなる可能性がある。

そのほか、被害者参加制度が現行の刑事訴訟法の本質的な構造である検察官と被告人・弁護人との二当事者の構造を根底から変容させるおそれがあることや、犯罪被害者等の意見や質問が過度に重視され、証拠に基づく冷静な事実認定や公平な量刑に強い影響を与えることが懸念される。

これも若干違和感があります。
反対の論拠としては「そのほか」の部分が一番大事なんじゃないでしょうか。
一番最初に「犯罪被害者等の生の声を被告人に伝えることの重要性は理解できる」と言ってますが、推定無罪の被告人に被害者の声を伝えることにどのような意味があるのでしょうか。
そのこと自体が「精密司法」を追認しているのではないでしょうか。
個人的には精密司法にもそれなりのメリットはある(応報刑的考えよりはある意味健全)と思うのですが、少なくとも日弁連が追認しちゃまずいんじゃないでしょうか。


また、日弁連会長声明の言う「公費による被害者の弁護士選任制度」というのは、ざっと検索した範囲では「犯罪被害者補償法」というのはドイツの「暴力犯罪被害者補償法」という国が被害者への経済的補償をする制度を手本にしているようです。
またドイツの刑事訴訟手続きでは、①被害者の手続参加(異議申立、忌避、陳述権など)や、②被害者の情報取得(記録閲覧)、③弁護士の付添い・支援、④被害者のプライヴァシー保護などが認められていて、さらに2004 年の「被害者の権利に関する法律」で公費により被害者弁護人(付添人)をつける権利が認められたそうです。(参照

このような背景(と私は考えたのですが)のなかで「犯罪被害者等補償法の制定及び公費による被害者の弁護士選任制度の導入が早急になされるよう強く要請するものである。」といっておきながら「慎重審議」というのもちょっと説得力に欠ける感じがします。

ビジネスチャンスが増えるとすれば、反対もしづらい、ということなのでしょうか。


上のドイツの例による被害者の「異議申立」「忌避」(それぞれ何に対してなのでしょうか?)とか被害者のプライヴァシー保護という部分については弁護士の選任というのも意味があると思います。
ただ、ドイツ流に刑事訴訟制度を大きく見直すのではなく、被害者の意見陳述を認めるだけなら国選弁護人を雇うまでのこともないように思います。

また、ドイツではボランティア団体が被害者支援を行っているということで、国選弁護制度が導入されたとしても、弁護士法の職業独占を認める必要はないのではないでしょうか。


依然としてよくわからない問題なのですが、このまま進むのはなんとなくよくないのではないかという感じがしているので、折を見てフォローしたいと思います。
また、単に私が良く調べもせずに脊髄反射的に文句を言っているだけなのかもしれませんので、制度の概要や論点などをご存知の方がいらしたら教えていただけると幸いです。



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裁判員の辞退事由に関する政令

2008-01-20 | 法律・裁判・弁護士

裁判員の辞退事由に関する政令が出たのでメモ代わり

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第十六条第八号に規定するやむを得ない事由を定める政令

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「法」という。)第十六条第八号に規定する政令で定めるやむを得ない事由は、次に掲げる事由とする。

ちなみに法16条は辞退事由として70歳以上、学生などをあげているほか第8号で

八  次に掲げる事由その他政令で定めるやむを得ない事由があり、裁判員の職務を行うこと又は裁判員候補者として第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭することが困難な者 

イ 重い疾病又は傷害により裁判所に出頭することが困難であること。 
ロ 介護又は養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族の介護又は養育を行う必要があること。 
ハ その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがあること。 
ニ 父母の葬式への出席その他の社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができないものがあること。

とあり、今回この「その他政令で定めるやむを得ない事由」が決まったというわけです。
その内容は

一 妊娠中であること又は出産の日から八週間を経過していないこと。
二 介護又は養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある親族(同居の親族を除く。)又は親族以外の同居人であって自らが継続的に介護又は養育を行っているものの介護又は養育を行う必要があること。
三 配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、直系の親族若しくは兄弟姉妹又はこれらの者以外の同居人が重い疾病又は傷害の治療を受ける場合において、その治療に伴い必要と認められる通院、入院又は退院に自らが付き添う必要があること。
四 妻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)又は子が出産する場合において、その出産に伴い必要と認められる入院若しくは退院に自らが付き添い、又は出産に自らが立ち会う必要があること。
五 住所又は居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり、裁判所に出頭することが困難であること。
六 前各号に掲げるもののほか、裁判員の職務を行い、又は裁判員候補者として法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭することにより、自己又は第三者に身体上、精神上又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由があること。

と、病気、介護関係などに限定されていて「仕事が忙しい」というのは辞退事由にはされませんでした。
その他の理由で辞退しようと思えば6号にあるように裁判所に出頭して「相当の理由」を説明する必要があります。実際はこれが多くなるのかもしれませんね。

ところで官報の末尾に  

附 則
この政令は、法の施行の日から施行する。
  法務大臣 鳩山邦夫
  内閣総理大臣 福田康夫

とあったのでふと思ったのですが、


「友達の友達がアルカイダだ」 というのを辞退の理由にしても、認められないんでしょうか?


多分だめだろうな・・・
(もともと国会議員や国務大臣は上の裁判員法15条でなれないんですけど)

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改正信託法も施行

2007-10-01 | 法律・裁判・弁護士

そういえばこちらも9月30日付でした。

改正の背景や概要は住友信託銀行 信託豆知識「信託法の改正」などをご参照ください。  

資産流動化のなかで倒産隔離のための「ハコ」としての信託が多用されていく中で、自己執行義務はどうなっているんだという金融庁からの突っ込みが信託業法(これは「信託業」を営むための金融庁の免許や監督のルールを定めた別の法律)の改正あたりから増えてきて、それに対するルールの明確化という意味もあるようです。  


また、今回の改正で自己信託により会社の事業の一部を信託に入れて資金調達などに使うことが出来るようになりました。

具体的には課題も多いようですが、今回のサブプライム問題などで資金調達が厳しくなった業界などで使うところがでるかもしれませんね。
不良債権問題華やかなりし頃には執行妨害のために民事信託を使うなどという輩もいたようですけど、そういう悪用例も出そうではあります。
でも世の中の進歩はそういう限界的なところ(後者の例は限界の外ですが)から生まれることが多い(平たく言えば「必要は発明の母」ですね)ので、動機が不純なもの意外は試行錯誤を温かい目で見守る必要があると思います。


話は変わりますが、信託について前から疑問に思っていたことは、バブル崩壊後の局面で日債銀や長銀は破たん処理をしたのに、同様に不動産関連融資が多かったはずの信託銀行はひとつも潰れず合併やグループによる救済や公的資金注入で処理したのはなぜなんだろう、ということです。
信託の制度上受託者の倒産からも信託財産は保護されているというのなら破たん処理も難しくないはずです。銀行としての規模は似たようなものだと思うので。

受託資産の分別管理といってもあくまでも制度上のフィクションなので、現実的には破たん処理が困難だったりするのでしょうか。
それとも、一度手放してしまうと再度免許を取るのは困難なので、メガバンク系列は必死で守ったのでしょうか。
または信託銀行の政治力が強かった?

どなたか詳しい方がいらっしゃったら教えてください。

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金融商品取引法施行

2007-09-30 | 法律・裁判・弁護士
本日9月30日から金融商品取引法が施行されます。

いままでのいわゆる証券会社だけでなく、ファンドの販売勧誘や運用を業としている者は「金融商品取引業」として、金融庁と財務局の監督下に置かれることになります。
そして、広告や勧誘時に商品のリスクを十分に説明することが求められたりと投資家保護がはかられます。
(詳しくはいわゆるファンド形態での販売・勧誘等業務について(金融庁HP)など参照)


一方でファンド側にとっては、販売等に関する規制において、投資家の属性により投資家保護に関する規制が柔軟化されます。



いわゆる









プロ(特定投資家)














アマ(一般投資家)






の区分です。


特定投資家(プロ)に対しては投資家保護の規制が緩やかになるのですが、一定の要件を満たせば、特定投資家のなかでも一般投資家扱いを求めることができたり、逆に一般投資家のなかでも特定投資家扱いを求めることが出来たりと、なかなか手続き的にはやっかいな部分も増えます。








なので、







金融商品取引業者としては







「素人専門」






などといううたい文句をゆめゆめ真に受けないようにしないといけません。


あ、逆ですね。

注意すべきはアマをプロと勘違いしてしまいう方がより問題です。
「未成年とは知らなかった」では済まないということです。







8月9月と大忙しだった方も沢山おられることと思いますが、息抜きになりましたでしょうか・・・



そして、来年の4月1日には足袋の画像だろ、と突っ込まれた方、これからもがんばってください。

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橋下弁護士の懲戒請求の呼びかけについて(その2)

2007-09-11 | 法律・裁判・弁護士

先々週のエントリで橋下弁護士の光市母子殺害弁護団への懲戒請求について触れましたが、あいかわらずヒートアップしているようです。

懲戒処分請求4000件超える 光母子殺害のTV発言で
(2007年9月8日(土)16:51 共同通信)

橋下弁護士が改めて弁護団批判 光市事件懲戒請求問題で
(2007年9月5日(水)20:32 朝日新聞)

山口県光市の母子殺害事件の差し戻し控訴審についてのテレビでの発言をめぐり、被告の元少年(26)の弁護団に加わる弁護士4人から損害賠償訴訟を起こされた橋下(はしもと)徹弁護士(大阪弁護士会所属)が5日、都内で記者会見を開き、「法律家として責任をもって発言した」と反論、全面的に争う方針を明らかにした。


ところで、9月1日の判例時報1971号で「弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が不法行為を構成する場合」という判例(最高裁平17(受)2126号、平成19年4月24日第三小法定判決)が紹介されていました。
(判決文全文はこちら)

この中で懲戒請求が不法行為を構成する要件として以下の判示がなされています。

同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。

判例時報の解説によると、従来同種の案件で下級審が準拠していた民事訴訟の提起が不法行為を構成するかについての判例(最三判昭63.1.26)の基準では「通常人であれば容易にそのことを知りえたのに」とされている部分が、本判決では「通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに」と、同じく「著しく相当性を欠く場合に限り」とされている部分が「相当性を欠くと認められるときには」と若干加重されています。

これは、弁護士の懲戒請求権は公益の観点から法律上認められた権利であり憲法上保障された裁判を受ける権利とは異なる(その分要件が加重されている)ことによるとされています。

さらに本判決には田原睦夫裁判官の補足意見があります。その中で

弁護士に対して懲戒請求がなされると,その請求を受けた弁護士会では,綱紀委員会において調査が開始されるが,被請求者たる弁護士は,その請求が全く根拠のないものであっても,それに対する反論や反証活動のために相当なエネルギーを割かれるとともに,たとえ根拠のない懲戒請求であっても,請求がなされた事実が外部に知られた場合には,それにより生じ得る誤解を解くためにも,相当のエネルギーを投じざるを得なくなり,それだけでも相当の負担となる。それに加えて,弁護士会に対して懲戒請求がなされて綱紀委員会の調査に付されると,その日以降,被請求者たる当該弁護士は,その手続が終了するまで,他の弁護士会への登録換え又は登録取消しの請求をすることができないと解されており(平成15年法律第128号による改正前の弁護士法63条1項。現行法では,同62条1項),その結果,その手続が係属している限りは,公務員への転職を希望する弁護士は,他の要件を満たしていても弁護士登録を取り消すことができないことから転職することができず,また,弁護士業務の新たな展開を図るべく,地方にて勤務しあるいは開業している弁護士は,東京や大阪等での勤務や開業を目指し,あるいは大都市から故郷に戻って業務を開始するべく,登録換えを請求することもできないのであって,弁護士の身分に対して重大な制約が課されることとなるのである。
弁護士に対して懲戒請求がなされることにより,上記のとおり被請求者たる弁護士の身分に非常に大きな制約が課され,また被請求者は,その反論のために相当な時間を割くことを強いられるとともに精神的にも大きな負担を生じることになることからして,法廷意見が指摘するとおり,懲戒請求をなす者は,その請求に際して,被請求者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について,調査,検討すべき義務を負うことは当然のことと言わなければならない。
殊に弁護士が自ら懲戒請求者となり,あるいは請求者の代理人等として関与する場合にあっては,根拠のない懲戒請求は,被請求者たる弁護士に多大な負担を課することになることにつき十分な思いを馳せるとともに,弁護士会に認められた懲戒制度は,弁護士自治の根幹を形成するものであって,懲戒請求の濫用は,現在の司法制度の重要な基盤をなす弁護士自治という,個々の弁護士自らの拠って立つ基盤そのものを傷つけることとなりかねないものであることにつき自覚すべきであって,慎重な対応が求められるものというべきである。

補足意見も、弁護士過疎地域問題を意識してか故郷に帰ろうとする弁護士のことまで心配するのはいかがなものかとは思いますが、この判例にてらすと橋下弁護士は「法律家として責任をもって発言した」というのであれば、少なくとも懲戒事由となる「事実上及び法律上裏付ける相当な根拠」について説明した上で懲戒を呼びかけるべきだったのではないか(私としては、そもそも個人的には呼びかけるくらいならとっとと自分で懲戒請求すればよかったんじゃないかと思うのですが)、ということになるのではないでしょうか。


また、もしも橋下弁護士の主張が正しかったとしても、4000件超の懲戒請求というのが現実化した場合に、逆に弁護士会がシュリンクしてしまい、弁護士自治の名の下に懲戒制度へのアクセスをより厳しくするような法改正を求めるようになり、橋下弁護士の行為は結果的に弁護士活動を「市民感覚」から遠ざけることになってしまうような気もします。



じゃあ、おまえの考えはどうなんだ、ということですが。

上告審の差戻判決(参照)では

原判決は,量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく,被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑を是認したものであって,その刑の量定は甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

などと、(全文を読むともっと厳しいのですが)要するに「死刑に相当するんじゃないか」と言っています。

そうだとすれば、死刑制度の是非を問う動きもあり、そうでなくても人の命を奪うという決定をするのであれば、その前に「言いたいことがあれば言わせよう」(そこで少なくとも死刑を覆すだけの根拠がなければやむをえない)という判断は自然だと思います。

なので、差戻審において検察官も裁判官も弁護側の主張に特に異議を唱えないのではないでしょうか。

確かに被害者の遺族にとっては「ドラえもん」云々というのは聞くに堪えないとは思います。
しかし自分は「真っ当な側」の人間である以上、ここは合法的に人の命を奪うプロセスとして我慢すべきところなのではないかと思います。
加害者に個人的に復讐をしたら自分が罪に問われてしまいますし、加害者が唾棄すべき人物であればあるほどその価値はないはずです。

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「タレントの橋下弁護士」の主張

2007-08-29 | 法律・裁判・弁護士

タレントの橋下弁護士を提訴へ 番組で弁護団の懲戒呼び掛け
(2007年8月27日(月)22:04 共同通信)

山口県光市・母子殺害事件で、被告の元少年(26)の弁護士が27日、テレビ番組の発言で業務を妨害されたとして、タレントとしても活動する橋下徹弁護士に損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こす方針を明らかにした。

報道を見る限りは弁護団の活動は差戻審の範囲を超えているようにも見えるのですが、被害者の感情を害する(やり方の行儀いい・悪いはあるものの立場上対立するのは仕方ないと思います)以外に悪質な遅延行為ということなかな、と思って橋下弁護士のブログを見るとこのように書いてあります。

一審・二審では被告人自身もその犯行態様を完全に認めており、最高裁までもその点については事実誤認は全くないとしていることについて、差し戻し審でこれまでの主張と全く異なる主張をするのであれば、なぜそのような新たな主張をすることになったのか、裁判制度に対する国民の信頼を失墜させないためにも、被害者や国民にきちんと説明する形で弁護活動をすべきだ。その点の説明をすっ飛ばして、新たな主張を展開し、裁判制度によって被害者をいたずらに振り回し、国民に弁護士というのはこんなふざけた主張をするものなんだと印象付けた今回の弁護団の弁護活動は完全に懲戒事由にあたる、というのが僕の主張の骨子です。

技術的なことはわからないのですが、あまりに唐突な新たな主張であれば、検察側が裁判官に申し立ててそのような主張をやめさせることはできないのでしょうか?
そういう制度がないと悪質な遅延行為は止まりませんよね。 
そして、検察なり裁判官がそのような主張を切って捨てないということは、(被害者の感情はあるとしても)弁護を受ける国民の権利の一環という判断があるのではないでしょうか。


素人的には「主張がけしからんから懲戒」という発想はあると思いますが、そうでなく上のようにややこしい専門的な理由があるなら、なぜ橋下弁護士は自ら懲戒を申し立てるべきだと思います。

それに、訴えた弁護士の方も、訴訟じゃなく懲戒請求すればいいんじゃないでしょうか。
それとも「タレント活動」は弁護士業務の外、ということなのですかね。


PS
ひょっとすると弁護士会が違うと弁護士会同士の仁義があって懲戒請求できないとか?(もしそうだとしたらそのギルド性の方が問題では・・・)

PS2
また、橋下弁護士の言う「ふざけた主張をする弁護士」というだけなら(民事事件だけの経験ですが)けっこういるように思うのですが・・・

*****************

9月11日関連したエントリを立てました(参照

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弁護士の失踪リスク

2007-07-10 | 法律・裁判・弁護士

前回のエントリの続きです。

OHT株の株価操縦だか鉄砲だかは知りませんが、弁護士の「失踪」というのは相当はた迷惑な行為です(自発的に失踪したのか、誰かに連れて行かれたのかは知りませんが。)。

六本木ヒルズの大家の森ビルも、契約解除するにも訴訟をして(しかも訴状は公示送達)判決を取って初めて明け渡しの強制執行ができます。
また、家具は動産競売にかけてしまえばいいですが、訴訟やM&A関係の書類も一緒に処分するとあとあと面倒な感じもしますので倉庫に保管しなけりゃいけないのでしょうか。

一方で依頼者側も、M&Aや訴訟の書類がたなざらしになっているというのはとても気持ちが悪いですし、かといって事務所に立ち入って自分の関係の書類を持ち出すこともできません。 こちらの新聞記事によると

代表らが所属する第一東京弁護士会は、残された若手たちに登録事務所を変えるようにアドバイスした。そのままにしておくと、六本木ヒルズの元の事務所で執務していると誤解を与えるためだ。

と、弁護士会もクライアントのことよりは所属若手弁護士のことを優先しているようです。

代表者の名前を冠している事務所ですから、おそらく代表者(ボス弁)がクライアントとの間を取り仕切っていたものと思われ、クライアントとしても、若手の先生にそのまま依頼をすればいいというわけでもないでしょう。
移籍先が訴訟などの相手方事務所の場合もあるでしょうし。


また、事務所に預けた書類に個人情報(M&Aのデューディリジェンスでの株主とか従業員情報とか)が含まれていて、それが散逸または行方不明になってしまった場合、依頼者は個人情報保護法上の委託先の監督義務(22条)違反に問われてしまうのでしょうか。
そうでなくても、情報の提供を受けた相手方に対しては守秘義務違反になりそうですね。

守秘義務契約には、情報を提供していい相手として「弁護士、会計士等の専門家」というのがあることが多いのですが、そこに「ただし、当該専門家が失踪した場合は責任を負わない」などという条項を付け加えなければならなくなります。

またJ-SOX法上は、全社的リスク管理として、弁護士に依頼する際には、万が一のときは提供した情報や書面を依頼者が取り戻せる権利を明記しないといけなくなるのでしょうか(執行を担保するために即決和解でも結ぶ?)


リスク管理をつきつめると、結局、ボス弁が一人の事務所は個人の信用リスクがあるので、大手ローファーム系にしか依頼できない、ということになってしまいます。

司法試験の合格者増に伴う新人弁護士の就職難とか、大手事務所への人気集中というような話を聞きますが、弁護士の先生方も企業にコンプライアンス経営を説きながらこのような事件が続くと、結局自分で自分の首を絞めているような感じもします。

そのうち、賠償責任保険に加入している弁護士に委任することがJ-SOXの条件になるかもしれませんね。


PS
大手でもあさひ狛のように空中分解してしまうところもあるので必ずしもローファーム一人勝ちとはいえないかもしれません。
(そういえばあさひ狛の弁護士の移転先でクライアントの取引相手方の仕事を受任していた場合のコンフリクトの問題はどうしているのでしょうか。)

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不愉快な記事

2007-07-09 | 法律・裁判・弁護士

OHT株巡り、弁護士が名義借り取引 株価急落し、失跡
(2007年07月07日06時14分 朝日新聞)  

事件は事件として問題なのですが、このような記事を載せる朝日新聞の品性のなさに腹が立ったので、全文引用してします。

新興IT企業や外資系金融機関が集まる六本木ヒルズ森タワー(東京都港区)にあった「椿総合法律事務所」が突然、解散した。代表の弁護士は連絡を絶ち失跡した。国際企業法務を主に手がける華やかなイメージの事務所に勤めていた若手弁護士たちは職場を失い、再就職先探しに追われる前代未聞の事態になった。代表には、5月に急落して巨額の損失を投資家側にもたらした株を巡り、知人の名義を借りて取引していた疑いが浮上している。  

同事務所は、グッドウィル・グループ(GWG)などと同じ森タワー34階にある。タワー竣工(しゅんこう)間もない03年夏に入居。04年以降は毎年、新人弁護士を複数採用した。ほかに森タワーに法律事務所を置くのは、実質的には、約140人の弁護士を擁する「TMI総合法律事務所」だけだった。  

行方不明になっている代表の男性(53)は87年に弁護士登録。外資系保険会社の日本進出に関与し、00年からは日本法人の取締役に就いていたが、連絡がつかないまま、今年6月末に任期満了で退任した。元ニュースキャスターとの結婚(その後離婚)で話題を呼んだこともある。  

関係者の話によると、代表が消息を絶ったのは5月。約2週間は国際電話などで連絡がとれ、若手弁護士たちに「事務所を閉めるので再就職先を探してほしい」などと伝言を残したが、6月に入ってからは連絡自体がとれなくなった、という。  

不明の原因の一つとみられているのが、5月中旬に株価が急落した株を巡る取引だ。急落したのは、東京証券取引所の新興企業向け市場「マザーズ」に上場する検査装置メーカー、オー・エイチ・ティー(OHT、広島県福山市)の株。顧客の損失を肩代わりせざるを得なくなった証券会社が数十億円規模の損害を被るおそれが出ている。  

関係者によると、OHTは05年6月に21億円の第三者割当増資を実施。行方不明になっている代表は、その引受先の選定にかかわったという。その後、知人の投資家=別の証券取引法違反罪で起訴=と協力してOHT株を購入し始め、知人など十数人から証券会社の口座名義を借りたという。  

外観上は大量の注文を分散して発注する形をとっており、取引が活発かのように装って株価を不正につり上げた疑いが指摘されている。  

株価は05年夏には20万円前後だったが急騰し、07年1月には上場来最高値の150万円をつけた。しかし、5月中旬に暴落。現在は20万円前後で推移している。  

事務所にいた若手弁護士は10人弱。一部は、不明騒動の直前に別の渉外事務所に移籍した。  

代表らが所属する第一東京弁護士会は、残された若手たちに登録事務所を変えるようにアドバイスした。そのままにしておくと、六本木ヒルズの元の事務所で執務していると誤解を与えるためだ。しかし、すぐに再就職先が見つかるわけではない。若手たちは、とりあえず自宅や知人の弁護士の事務所などを登録先にしながら新しい就職先を探しているという。  

第一東京弁護士会の井窪保彦副会長は「情報がなく、全く事情がわからない」と話している。

いまどき「ヒルズ族」ではないでしょうし、同じビルに入っているからといってグッドウィル・グループを引き合いに出す必要はないですし、TMI法律事務所もいい迷惑だと思います。それに「元妻のニュースキャスター」なんてのはまったく関係ないですよね。

しかも、代表者の姓を冠した事務所名まで出しておいて代表者の弁護士の氏名は匿名というところの配慮(多分刑事告発や指名手配される前だからでしょう)のバランスの悪さもひどいです。

それに「国際企業法務を主に手がける華やかなイメージの事務所に勤めていた若手弁護士たちは職場を失い、再就職先探しに追われる前代未聞の事態になった。」って、問題は信用取引の「鉄砲」とか株価操縦とか弁護士倫理の問題だったり、迷惑を蒙るのも勤めていた弁護士でなくクライアントの方ですよね。

派手に活躍していたた人がコケたのを喜んでいるだけのような記事を載せるなら週刊朝日かAERAにしたほうがよかったと思います。


と、本題に入る前に話が長くなってしまったので、続きはのちほど。

 

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書面化へのこだわり

2007-04-26 | 法律・裁判・弁護士

裁判員時代の公判調書、自動化なるか 方言認識など課題
(2007年4月25日(水)12:56 朝日新聞)

裁判員制度のもとで、証人や被告が法廷で話した内容を翌日には裁判員たちが確認できるよう、最高裁は審理中のやりとりを機械で文字化する「音声認識システム」の実用化を進めている。2年後の制度開始までに全地裁での導入を目指すが、言葉の認識率をどう高めるかがカギ。全国一律のシステムのため各地の方言、独特の言い回しへの対応が困難という課題も浮上している。

朝日新聞は裁判員制度に関心が強いようで、折に触れて取り上げていますね。


裁判官は証人尋問を何回もやっていると、「この証人はウソついてるな」となんとなくわかるそうです。
それが本当だとすると、利害関係のない第三者の証人がなんと言ったかを確認するためにはこういう仕組みがあればいいのでしょうが、証言の信憑性を判断するにはやはり全体的な印象というのも大事なのではないかと思います。

だとすると、裁判記録としての位置づけではなく裁判員の判断の補助のためには、ビデオにとっておく、というのが一番手っ取り早いと思うのですが、ビデオでは何か問題があるのでしょうか。

感情的な証言に影響を受ける恐れがあるとするなら、そもそも証人尋問に立ち会うことも問題、ということになりますよね。
とすると、もっぱら頭出しに時間がかかるとかが問題なんでしょうか?

少なくとも上の音声認識システムと併用すると効果は大きいように思います。

裁判記録としてまとめたり、判決を書くには調書にすることは必要でしょうし、書記官の負担軽減にも役立つと思うのですが、裁判員の判断に資するという意味では書面にこだわらなくてもいいのでは?

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