北越製紙の「独立委員会」が買収防衛策の発動を勧告しました。
対抗措置発動の勧告に関するお知らせ
王子製紙は、「本提案書における経営統合提案は、当該買収防衛策の対象となるものではなく、北越製紙取締役会が買収防衛策として一方的に定めたプロセスに、当社が従わなければならない法的根拠はいささかもないものと考えております。」旨を述べている。
(中略)
このように、王子製紙は、本防衛策に定める手続を遵守する意思が全くない旨を2 回にわたり取締役会決議をもって表明しているのみならず、その根拠として「法的な根拠のない」防衛策とまで述べているのである。 上記事実に鑑みれば、王子製紙が、本防衛策に従い、当委員会に対する買付説明書等の提供をする意思があるとは到底考えられず、今後も買付説明書等の提供があると期待することはできない。また、王子製紙がこのような態度に終始している以上、引き続き買付説明書等の提供を求めて王子製紙と協議・交渉を行うべき特段の事情があるものとも認められないと判断せざるを得ない。
(勧告書 第2 3「発動要件の該当性」 下線筆者)
よって、当委員会は、取締役会に対し、上記「第1 勧告の内容」記載の通り、対抗措置の発動を勧告する次第である。 上記のように、王子製紙が、本防衛策を無視し、事前の買付説明書等の提出をなさずに本公開買付けを開始したことは、当委員会の存在根拠自体を否定してのものであって、極めて遺憾であるという他ない。
(勧告書 第2 3「結論」 下線筆者)
判断の公正を保つための「独立委員会」にしては、やけに感情的な文章だと思います。
もともとの北越製紙の買収防衛策での独立委員会は、勧告・不勧告の意思決定のためには買収者に情報提供を求め、必要に応じて買収者と協議・交渉をするという役割が期待されています。
(買収防衛策の抜粋を末尾に添付します。)
その独立委員会が王子製紙のリリースを見ただけで、情報提供する意思があるとは「到底考えられず」「今後も期待できない」と一刀両断してしまっていいのでしょうか。
また王子のTOBが「当委員会の存在根拠自体を否定してのものであって、極めて遺憾」と怒っていますが、独立委員会は株主のために冷静な判断をするのが仕事であって、礼儀作法を云々する機関ではないと思います(そもそも「独立委員会」の会社法上の意味合いについては議論もあるわけで、「存在根拠を否定された」と怒るのはいかがなものかと)。
相手が失礼であろうとなかろうと、買収策の内容をできるだけ明らかににして株主に対して見解を示すよう最善の努力を尽くすのが独立委員会委員の義務だと思うのですが・・・
たとえて言えば、独立委員会はいわば地域紛争における国連安全保障理事会のようなものですから「失礼だ」と腹をたてて外交努力(=情報開示を求める努力)を放棄するのは職務を果たしているとは言えないと思います。
しかもそのうえで
当委員会としては、取締役会に対し、当委員会の勧告に従って本公開買付けに対する対抗措置の発動を決議する際には、対抗措置発動の必要性、対抗措置発動の北越製紙または北越製紙株主等に与える影響その他諸般の事情を考慮の上、発動の時期について適切に判断されるべきものと思料する。
というコメントを付加するのはいささか無責任ではないでしょうか。
私としては、独立委員会はこの勧告を出す前に少なくとも王子側に対して期間を定めて買付説明書の提示を求める、という「最後のチャンス」を与えるべきだったと思います。
北越が独立委員会の勧告を防衛策発動の正当性の根拠にしようとした場合に、客観性のある(適正な手続きに基づいた)勧告と評価されない可能性があるのではないでしょうか。
PS
実際は独立委員会の勧告の作成には(勧告の意思決定でなく「勧告書のまとめ方についての法的助言」などという理屈をつけて)北越の弁護士のアドバイスが入っていると思うのですが、それにしてはちょっと慎重さに欠けたような気がします。
逆に、本当に独立委員会が「独立」していて、全く北越に事前予告もなく1文字の修正もなくこれが出てきたとするなら、独立委員会にプライドの高い大物をおきすぎたことの弊害が出たか、そもそも独立委員会が現経営陣のシンパだということを露呈してしまったのではないでしょうか。
<参考:北越製紙の買収防衛策(抜粋)>
なお、独立委員会は、買付者等が本プランに定められた手続に従うことなく買付等を開始したものと認められる場合には、引き続き買付説明書及び本必要情報の提出を求めて買付者等と協議・交渉等を行うべき特段の事情がある場合を除き、 原則として、下記(d)①記載のとおり、当社取締役会に対して、対抗措置を発動することを勧告します。
(3.(2)(b) 下線筆者)
また、独立委員会は、必要があれば、当社の企業価値・株主共同の利益の確保・向上という観点から当該買付等の内容を改善させるために、直接又は間接に、当該買付者等と協議・交渉を行うものとします。
(3.(2)(b) 下線筆者)
独立委員会は、買付者等の買付等の内容の検討、買付者等との協議・交渉の結果、買付者等による買付等が下記(3)「対抗措置発動の要件」に定める要件のいずれにも該当しないか、もしくは該当しても対抗措置を発動することが相当でないと判断した場合、又は当社取締役会が独立委員会の要求にかかわらず上記(c)①に規定する意見及び独立委員会が要求する情報・資料等を所定期間内に提示しなかった場合には、独立委員会検討期間の終了の有無を問わず、当社取締役会に対して、対抗措置の不発動を勧告します。
(3.(2)(d)② 下線筆者)
(a) 上記(2)「対抗措置の発動に係る手続」(b)に定める情報提供及び独立委員会検討期間の確保その他本プランに定める手続を遵守しない買付等である場合
(3.(3)「対抗措置発動の要件」)
なお、独立委員会の各委員及び当社各取締役は、こうした決定にあたっては、当社の企業価値ひいては株主共同の利益に資するか否かの観点からこれを行うことを要し、専ら自己又は当社の経営陣の個人的利益を図ることを目的としてはならない。
(別紙2「独立委員会規定の概要」)