パトリシア・ハイスミスは『見知らぬ乗客』(1950)『太陽がいっぱい(リプリー)』(1955)の映画化などで有名になり、50年代から90年代まで活躍した作家です。(詳細はWikipedia参照)
書店の棚に並んでいるのをよく見ていたのですが、実際に読むのは初めて。
解説によると90年代に日本で再ブームになったらしいので、その頃の印象かも知れません。
タイトルにもあるように、本書は短編集。
ハイスミスはカテゴリとしてはミステリ作家に分類されるのでしょうが、ミステリの枠を超えた人間心理描き方が巧みです。
登場人物の思いが現実と微妙にずれながら破綻に向かうという「人生に裏切られる瞬間」がぞっとするくらい鮮やかな切り口で目の前に示されます。
カタルシスとは正反対の落ち着かない読後感は独特のもので、それだけに病み付きになりそう。
長編はどんな感じなのかも興味があります。
後世の作品で踏襲されたようなプロットの作品もいくつかあり、その影響力の大きさもうかがわせます。
なのでストーリーには触れません。
(その意味ではミステリ作家は後になればなるほどオリジナリティを出すのが大変だなとつくづく思います。)
ちなみに11の物語のタイトルはこんな感じです。
- 「かたつむり観察者」
- 「恋盗人」
- 「すっぽん」
- 「モビールに艦隊が入港したとき」
- 「クレイヴァリング教授の新発見」
- 「愛の叫び」
- 「アフトン夫人の優雅な生活」
- 「ヒロイン」
- 「もうひとつの橋」
- 「野蛮人たち」
- 「からっぽの巣箱」
僕はこの中では4.7.8がオススメです。