著者の森田朗氏は、現職は国立社会保障・人口問題研究所所長で、同時に中央社会保険医療協議会会長その他政府の審議会の座長や委員を数多く歴任している。
本書は前著『会議の政治学』のあとがきで「本書は初級・中級編である」と書かれたこともあり、関係各所の期待が高まる中での満を持しての続編である。
本書では審議会における「顔」の立て方-相手の「顔」をつぶさず、自分の顔も立てつつ議論を自分に有利に進める(座長の場合は議事を円滑に進める)テクニックを中心に論じている。
本書の内容も、前著同様、政府の審議会だけでなく会社での会議への応用も効く。
たとえば意思決定者が主宰する「御前会議」や同席している「臨席会議」における委員のふるまい方などの分析は面白い。
また前著との間の一番のイベントであった民主党への政権交代と「政治主導」下における審議会の功罪についてもふれている。
これまで審議会等で同席した大臣その他の政務の諸氏の印象をあえていえば、かなりの方がよく勉強して、専門知識の基本を習得している上に、いわゆる有識者の発想を超え、広く社会状況を考慮された思考を示されていたと思う(中略)。
しかし、多くの政務の諸氏は、忙しすぎるのか、関心がないのか、基本的にその課題についての知識を欠いているのか、長年にわたって蓄積してきた専門的知識を充分に理解しないままに、自身の経験と知識のみで判断していたように思う。
そうした政治家も、自身で自分の能力の限界をよく理解している人は、謙虚に議論の流れを尊重し、議論の本質に関わるような点については、極力触れないようにする配慮を示す。しかし、自己の能力を客観的に把握できない人もたまにいて、彼らは、政治家としての威信を示そうとして、余計な意見を述べる傾向にある。
ここの「大臣その他の政務の諸氏の・・・かなりの方」と「多くの政務の諸氏」、「たまに」いる自己の能力を客観的に把握できない人という書きぶりなどは、まさに相手の「顔」をつぶさないようにしながらも自らの主張を通す技法の面目躍如といえよう。
読むほどに味わい深い本である。