一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『アリスのままで』(ネタバレ)

2015-06-16 | キネマ

今回の飛行機での唯一の未公開映画がこれ。

日本は6/27公開なのでネタバレで失礼します。
いい映画ですので、劇場でご覧になる予定の方はスルーしてください。



家庭もキャリアも順風満帆な、しかも言語学の教授である主人公のアリスが、若年性認知症を発症しそれが進行する中で自分自身、家族と向き合う、という話。
アメリカのインテリ一家という個人がそれぞれ自立した上での家族という設定なだけにウェットに流れず真剣に向き合う考えさせる映画になっています。

主人公は認知症が進んで自分としてのアイデンティティ失われたときに備え、将来の自分に自殺を働きかけるよう周到に準備しますが、認知症が進むと自殺もできなくなってしまうという現実が衝撃でもあり救いでもあります。


このことに関して帰国後示唆に富む記事がありました。
みんなのミシマガジン 4月号 今月の特集「Born to Walk! 〜「心の時代」の次を探して」
ノンフィクション作家の最相葉月さんと能楽師の安田登さんの対談です。 (以下抜粋して引用)

最相
ええ、脳の時間はリニアではないようなのです。認知症の当事者として、世界ではじめて国際アルツハイマー病協会の理事となったクリスティーン・ブライデンという女性のことも頭に浮かびました。
彼女は『私は私になっていく』(クリエイツかもがわ)という本を出していて、その中で、永遠に今を生きることは新しい生き方だということに気づき、自分の認知症を肯定的に捉えられるようになったと書いています。

安田
あくまで僕の想像ですが、これまでのリニアな時間、比ゆ的にいうとヨコの時間が立体的に、あるいはタテになるなんじゃないかと思っています。過去と現在と未来が順番に訪れるのではなく、それらのすべての時間がある瞬間に含まれているような、そういう時間の認知の仕方に変わるのではないかと推測しています。
いまお話しくださった認知症の方の時間認知は、僕が想像していた「心の次」の認知のイメージと重なります。  そういう認知を、社会的には「認知症」という病気として理解していますが、それはひょっとすると、現代の人間がそういう時間認知に慣れていないだけなのかもしれません。

安田
認知症の研究をされていた大井玄先生から、僕も興味深いお話を伺ったことがあります。認知症というと徘徊とお漏らしが問題にされますが、「○○してはいけない」という禁止を課さなければ、 認知症でも徘徊もお漏らしも起きないという話です。

最相
すごいお話ですね。徘徊のほうはいかがでしょうか。

安田
驚いたのは、施設では門にカギをかけないと言うのですね。各人が自分の意志で外出していくわけですが、道に迷うこともなくちゃんと戻ってくる。みなさん自分が戻ってこられそうな距離感を見極めて、それより遠出はしないんだそうです。

認知症患者は普段の我々のように過去とのつながっている現在でなく、現在をありのままに幸せに生きている、というのは、親族が認知症になった時の接し方や、将来認知症になった自分を今の価値観で判断すること-たとえば映画のように現在の基準で将来の自分を殺すこと-の是非を考えるうえで大きな示唆になると思います。




 

コメント
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