一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

「派遣切り」問題

2008-12-18 | よしなしごと

派遣労働者の解雇については喫緊の社会問題としては何らかの対応をすべきだとは思いますが、感情的な報道や意見が多いことにちょっと違和感を感じています。
一過性な同情論や企業悪者論では解決にならないように思います。

派遣契約の打ち切りなどにについても既に厚生労働省の指針があるので末尾に備忘のために引用します。  


派遣契約のややこしいところは、派遣社員は派遣会社との契約に従って派遣先企業で就業するわけで、派遣先企業は個々の派遣社員と直接の契約関係にない、という点にあります。
したがって損害賠償や契約解除の理由説明も派遣スタッフに対してでなく派遣会社に対して行うことになります(指針6(4)(5))。
つまり契約上は派遣スタッフに対しては派遣先企業は債務はないわけで(職場環境の維持などの義務はあるけど)、確かにいきなり生活の糧を失うということに対して
は何らかのセーフティネットが必要だとは思いますが、それは直接には派遣先企業の責任ではない、とういうことになります。

行政は早速対応を始めています。
派遣切り住宅相談、初日は1267件(2008年12月16日(火)13:16 朝日新聞)
地元メーカーから派遣契約を切られた人向けに住宅の提供を行う自治体も出はじめたようですが、好景気のときは税収入で潤ったという部分もあるわけで、緊急対策というだけでなく、人々が働きやすく企業も進出しやすい政策を取る自治体は長い目で見れば競争力を持つことになると思います。

ちょっと気になるのが、契約打ち切りをする企業だけクローズアップされていて、派遣会社のコメントが被害者風なところ。たとえばこんなやつ
派遣切り:救えないのがつらい…派遣会社社員が苦悩訴え
(2008年12月16日 毎日新聞)

仕事をもらう派遣会社の社員としては、メーカーに声を上げることもできない。社員は「路頭に迷う労働者を救えないのがつらい。すごく切ない」と打ち明けた。

社員は「メーカーは今まで安い賃金で大もうけしたのだから、その分を派遣労働者に返してほしい。せめて安心して働かせてやってほしい」と話した。

安い賃金から寺銭を取っていたのは派遣会社じゃないんですかね?
しかも「仕事をもらうから強いことがいえない」というのであれば、ほとんど口入稼業と同じと言ってるようなものではないでしょうか。

指針にもあるように契約期間中の解除は派遣会社に対して損害賠償がされるのですから、逆に期間内解約についてはきちんとペナルティを取って(今まで儲けさせてもらった)派遣スタッフに還元するというのが派遣会社の示すべき姿勢なのではないでしょうか。


ただ、前のエントリで引用した高木・連合会長のように正社員と同等の権利を主張するのも無理があると思います。  
指針も一方で、派遣労働の提供により常用雇用者の雇用が損なわれないようにとの配慮も求めていますし(指針15)。 

全体のパイ(=売上や利益)が減っている名から人を減らさないとすると正社員も含めて給与水準を下げるとかワークシェアリングを導入する必要があります。
でも、派遣の雇用を維持するために正社員の給与を下げる、というのは(連合も含め)正社員の納得が得られないと思います。(正社員でいることでの我慢だってあるんだ、という話も出てくるでしょう。)

また、企業に対しても「契約打ち切りはけしからん」と叩くだけでなく、たとえば「指針どおりの30日前予告でなく、年末年始が入る事も考えると45日~60日くらいの猶予を」くらいの受けられるかもしれない球を投げたほうがいいように思います。


「気の毒」「かわいそう」という同情論は月日がたってニュースとしての新鮮味がなくなるにつれ「当初から承知されたリスクのはず」「派遣労働者が現に失業している人より優遇されるのはおかしい」「自助努力が足りない」という自己責任論に容易に変化しがちだと思います。
正社員の求職希望と求人希望のギャップをどう埋めるかという雇用政策(これはつきつめると雇用の流動化、年功賃金・終身雇用を前提とした退職金優遇税制や企業年金制度の見直しにつながる可能性もあり、それが本当にいいのかという議論にもなると思います)と、失業した場合のセーフティネットの問題として深堀りした分析が必要だと思います。  

それに何より景気対策が重要です。

****************************

派遣先が講ずべき措置に関する指針
(平成11年労働省告示第138号)(最終改正平成19年厚生労働省告示第50号)

6 派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
(1) 労働者派遣契約の締結に際して配慮すべき事項派遣先は、労働者派遣契約の締結に際し、労働者派遣の期間を定めるに当たっては、派遣元事業主と協力しつつ、当該派遣先において労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間を勘案して可能な限り長く定める等、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めること。
(2) 労働者派遣契約の解除の事前の申入れ派遣先は、専ら派遣先に起因する事由により、労働者派遣契約の契約期間が満了する前の解除を行おうとする場合には、派遣元事業主の合意を得ることはもとより、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと。
(3) 派遣先における就業機会の確保派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の責に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該派遣先の関連会社での就業をあっせんする等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。
(4) 損害賠償等に係る適切な措置派遣先は、派遣先の責に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとし、これができないときには、労働者派遣契約の解除を行おうとする日の少なくとも30日前に派遣元事業主に対しその旨の予告を行わなければならないこと。当該予告を行わない派遣先は、速やかに、当該派遣労働者の少なくとも30日分以上の賃金に相当する額について損害の賠償を行わなければならないこと。派遣先が予告をした日から労働者派遣契約の解除を行おうとする日までの期間が30日に満たない場合には、少なくとも労働者派遣契約の解除を行おうとする日の30日前の日から当該予告の日までの期間の日数分以上の賃金に相当する額について行わなければならないこと。その他派遣先は派遣元事業主と十分に協議した上で適切な善後処理方策を講ずること。また、派遣元事業主及び派遣先の双方の責に帰すべき事由がある場合には、派遣元事業主及び派遣先のそれぞれの責に帰すべき部分の割合についても十分に考慮すること。 
(5) 派遣先は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行う場合であって、派遣元事業主から請求があったときは、労働者派遣契約の解除を行う理由を当該派遣元事業主に対し明らかにすること。  

15 労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間に係る意見聴取の適切かつ確実な実施 
(2) 派遣先は、過半数組合等から、労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間が適当でない旨の意見を受けた場合には、当該意見に対する派遣先の考え方を過半数組合等に説明すること、当該意見を勘案して労働者派遣の役務の提供を受けようとする期間について再検討を加えること等により、過半数組合等の意見を十分に尊重するよう努めること。 
16 雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストへの派遣労働者の受け入れ
派遣先は、雇用調整により解雇した労働者が就いていたポストに、当該解雇後3箇月以内に派遣労働者を受け入れる場合には、必要最小限度の労働者派遣の期間を定めるとともに、当該派遣先に雇用される労働者に対し労働者派遣の役務の提供を受ける理由を説明する等、適切な措置を講じ、派遣先の労働者の理解が得られるよう努めること。


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4 コメント

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Re:派遣切りについて (go2c)
2009-02-02 08:08:27
SINさん、コメントありがとうございます。

>確かに、派遣としてしか生活できない方たちも居るでしょう、ただ今回問題の中心となっている方たちの中に、何人が派遣としてしか生活が出来ない人間が居たのでしょうか?


確かにここのご指摘は最近の議論に抜け落ちている部分で、病気や家庭の事情でパートタイム的な仕事や補助的な仕事しか得られない人についてはセーフティネットの問題と、実は正社員がよかったと気がついた人の職業訓練の問題はわけて考えたほうがいいと思います。
報道では両方の例が「派遣切り」という切り口で取り上げられていますね。

逆に言えば正社員はあまりスキルを問われずに(現在の法制度では)保護されているという部分もあり、これは突き詰めていけば「人の能力を査定するのは難しい」というところに行き着くわけです(極端な例が超高額報酬を取っていたウォール街の経営者が会社を破綻に追い込んだことですね)。

本来派遣や有期雇用にも、単純労働の補填と「スキルをばら売りしてもらう」という二つの切り口があって、後者は逆に正社員よりも高い給料をとってもおかしくないわけです。
ただ実際は有資格者とか別の企業での実績があって退職した人意外はなかなか評価されにくいわけです。
確かに現在は「紹介予定派遣」という制度もあるので、安定的な処遇を目指すのであれば商会予定派遣などにエントリするという選択肢もあったかもしれませんね(現実はものすごい狭き門なのかもしれませんが)。




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派遣切りに付いて (SIN)
2009-02-02 01:44:17
初めまして、SINと申します。
今社会問題となっている派遣切りですが、自分も派遣社員として働いていた経験もあり、短期雇用・長期雇用は別として派遣とは元々企業がある程度のスキルや経験を元に臨時で雇用をする為にあると自分は考えます。

なので、会社自体は景気が悪くなればまずは自社の存続を最優先に考えるものだと思います。

その中で正社員は雇用契約等の問題により解雇は難しいと考えた場合、真っ先に解雇されるのは派遣の人間だと思います。
↑企業がわから見た意見ですけど。

派遣会社自体も仕事がなければ契約している人間(派遣)に退寮を申し出てもおかしくないと思います。
(自社の存続の為に経費削減の意味も含めて)

その状況の中で景気が悪くなれば自分たちが解雇されるかもしれないと思いながら仕事をしてきた派遣社員は何人居るのか?

派遣先の企業から解雇を言い渡され、契約している派遣会社から退寮を求められたら不当解雇と言い。

自分の中で派遣と言う社会の歯車の一部で満足して新たな道を模索せず、仕事が無いと言う理由だけで企業(雇用・派遣共に)に対して不満をぶつけるのはおかど違いだと自分は考えます。

確かに、派遣としてしか生活できない方たちも居るでしょう、ただ今回問題の中心となっている方たちの中に、何人が派遣としてしか生活が出来ない人間が居たのでしょうか?

仕事が無い?介護・農業・サービス業・・・その他色々と探せばあると思います。

自分が生きて行く為に本当に派遣が問題だと認識さえしていれば、今回の大不況の中でもこういった不満等は出てこないと思います。

仕事が無い・・・あっても今の給料よりも安い・・・だから??

生活の為には働かなければ何も出来ないと思います。

今回の大不況の中で解雇されたのは何も派遣の方たちだけではないのです。

正社員として働いていた方たちも解雇されています。

その状況を見て派遣の方たちはなぜ、あそこまで自己中心的なのでしょうか?

国が何もしてこなかった?

派遣という状況に自分が身を置いた状況やその中での生活態度をもう一度考えなおさなければ国が景気を回復させないから、俺たちは企業から切られ派遣を続けられず寮を追い出されテント生活を強いられていると思ってしまうのではないでしょうか?

なぜ、派遣と言う雇用に対してのリスク等を自分で確認し、何時何があっても良いように自分で己のスキルを磨いたり貯金をしたり、新しい業種への移動を考えていなかったのでしょうか?

今の派遣切りや現在も派遣として働いている方たちは、この大不況に陥って慌てるだけで、この先の事を考えているのでしょうか?

たまたまこのページを見つけたので自分の思いを書き込んで見ました。

もし、迷惑でしたら削除していただいても結構です。

長文・乱文失礼します。

では、失礼します。
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セーフティーネット (go2c)
2008-12-19 01:44:51
ユーリャさん、ごぶさたです。

ご指摘の通り、うまく回っているうちは問題が表面化しないで日常に流れちゃうんですよね。
それは正社員の雇用のありかたも同様ですw

経済原理から言えば派遣社員は派遣先にすれば契約解除のオプションを持った雇用形態なので、本来はオプション料(派遣社員側から見れば不安定な立場に対する対価)が時給に上乗せされてしかるべきはずです。
実際、派遣の制度が出来た当時は時給に換算すると派遣社員の方が正社員より高くて、ほんとの一時的な助っ人でない限りは正社員で雇ったほうが安いという時代があったように思います。

結果的に価格形成のメカニズムがずれたことに気がつかない(または指摘しない)ままにきたことも、今回の問題の表面化の一因になったように思います。
(値付けの体系自体が間違っていたという意味ではサブプライム問題と似ているかもしれませんね)


また、失業に対するセーフティネットは派遣社員だけに限らず失業一般の問題として議論すべきだと思います。
「派遣社員がかわいそう」という議論だと、町工場の正社員の方が大変とかニートはどうするとか「どっちがより気の毒」という袋小路に入ってしまうのではと危惧しています。

返信する
派遣あるいは請負 (ユーリャ)
2008-12-18 12:39:54
私は派遣も請負も経験があるのですが、
去年(2007年)くらいから、この制度に何らかのセーフティネットが絶対必要だと思っていました。実際に仕事が切れてしまったからです。(笑)
でも、実際にこの問題に気がついて手当をしてくれる人はいないし、労働組合に行って説明しても大抵は理解できないか、ひどい場合は、労働組合っていうのは、ぜいぜいパートくらいまでしかフォローしないのだ、とのたまった組合関係者もいました。
要は、新しい働き方のヤバイ部分に、企業は神武景気依頼の好景気(実は経費を削っていただけ)に浮かれ、組合はいつかベースアップを(正社員だけ)とだけ考え、政治家(働き方には無頓着)、派遣会社(ただの口入屋)は知らんぷり。
働き手も仕事があればいいや(いつか切られることを考えるより、継続的に仕事を供給されるという幻想)で見てこなかったツケですよね。
とはいえ、実際に家を失ったり、貯蓄がなかったりすることは、切実なので、みんなが少し知恵を絞って、この負の部分をフォローしていく気になったということは評価すべきかもしれませんね。
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