一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『その数学が戦略を決める』

2009-06-29 | 乱読日記

著者のイアン・エアーズはイェール大学の経済学部と法学部の教授でデータ分析を元にした意思決定の研究で『ヤバい経済学』のスティーブン・レビットなどとも共著があるそうですが、本書は『ヤバい経済学』で振れられた統計分析の手法が実際のマーケティングなどでどのように役立てられているかから説き起こし、統計分析の手法が今までの「専門家」の牙城をどのように切り崩しているかを語っています。

コンピューターの記憶容量と計算速度が飛躍的に向上したために極めて大量のデータを回帰分析にかけて、有意な因果関係を探ることが可能になったというのが本書のテーマです。

原題は"Super Crunchers - Why thinking-by-numbers is the new way to be smart"といいますが、すべてのデータを噛み砕く(crunch)ように取り込んで定量分析にかけてしまうというイメージなのでしょうが、訳語では「絶対計算」という表現を使い、けっこうこれが刺激的な効果を出しています。(これに対応する原文の単語はなんなんでしょうか)

本書では、絶対計算はすべての領域で専門家の予測よりいい結果を出していることについて、これでもか、というくらい具体例を挙げています。
そしてそれに対する専門家の反論(「自分のやることは定量化できない」というはのはわかりますが、「専門家は自分の専門領域以外については絶対計算に抵抗がない」というのはさもありなん、という感じではあります)に対して、これまた具体的に論破しています。
ここのところはとても刺激的です。

しかし、これが進むとジョージ・オーウェルの『1984』の世界(といっても現在はそこから四半世紀経っちゃってるんでご存じない方も多いでしょうか)、つまり個人の行動はすべて監視され・分析されてしまい、現場の人間は判断を奪われて地位が低下し、計算が間違った場合に検証不能になる、というデメリットも著者は当然認識しています(多分法学部の教授という部分はこういうことに対する対策の研究も含まれているのでしょう)。

そのためには、著者は我々一般人も、少しの統計の基礎知識と統計的な考え方を持つことを勧めています。

また絶対計算は専門家の予測に勝るとはいうものの、そもそもどのような統計分析を行うかについては専門家の直感が必要で、「今後の意志決定者はますます、直感とデータに基づく意思決定とを何度も切り替えつつ仕事をするようになる」といいます。  

直感は、データについて直感を持たない数値分析者たちの見逃しがちな新しい質問を問うよう導いてくれる。そしてデータベースはますます意思決定者たちに自分の直感を試せるようにしてくれる--それも一回限りではなく、リアルタイムで継続的に。

この「絶対計算」の手法をかなり前からマーケティングに使っているのがコンビニエンス・ストアで、それだけに僕としてはセブンイレブンに公取委の排除命令のエントリではセブンイレブンに対して厳しい言い方をしたというのもあります。


「絶対計算」が行き過ぎる世の中は不安という部分は確かにありますが、結局は意思決定の手段であり、意思決定の目的とその結果というところでチェックするしかないのかな、とも思っています(旧来の意思決定ですらよこしまな目的を持つ可能性もあるわけですから)。
 
  


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