一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『線路を楽しむ鉄道学』

2010-02-23 | 乱読日記

地図・地形から鉄道路線を味わう本です。  

まえがきにもあるように、著者は「鉄道好きの地図マニア」で、プロフィールを見ると趣味が嵩じて地図の研究者(日本国際地図学会評議員でもあります)になったという筋金入りの人です。  

線路のルート、トンネルや橋の位置は、土地の形状やそれぞれの時代の機関車の性能や土木技術を反映しています。本書は鉄道線路から、開通時の時代背景を読み解いてゆきます。  
鉄道マニアのはしくれとしては「どこに何がある」というところはそこそこ知っているのですが、「なぜそこにそれがあるか」まで掘り起こしている本書の視点は興味の幅を広げてくれます。  


著者はそれぞれの鉄道はその時代の技術力や鉄道への需要などを反映したものであるとして、本書の随所で「鉄道忌避伝説」「我田引鉄史観」を批判しています。
そして、線路が迂回していることも、急勾配を回避したり架橋可能な場所を通るための当時の技術を反映したり、もともと複数の私鉄路線を統合したためだったりすることが理由だと冷静に分析します。

先日の工事騒音で牛暴れる、福島県などに賠償命令というニュースなどを見ると「昔は鉄道は嫌悪施設で牛の乳の出が悪くなるなどと言われていた」などと僕ももっともらしく言いたくなってしまいますが、それは俗説であると明らかにします。(これについては別に専門の研究をされている人もいるようです。)   


もう一つ、地図マニアの面目躍如たるところは、古い時代の地図との比較です。
古い地図と比較することで、蒸気機関車からディーゼル、電気機関車に変わる中での鉄道路線の変化や、産業の栄枯盛衰に伴う路線の改廃などを詳細に追跡します。 
そして、地名に対するこだわりも見どころの一つです。  

ちょうど、東京メトロ千代田線の「明治神宮前」駅が3月6日から「明治神宮前<原宿>」に変わります。
マスコミ報道では「明治神宮前」駅は原宿エリアの最寄り駅だが若者への浸透度はいまひとつなので「原宿」に加えることで利用を促すためとしています。 
しかし、本書によれば、もともとここは「原宿」の方が由緒正しいのだそうです。  

千代田線が昭和47年10月20日に開通した際に原宿駅直近にできたのが明治神宮前駅。建設中の仮称駅名は原宿だったが。わざわざ変更した。これにより従来銀座線で「神宮前」を名乗ってきた駅は表参道に改称している。ついでながら原宿という鎌倉時代以来の由緒ある地名も、昭和42年の住居表示実施の際に、やはり歴史ある隠田(おんでん)の地名と一緒に「神宮前と言う地名らしからぬ地名に変えられた。駅名もそれに影響されたのだろうが、なぜ「原宿」という地名がそれほど避けられたのか理解に苦しむところだ。JRのほうはあの瀟洒な駅舎とともに、ずっと原宿を名乗り続けてもらいたいものである。

本書執筆時には駅名変更の話はまだ出ていませんでしたが、今回の変更は著者も「一歩前進」と納得していることでしょう。

ちなみにWikipediaによると、1938年に渋谷-虎ノ門間が開通したときは「渋谷-青山六丁目-青山四丁目-青山一丁目」というバス停のような駅名だったのが、翌年虎ノ門-新橋間が開通して浅草まで直通運転になったときに「渋谷-神宮前-外苑前-青山一丁目」という名所案内風の駅名に変更し、それが長い間続いた後千代田線の開通に伴い昭和42年に「神宮前」が表参道になったのだそうです。


こんな感じで、(少なくとも鉄道に興味がある人にとっては)面白い話や興味のきっかけになる話が満載の本です。


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