一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『古代ローマ人の24時間』

2010-11-25 | 乱読日記
ローマ時代の浴場技師が日本にタイムスリップして日本の習慣をローマに生かすというマンガ『テルマエ・ロマエ』
ローマの風景や習俗がかなり精緻に描くことで荒唐無稽な設定に妙な説得力が加わって面白いのですが、第2巻が出たところで表題の本を見つけたので、予習もかねて購入。


本書はローマ帝国がその版図をもっとも拡大して隆盛を誇った期限115年のとある1日を、考古学の最新の成果を盛り込んで再現したものです。

科学技術以外はほとんど現代の都市(日本も含めた)と似たような状況や問題を抱えていたと同時に、それを解決する工夫も現代に通じるものがあると驚かされます。

たとえば人口が過密だったローマでは、インスラと呼ばれる7階建てくらいの高層建物が乱立したこと。
そしてエレベーターや消防設備がない時代なので上に行くほど不便でかつ危険なので富裕層は1階に住んで上に行くほど貧困層が住んでいたこと(これは今の日本のタワーマンションと逆ですね)。
そのインスラは家主が管理人に2階以上の住戸を全て貸す代わりに建物全体の管理を任せ、1階(富裕層)の家賃を実収入にするというしくみができていたそうです(現代のサブリース業者みたいです)。

また、ローマでは上下水道が整備されていたことには驚かされますし、尿は洗濯の洗剤代わりに使うために専門の業者が買い上げていったことは、用途こそ違え江戸時代のし尿の回収を思い出させます。

昔から人の営みというのはおおもとのところでは変わってないとつくづく思います。


当時と現代の一番の違いは奴隷制度の有無ですが、当時のローマ人が奴隷をどのようなものと考えていたかについて、本書では現代人における家電製品や設備に例えて巧みに解説しています。
つまり、科学技術が生み出した製品が奴隷に代替したのが現代だということです。

たとえば
・洗濯女に代わる洗濯機
・調理するコックや奴隷に代わるガスコンロや電子レンジなどの調理器具
・給水場まで水を汲みに行っていた奴隷に代わる水道
・氷を家に運ぶ奴隷に代わる冷蔵庫
・室内の掃除をする奴隷に代わる掃除機や食器洗い機
・家や公共浴場での湯沸し奴隷に代わる給湯器
・明かりをつける奴隷に代わる電球
・火鉢に火を起こす奴隷に代わる暖房機器
・余興(歌舞音曲・詩の朗読)を担当する奴隷に代わるラジオ・テレビ、CD・DVD
・書記(手紙の口述筆記など)や秘書の代わりのタイプライターやパソコン
・臥輿や座輿に代わる自動車、灯り持ちに代わるライト
・理容師・美容師の奴隷に代わるシェーバー、ヘアドライヤー・脱毛器
など
ローマの平均的な邸宅で使う奴隷の数が5~12人にのぼるのが多いかどうかは、自宅の家電製品の数と比べてみるといい、と言います。
そして(現代の眼から見て道徳的な是非はさておき)、われわれは家電製品を手荒く扱ったり、故障したり古くなったりすれば新しいものと取り替えるし、それで気がとがめることもないのと同じだと。


現在から過去を断罪することは簡単だけど、それだけでは何も生まないという例をもう一つ挙げるとすると、この前の生物多様性条約のCOP10で議論になった過去の生物資源から得た利益の還元に関連した話もあります。

ローマではコロッセウムでの罪人の処刑や見世物のために、エジプトや北アフリカからライオンやヒョウなどの猛獣が集められて、大量に殺されていたそうです。
たとえば紀元80年のティトゥス帝が行なったコロッセウムの落成式では100日間で5,000頭の猛獣が殺され、トラヤヌス帝のダキアに対する勝利の祝賀会では、120日間で11,000頭の野獣(と一万人の剣闘士)が殺されたそうです。
輸送途中に死んだ動物の数を入れれば、ローマ帝国はサハラ以北の大型肉食獣の生態系にかなりの悪影響を与えたのではないかと思います。

ただ、動物の乱獲はローマ帝国に限らず、漢方薬を取るためにサイを乱獲した中国とか油を取るために鯨を乱獲したアメリカとか、どこまで遡ればいいのかという難しい問題があります。


なんか話がそれてしまったので今日はこの辺で。









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