一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

農業・漁業への固定概念

2011-09-16 | あきなひ

やまけんの出張食い倒れ日記に15日の日経の社説「農業を成長産業に変える改革を急げ」への批判が載っていました。

日経の社説はTPPの推進のために農業改革に取り組むべきという趣旨でこう述べています。

 「まず取り組むべき課題は、生産性の引き上げである。農地の集約を急ぎ、農家一戸あたりの農地面積を広げる必要がある。
・・・政府の「食と農林漁業の再生実現会議」が8月にまとめた中間提言は、平地での目標面積を20~30ヘクタールとした
・・・農家一戸あたりの農地面積は現状では1ヘクタール未満が55%を占め、平均は2ヘクタールにとどまる」

これに対してやまけん氏はつぎのように批判します

「日本農業は弱いから市場開放できないという後ろ向きな姿勢では農業の未来像は描けない」という。つまり「強くすれば開放しても大丈夫」と言う方向に持っていきたいわけだろう。しかし強くなるためのネタといえば、この社説では「大規模化による生産性引き上げ」である。これが成れば「強くなる」などという論理は、農業関係者であればその多くが「ばっかじゃないの」と思うはずだが、他産業に就くビジネスパーソンからすれば「そうなんだろうなぁ」と思ってしまうだろう。

再三書いてきたけれども、大規模化にはお金がかかる。単に農地をたくさん持つことが出来ても意味が無く、一枚の農地面積が数ヘクタール規模になり、均一な条件で大型機械による作業ができるようになれば、確かに大規模化には意味がある。しかし実際、日本の狭い農地事情ではどうやっても無理だ。いまの時点で田圃や畑は畦に阻まれていたり、高低差が大きかったりする。これを一枚にまとめるには膨大な土木事業費が必要になるのだが、その金はどこから出るのか?

僕も「他産業に就くビジネスパーソン」なので一瞬日経の言うとおりとも思ったのですが、日経の言う「平地での目標面積」と「農家一戸あたりの農地面積」を直接関係させるのは整合性が取れていないのではないか(=山間地を含めた平均値は当然低くなるはず)と思ったので、耕地面積に占める大規模農地面積の割合を調べてみました。
とはいえこの手の統計に詳しくないので、とりあえず見つけた農林業センサスの経営耕地面積規模別経営体数(参照)を参考に概算(たとえば2.0~2.5haは2.25と中間値を取る)してみると、20ha未満の農家数は98.9%、耕地面積(面積の全国合計は別のところから取りました)は76.7%になります。
その残りの部分、20ha以上の大規模農家1.1%で耕地面積の23.3%を経営していることになります。

耕地のうちどれくらいが平地部なのかは不明ですが、仮に2/3が平地部にあって大規模農家はすべて平地部に属するとすると、35.0%が20ha以上の耕地、10ha以上まで入れると47.4%と、実は既にけっこう大規模化は進んでいて、さらに農業の集約を進めるにはやまけん氏の言うようにかなりの投資が必要になるのかもしれません。(ほとんど「当て推量」なので自信はありませんが)。

農業とTPPをめぐる議論は「原発反対・推進」と同じで原理的な対立になりがちなのですが、原発のリスクよりは計量可能だと思うので、もっと具体的な数字をベースにした議論をすべきだと思います。


あと、ふと思ったのは日経の社説にあるこのフレーズの違和感

「このままでは日本は東アジアに吹く自由貿易の風に乗れず、経済成長の道が狭くなってしまう」

一方で日経は円高による製造業の空洞化を懸念しています。
そして製造業においては町工場は「日本のものづくりの原点だ」とは言っても「製造業の約7割が従業員数10人未満(平成18年事業所・企業統計調査参照)だから効率が悪い」という言い方はしません。

そして同じ日に、ユニクロの海外展開については、課題はあるとは言うものの批判的ではありません。
国外で製造し海外の売上げを主にしようと言う点では円高対応を進める製造業と同じ行動なんですけど、もともと国内で製造していない企業だから「空洞化」にならないからいいのでしょうか?


先日の漁業権の話(参照)もそうですが、TPPや震災復興に関して農業・漁業を語る際には必ず現状の「補助金・既得権・非効率」と「民間企業の参入」が語られますが(そういう部分はあるのかもしれませんがしても)、もう少しきめ細かい分析が必要なように思います。
(ユニクロと同じ紙面で取り上げられている特集記事「離陸する農ビジネス」で取り上げられているものも農地としてみれば小規模な取り組みだったりしますし。)


東北地方を回ると、被災した漁師さんや農家のなかには相当稼いでいた人もいるようでした。
ただし自然が相手なので、リスクも大きいが当たればでかい、その「当たればでかい」を目指して先行の設備投資をする、という意味では、ベンチャー企業と似ている部分も多いのではないかと思うのですが、なぜか農業や漁業を語るときには「前近代的な産業」という切り口で語られます。
そして、不思議と都会のベンチャー企業のやる小さな農業が誉めそやされたりします。

投資とリターンのキャッシュフローの構造としてとらえてみれば、農家や漁師がやろうと「企業家」がやろうと同じわけで(製造業だって補助金や税金の優遇措置を受けているところは山ほどあります。新聞の再販制度はここでは触れません(って触れてるしw))、それを同じ土俵で議論するところから始めたほうがいいと思います。


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