一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

評議 その4 (模擬裁判体験記19)

2007-12-23 | 裁判員制度

休憩後は量刑です。
検察官の求刑は「懲役6年から9年の間」という幅を持ったものでした。

最初に裁判長から法定刑の説明があります。

殺人罪の法定刑は「死刑又は無期若しくは五年以上(上限は30年)の懲役」です。
未遂罪は減軽といって刑を1/2にすることができ、また情状酌量による減軽も同様です。
これで何がちがってくるかというと、3年以下の懲役であれば執行猶予をつけることが可能になります。
また、今回銃刀不法所持による銃刀法違反(最大1年半の懲役)もあります。
しかしこれが加わる効果は法定刑の上限が上がることで、今回の求刑はそもそも殺人罪の法的刑の範囲内なので(刃物を持っていたということが考慮の要素にはなるものの)懲役の年数計算において形式的には考えなくていいことになります。

つまり、殺人未遂の場合、理論的な下限は[懲役5年×1/2×1/2=1年3ヶ月+執行猶予]になります。

<参考:刑法>

第百九十九条 (殺人)
 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

第二百三条  (未遂罪)
 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。

第四十三条 (未遂減免) 
 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。 

第四十四条  (未遂罪)
未遂を罰する場合は、各本条で定める。 

第六十六条 (酌量減軽)
 犯罪の情状に酌量すベきものがあるときは、その刑を減軽することができる。 

第六十八条  (法律上の減軽の方法)
 法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。

一  死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする。
二  無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
三  有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。
四  罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。
五  拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。
六  科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。 

 第七十一条 (酌量減軽の方法)
 酌量減軽をするときも、第六十八条及び前条の例による。 

第二十五条  (執行猶予)
 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。

一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。


といわれたものの、そもそも量刑の「相場」などまったくわからないですし、逆に今までの相場をあてはめるのでは裁判員制度の意味がないのかもしれません。

ここは裁判長も粘り強く(半分は興味しんしんで?)議論を見守ります。


そもそも検察官の求刑自体が相場に沿ったものなのかもわかりません。
商談なら「若干のフトコロを見て求刑の2割引くらいで」などという考えもできるのでしょうが、そういうわけにもいきません。

といういことで、検察官の主張の根拠と弁護側の主張の根拠を比べることに。

<検察側>
・ 被害者は動脈を損傷し4.5Lもの輸血を必要とし、まさに生死の境をさまよった。
・ 被害者としても職を失い、体調も優れない。厳しく罰して欲しいといっている。

<弁護側>
・ 被害者は経過も良好で既に退院している。
・ いままでまじめに働いていた被告人がここで実刑になると社会復帰の道は現実的に閉ざされる。社会の中で更生をさせるべき。


当初の議論では、被告人に同情的な意見が多く出ました。
ひとつは目の前の人間を刑務所送りにする、ということへの抵抗がある(少なくとも私はそうでした)のと、特に被告人役の人が非常にいいキャラクターで、証言席でしょんぼりと立って訥々と話す姿は裁判員の同情をひきました。
一方で被害者役の人はけっこう若く、被害者の感情というのがあまりリアリティをもって伝わって来なかった部分もあります。

このへん正直言って見た目の印象というのは大きいと思います。
今になって思えば、配役が逆だったら当初から被告人に厳しかったかもしれません。
また、被害者の証言で、「刺された傷跡がまだ痛むんです」などとシャツをまくって傷跡を見せられたら印象も大きく違ったように思います(でもそういう「演出」っぽいことはルール違反なのでしょうか?)。

そうはいっても、あまり被告人への同情に傾きすぎるとちょっと行きすぎでは、と思うもので、やはり人を刺しているわけで、「いい人だから」「かわいそうだから」という理由で執行猶予、というのもどうなんでしょう、という意見が出だしました。
このへんは大勢で議論することのメリットでしょう。

つぎに、被害者にも落ち度がなかったのか-被害者も包丁を持ち出しているし、どっちもどっちだったのでは?という指摘。
しかし、志村は包丁は抜いたもののタオルを巻いたままだったし、被告人も志村が包丁を抜いた記憶がない。少なくとも防御行動とか包丁を持った同士の喧嘩ということではない(このへんは殺意の議論の蒸し返し風な感じになってしまいました)ので、被告人の行為だけを評価すべきでは、という反論がでました。

更に被告人は刑務所に入ったら更生するのか。いや、それは刑務所や個人の問題で、社会全体としてはやはり実刑は意味がある。と刑事政策的な議論にまで話が広がってきます。

予定の判決宣告の時間が近づいても一向にまとまる気配が見えません。

そこで裁判長が

実は個人的には評議が結論にまで達しない可能性があると思っていました。今回は模擬裁判なので、評議をギリギリ時間まで進めたうえで、判決宣告なし、と言う形で終わってもいいかなと思っています。

と救いの手を。
評議の内容はビデオで法廷の傍聴席に中継されているので、結論でなく裁判員がどういう考えをするかのほうが重要と考えてのことのようです。


だんだん議論は執行猶予をつけるか、つけないか-懲役3年か4年か-というあたりに修練してきました。

一応時間切れの直前に裁判員で採決をしたところ、4対2で3年・執行猶予付き派が多数を占めました(僕は4年・実刑派でした)。


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このあと関係者が待ち構えている法廷に。

議論のあらましと結論に至らなかったことを裁判長から説明したあと、意見交換。
司会者の人が質問をし、裁判員が順に答える、という風に進みます。

今度はこちらかまな板の上の鯉になります。

私は、スクリーンの映写と手元資料と発言のバランスが悪く、集中しずらかったこと、全体の流れがよくわからなかったので、最初から全力で集中すると肝心のところで集中がとぎれそうになってしまったことなどを話しました。

意見交換会はかれこれ1時間くらい続き、けっこう疲れました。

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意見交換会が終わって評議室に。

裁判長から、「皆様おつかれさまでした」とねぎらいの言葉をかけられました。
そして、参考までに、と最近の同様の事件の量刑の結果をまとめたものが配られました。
刃物で人を刺して重傷を負わせた事件で、大体懲役4~6年(ということは実刑)というのが相場だそうです。

では、これが配られたら評議が効率的に進むのかというと、そうも限らないと思います。

僕がこの表を見て思ったのは、それが同種の事件の相場かもしれないが、なぜその相場が形成されたのかがわからない、ということでした。
つまり、同種の事件でこれくらい、というのでなく、より思い罪やより軽い罪とのバランスで相場が形成されているのではないか、ということです。
たとえば人を刃物で刺して重傷を負わせて懲役3年の執行猶予となってしまうと、殺人未遂より法定刑の軽い犯罪(傷害とか窃盗とか覚せい剤取締法違反)の刑が軽すぎることになるのではないか、またはそれを量刑で逆転させるための事情というのを考える必要があるのではないか、ということです。

そのへんの情報をどこまで裁判員に事前に入れるか、逆にそのことが裁判員を誘導してしまい、裁判員制度を導入した意図と反してしまうのではないか、というあたりは難しいところだと思います。


(つづく)

 

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