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この映画とほぼ同じ時期に公開された映画としてダーク・ナイト、ノー・カントリー、Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼に代表されるような、金が欲しいわけでもなく、名誉が欲しいわけでもなく、純粋に人殺しを楽しむだけの悪役が登場する映画が流行っていた。まるで人を殺す相手をくじ引き同然で無作為に選んで実行していく様子は、このような人殺しを趣味とする大悪党を説得するのに良心を持って接しても無駄だということがよくわかる。
そして今回紹介するゼア・ウィル・ビー・ブラッドのダニエル・デイ=ルイス演じる主人公は神を信じることもなく、信じられるのは己のみ。利用できる物は何でも利用し、利用価値が無くなればアッサリ斬り捨てる。石油が採れそうな所へ出かけていって、あくどい手法を使ってでも石油を手に入れようとする強欲っぷりが凄い。
前述した映画の悪役たちは人を殺したいという欲望は凄かったが、他の金欲、物欲、名誉欲などはまるで無かった。しかし、今回のダニエル・デイ=ルイス演じる男は石油という利権を利用して莫大な富を得ようとする欲望はもの凄く大きい。そして人間同士の血のつながり、心のつながりをアッサリ斬り捨ててしまうように富を得ることなら何の迷いもなく一直線に目的に向かって突き進む。まさに目的を達成するためには、何が必要かということを、石油王に成り上がっていく主人公から学ぶことができる。個人的には別に金持ちになる帝王学など学びたくもないが。
そんなダニエル・デイ=ルイスが石油を採ろうとする場所において、立ち塞がるのがポール・ダノ演じる新興宗教家。宗教家という立場を利用して、信者を集めまくり、大袈裟な悪魔祓いの儀式をする男。現代で言うならばまさに人の寂しい心の隙間に付入る極悪教祖の姿がだぶって見える。
片や強欲の塊のような資本主義が生んだ怪物、もう一方は権力を手に入れるために宗教を利用するエセ教祖。こいつら2人の共通する最終目的はとにかくカネだ。
さて、ストーリーだが成り上がりの石油王とイカサマ宗教家の対決構造を中心に描きながら、欲望、富、権力、暴力、裏切りなどドロドロの人間ドラマが描かれる。唯一人間ドラマとして足りないのがエロさだ。綺麗な女性はほとんど出てこないのだから、エロシーンは期待できない。
とにかくこの映画は冒頭の約15分間はひたすら登場人物が金を採掘するシーンから始まるが、台詞は全くなし。聞こえてくるのは金を探すためのカナヅチで石を掘る音が聞こえるだけだ。そんな冒頭場面からこれは凄いことがこれから始まるんだと感じることができるカンの良い人と、いきなり退屈に感じてガッカリする人とに分かれるだろう。
個人的にはスタンリーキューブリック監督のSF映画の名作2001年宇宙の旅の冒頭のシーンであるキー、キーとうるさいだけのシーンと印象が重なる。しかし、かのSF名作映画は最後まで面白くないが、ゼア・ウィル・ビー・ブラッドの凄いところはこの先に面白い人間ドラマが繰り広げられること。
ただの採掘人が一攫千金で金を掘り出すどころか、石油を掘り出してしまう。そこから得た資本を次々に投下していき莫大な富を求める様子は人間の限りない欲望が描かれていて面白い。孤児である子供を拾って自分の息子にして、ビジネスの商売に利用する。とにかく何から何まで嫌な奴なのだが、さらにその上を行く嫌な奴が若くしてその地域において人々を騙すエセ新興宗教家。宗教の力を使って、ひたすら金儲けを企む極悪教祖。この極悪教祖の存在は宗教にトラウマを抱える日本人には効果抜群の登場人物だ。
大胆な音楽を取り入れ、印象的なシーンが数多く観ることが出来る。そして、ラストで迎える強欲な2人の結末は強烈な余韻を残す。一生貧乏人で暮らすことに対して絶望感を抱いている人にお勧めしたいゼア・ウィル・ビー・ブラッドを紹介します
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ダニエル・デイ=ルイス,ポール・ダノ,ケヴィン・J・オコナー,キアラン・ハインズ,ディロン・フレイジャー | |
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舞台は1890年代後半から1900年代初期にかけてのゴールド・ラッシュに沸くアメリカ西部。採掘師として金、そして石油まで掘り当てたダニエル(ダニエル・デイ=ルイス)は新たな油田を求めている。石油関係のビジネスのの交渉の場には、孤児だったが自分の息子にしてしまった、まだ幼いH・W(ディロン・フレイジャー)を常に連れていた。
ある日、ポール(ポール・ダノ)という若者から、自分の家族が所有しているサンデー牧場から石油が出るという情報を手に入れる。
ダニエル(デイ=ルイス)はH・W(フレイジャー)を連れて、サンデー牧場に向かい、牧場を経営するポールの父親、そしてポール(ダノ)の双子?の兄弟である新興宗教家のイーライ(ダノの一人二役)と交渉し石油の採掘権を得る。早速、仕事仲間を呼び寄せて石油を掘り当て、油井を建設する
しかし、石油を採掘して間もなく油井が大爆発。その衝撃でH・W(フレイジャー)は聴力を失ってしまう。さらにダニエル(デイ=ルイス)の前に、自分の教会に寄付を迫るイーライ(ダノ)が立ちはだかる。
ダニエル(デイ=ルイス)は聴力を失ったことによって精神混乱に陥ったH・W(フレイジャー)を自らの元から遠くの寄宿舎へ飛ばす。それ以来、彼は次第に人間不信に陥り、その見返りとしてひたすら富を追い求めるようになるが・・・強欲な人間が最も大切な物を無くしていく様子は映画を観てください
油井を吹き飛ばすシーン、油まみれでの格闘シーンなど印象的な場面が多く、そして音楽の使い方が斬新的な感じを受けます。
監督は非常に個性的な映画を撮るポール・トーマス・アンダーソン
ポルノ業界の盛衰を描いたブギー・ナイツ、驚きのシーンが用意されている豪華キャストによる群集劇マグノリア、暴力的な台詞が刺激的な恋愛ドラマパンチドランク・ラブなど今のところ外れが無いです。ちなみに彼のデビュー作のハード・エイトはギャンブラーには楽しめます
主演の強欲な石油王を演じるのは名優ダニエル・デイ=ルイス。ジェイムズ・アイボリー監督の眺めのいい部屋、存在の耐えられない軽さ、父の祈りをなど名作多数。彼のカメレオン俳優ぶりが観られる作品としてマイ・レフトフットがお勧めです。
イカサマ宗教家を演じるのがポール・ダノ。本作品では出番はそれほど多くないですが、なかなかの怪演ぶり。この人のお勧め作品はハートフルコメディの傑作リトル・ミスサンシャインが良いです。童貞で、全く口を聞かないお兄ちゃんを演じていました。
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