1933(昭和8)年、御堂筋に忽然と現れたガスビル。安井武雄の設計。
角のアールが珍しい。流線形ということばが時代の先端だった時代。
地下鉄御堂筋線が開通する直前のこと。(2003年有形文化財に)
ガスビルは大阪瓦斯本社であり、ガスによる、よりよき現代的生活を提示するのが目的でもあった。
ほとんどの家庭はまだ炭をおこして飯を炊いていた時代だったのである。
8階には、ガスを有効利用すると、こんな夢のような洋食もできるようになる、とレストランが開店。
それが「ガスビル食堂」である。
庶民垂涎の的だった、白亜の殿堂のレストランは、今も盛業中である。
アミューズ 人参のジュレ 名物ハートセルリーも注文
ハートセルリーはセロリの中の柔らかい部分。
片岡直方会長が肝入りで、西洋料理には西洋野菜だと、種を取り寄せ、
自分の畑で作らせたのが最初。
これをただ塩ふりかけてかじるだけ。いたってシンプル。
ボケてしまったが、紅茶にあらず。コンソメスープ。
脂を徹底的に除いた、オールドファッションな味わい。そのコクの深さ。
手間暇を食べる。しかるに今、ここまできちんとコンソメをひく店がどれほど残っているのだろうか。
冷製コンソメ。 ただ上のコンソメを冷やしただけで、このプルプルのジュレのようになる。
どれだけコラーゲンが含まれているかが分かる。
パン。バターの容器もオールドファッション。
ハンバーグステーキ 丁寧なガルニもすばらしい。
律儀なデミグラスソース。
「伝統を守ることが一番大事」という9代目、河上シェフの思い入れにあふれたソース。
もう、旨くないわけがない。ソースはパンで拭き取っていただいた。
ガスビル食堂でめしが食えるようになりたい・・・そう思ってガスビル食堂を見上げた
大阪商人たちがどれほどいたことだろう。 羨望の食堂だった。
エスコフィエだったかが、歌手メルバのために考案したデザート。
ピーチメルバ。 もう涙もんです。
これも昔ながらのアップルパイ。いい味出してます。
コーヒー。 ああ、大大阪の夢は今いずこ。
大大阪っつったって、関東大震災の避難民たちが流入して、人口が増えただけの話に
すぎないんだけど。下駄履きの下町洋食けっこうだが、こういうビルの中の高貴さをたたえた
純潔を守る洋食ってのも、スペシャルな感じが嬉しい。 いつまでも残してほしい味わいなり。
ガスビル食堂 大阪市中央区平野町