翌朝、俺は鈴木すず子にチラシのサイクルを説明したあと、更に、
「くらしの応援歌、というポップは月間奉仕品で、ためして満点というポップは おすすめ、こだわり商品ですが、定番価格と同料金です・・・・」
とポップについても 一通りの説明を終えた。
あとは・・・っと。
「洋日配担当の岸辺さんがお休みなので、これを補充してもらえますか? あっ、それから、さっき一人のお客さんが開店と同時に まるごと苺ヨーグルトをまとめ買いされたんですよ~。何でもお孫さんが好きだとかで。毎週、週末明けに来店される顧客です。それを見込んで発注もしていますから、冷蔵庫に在庫がある筈です。それも補充して下さい」
「ハイ、分かりました」、とすず子が売場へ向かった直後のことだった。
日配の業者さんが開店早々ご来店し、
「おはようございます」
と朝から元気にご挨拶。
「よっ!おはよう」
俺は業者さんと歩きながら売場へ向かう。
日配担当は、本来なら社員は西村なのだが、今日は遅番で午後からの出勤だったからなぁ。
ここは、俺が対応しよう・・・・。
俺が業者さんと共に現場へ行くと、鈴木すず子が一つひとつの商品とプライスカードを見比べながら、補充中であった。
そうだ! 折角だから、業者さんを紹介しておこう。
「鈴木さん、おはよーさんです」
すず子は ふと、顔を上げ、
副店長ったらぁ~、
さっきから1時間以上も開店前から一緒に仕事をしているじゃない。今頃、何をふざけた挨拶をしているのよ~
という表情をちらっと見せたが、俺の隣にいた業者さんに気が付くと、慌てて「おはようございます」と挨拶をした。
業者さんも、すず子の方へ向き直り、
「おはようございます」
お互い笑顔である。
ほっ・・・・
胸を撫で下ろした俺は、呼吸を整え、
「鈴木さん、おはよーさんです」
と言った。
「・・・・・・・・?」 すず子は手にしていたまるごと苺&ヨーグルト
を落っことしそうになりながらも、
「おはようございます」
と、言いつつ、怪訝そうな顔をした。
業者さんは、困った表情を浮かべつつ、俺と鈴木すず子の顔を見比べている。
うーーん。
非常にまずいな、この雰囲気。
ちょっとした俺流ジョークのつもりだったが、すず子としては、
副店長ったら、さっきから何度も おはよ~さんって、しつこいじゃん!
と言ったところだろう。
「あの・・・ですね。 先ほどから何度も紹介していますが、
こちらが オハヨー乳業さんです」
一瞬の し~~~ん、とした空間。。。。
業者さんは、慌てて手に持っていた商品カタログをすず子に見せた。
そこには、デカ文字で、
オハヨー乳業、と記されている。
「おはよーさん・・・じゃなくて、オハヨー乳業?さん??」
すず子が たまたま手にしていた商品こそがっ!!
業界では有名?な筈の オハヨー乳業の商品、まるごと苺ヨーグルトだったのである。
「あ・・・・。メーカーさんですね」
「そっ・・・そぉ~なんですよぉ~。メーカーさんなんですぅ」
やっと認知してくれたかぁ・・・と、胸を撫で下ろしたのは俺より業者さんの方だっただろう。
商談の方は・・・、まぁ、いいだろう。西村に引き継ぐだけだ。
それから約、一時間が経過した頃。。。
「副店長、お客様です」
にこにこ笑顔のすず子が俺を呼びに来た。
「俺にお客ですか? メーカーさん?」
「いいえ。違います。でも、副店長の!! お客様です」
俺の客・・・・?
何だか意味深であるからにして、嫌な予感がしないでもない。
俺は何だか匂う、と思ったが、すず子が言う売場へと足を向けると、そこには外人さんのお客が待っていた。
お~まい ごっと!
昨日のナッツぅ~の発音が余りに宜しかったからか、すず子は俺が英語ペラペラだと安心して、いかにも外人さんのお客のもとへ差し向けたのだろう。
ここで、引いたら男がスタる!
俺は、堂々と大柄な外人客に近付いた。
「はっ・・・はろ~」
すず子は、どういうわけか、俺の後ろから付いてきた。
きっ・・・君が接客しても宜しい~んじゃあ~ないですかぁ~?
オーストラリア帰りなんですからっ! と言いたいのを堪え、外人の顔を見た。
「何をお求めで?」
外人の男は、にっこりすると、俺に言った。
「日本語で I don't understand は、何と言いますか?」
なになになに???
日本語で、 あい どんと あんだーすたんど は、何という?
日本語レッスンを俺から受けたいのだろーか?
うっ・・・売場で?かぁ~???
俺の日本語能力の高さをかって、ご紹介♪してくれたのは、有難いが、この程度なら、俺でなくとも良いだろーに。
日本語で、 あい どんと あんだーすたんどは・・・、
「分かりません!」
俺は、自信を持って回答した。
どうだ! 参ったか?
外人は、気のせいか、にんまりすると、再び、
「日本語で I don't understand は、何と言いますか?」
と、同じ質問をした。
だからぁ~!
さっき、ご回答しただろう。
あい どんと あんだーすたんど、これは、日本語で
「分かりません、だっ!」
ちょっと、しつこいなぁと、感じつつ俺は 引きつった笑顔で答えた。
外人は俺の顔を覗き込み、
「貴方わぁ~ 本当に~純血のぉ~ にほんじ~ん ですねぇ~?
でも、 日本語で何と言うか、 分かりません ですかぁ~?」
そういうと、すず子の方へ向き直り、ウインクした。
数歩、離れた位置に立っていたすず子は くっくっくっ・・・と笑いをかみ締めている。
このときになって、俺はようやく気がついた。
今朝の オハヨーさんの すずの・・・・恩返し!企画だということが・・・だ!
やっ・・・やられた・・・・かも・・・・しれない・・・・。
日付けが変わりました。オハヨーさんです、ミナミ。
なお、このお話はフィクションです。実際に別々の場面で、違う人との間で起こった出来事ではありますが・・・。
前半は、生協の岳さま。 (オリジナルについては、『照れミナミ』のコメント欄をご覧下さい) 後半は私が学生時代にJICAの研修生として来日していた私のフィリピン人の友人との間の会話がモデルです。ご愛読、ありがとうございました。