「先日は、夕方、研修の後、発注しに店へ寄りますって言っておけばよかったですね。心配してくれてたみたいで、すみませんでした。」
矢木さんは、研修!という単語に反応した。
「研修?って? 何の研修?」
「英会話学校の講師になるんです。今、そのための研修中でして。教授法の理論と実践の研修が週一度あって、ダンボール二箱の教材が自宅に届いたんですよ!
これ、全部、三ヶ月でマスターしなきゃいけないのかと・・・」
「英語講師! そうよね、鈴木さんは、英語もできるし、こんなとこ、もったいないと思ってたんよ。」
わずか1メーターだけ離れたところに南副店長がいて、話を聞いているようなので、私は、思わず矢木さんに、目くばせした。」
矢木さんは、首をすくめた。
南副店長は深く傷ついた顔をして、その場を立ち去ったのが、気になった。いつもなら、出勤してきて、おしゃべりしていると、
「これして、あれして!」と、指示を出すらしい。(私は まだ言われたことがないが)
矢木さん、つい、このあいだ、
「鈴木さん、定年まで、ここで働いたら?後二十数年!!そのとき私、杖ついてるよ。岸辺さんと二人で客用休憩広場で 場所をぶんどってるかも。チーフあたりが、店長になって戻ってきて、「矢木さんと、岸辺さん、また、きてる。他に行く所、ないんかねーって言われるかも。ぎゃっはっは!!!」
・・・と、語っていたのに。でも、やはり、ここでの仕事のことが、気になる様子だった。
「店長は、かけもち していいって言ってくれましたので、そうします」
「そういうことも、できるんだ。そりゃ、良かった。」
ここで、私と矢木さんの仕事前の雑談は終了。
さて、仕事が終わった帰り・・・。
南副店長は、北海道フェアに向けて、売り場つくりに忙しそうであった。
ちょこっと、作っては、二、三歩下がり、売り場を眺めている。
私にも、覚えがあるわ。こういうの。一人でやったほうがいいんだよね。
一人ひとり感性が違うから。他人が作ったのをやり変えたりできないしね・・・。
そんなことを思いながら、挨拶をするため 副店長の方へ歩いて行った。
「お疲れ様でした。大変そうですね。」
「いやあ、好きだから、こういうの。」
「そうですよね。上手ですもんね、分かります。がんばってください。」
すると、ほんの一瞬、にこりとした。即、売り場へ目を移す。
もう、すっかり元気になったようだ。この方は、決して怒ったりしない。自分が深く傷つき落ち込むタイプである。happy と upset が交互にやってくる。
常に相手を思いやる大人なのだ。世の中、こういう人ばかりだと、世界平和が保てるのだが・・・。
(明日の朝、出来上がりを楽しみにしてるよー)