いつだったか安住アナと林真理子さんが並んでお寿司を頬張っている場面をテレビでお見掛けしたことがある。板前さんが握ったお寿司を美味しそうに召し上がりながらの対談。お寿司に 「もっと塩味を!」というリクエストは流石にないだろうとは思っても、美食家なイメージの林真理子さんが描くフランス料理にまつわる物語って、どんなの?と物語の導入部分からして興味を持った。
日本人シェフが作るフランス料理で、フランスの雑誌から一流のフランス料理店である証の星を貰う。それってどれだけ大変なことだろう。ミサコの夫、安川直人が日本人シェフとして二人目の星獲得が決定したという知らせ! 夫婦二人三脚で店を支えてきたマダムでもある妻、ミサコは周囲から祝福を受ける。受けはするのだが… 喜びと同時に彼女の身に降りかかる信じがたき夫の決断!
はぁ… こんな波乱に満ちた人生ってあり⁉ あり、なんだろう。どうやら登場人物達の中にはモデルがいるみたいだ。最後まで読んでから思うに、実際のモデルは小説には影としてしか登場しない、あの若い女性。きっと、その若い女性が上手く収まった場所に、本来ならずっと妻として、仕事のパートナーマダムとしていた筈の、おばさんになった女性を想像して書いたら、こうなった? 最後まで読み終えた瞬間、そんなことを思った。ラストは何とも不憫ではあるけれど、最も不憫だと思っていた(ミサコに捨てられた)子供が その後、ミサコが知らない田舎で女性に成長し、母に会いにフランスまでやってきている場面が、最も人間らしくて泣けた。小説の中では、ほぼ全く描かれていない娘の人生を想像してしまう。
「お母さんがフランスが好きだと言ったのは、直人さんがフランスが好きだから。母を生まれ故郷へ連れて帰ってもいいですか? 私達、娘が母の面倒を看ます。」 作家によって、さらっと書かれた部分がより自分の想像の中で広がっていった。
「お母さんが最も愛した人はね…」 娘に打ち明けるラストシーン。短く太い人生って、こういうの、だろうな、きっと。
昔から、女性心理を描かせたら、林真理子氏の右に出る作家はいない!と確信してきた。西郷どん、白蓮…。林真理子さんによって描かれる実在した人達の人生もいずれ読んでみたいな。