Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#269 試練の新人たち

2013年05月08日 | 1982 年 



尾上 旭…カ~ンと乾いた打球音が球場に響き渡ると尾上は公式戦でサヨナラ本塁打を放った選手かのように拳をグイッと突き上げてベースを一周した。2月16日の紅白戦で堂上投手から打った一発は「満塁」のオマケ付きだった。実戦形式になってから8打席無安打と結果が出ずに苦しんでいただけに喜びが爆発したのだ。思えば1月中旬の自主トレの時、ナゴヤ球場に姿を現した黒江コーチは尾上の打撃フォームを一見して「かなりのアッパースイング。あれじゃプロの球は打てん」と当初の「暫くは自由にやらせてフォームはいじらない」という球団の方針を撤回してフォーム改造に乗り出した。

「守りはともかく打つ方は平田(阪神)以上で即戦力。すぐにでも一軍でやれる(田村スカウト部長)」との評価は音を立てて崩れ落ちた。長年慣れ親しんだフォームを変えるのは至難の業で結果は直ぐには出ず悩みに悩んでキャンプイン1週間で尾上の体重は8kgも落ちてしまった。朝8時15分の散歩から始まり10時の球場入り後は午後3時過ぎまで練習メニューを消化し皆が引き揚げた後に個別で打撃と守備特訓。夕食後の8時半から11時頃まで「黒江打撃教室」に通うのが日課となっていて「部屋に帰ると風呂にも入らずバタンキューです」

しかし痩せるのも当たり前のスケジュールをこなして来たのにあの一発以降も打てない…3月4日のロッテとのオープン戦に三塁手で先発出場したが4打数無安打、守りの方もどこかぎこちない。「おかしいっスね、村田さん以外の投手の球は打てない感じじゃなかったのに…新しいフォームにも慣れてきましたから焦らず頑張りますよ」と努めて明るく振舞っているのが逆に痛々しい。「ポッと出の大学生がいきなり打てる方がおかしいですよね。練習また練習です。24時間野球漬けが今の僕に出来る事です」と尾上は歯を食いしばる。





右田一彦…プロ初先発(2月28日・日ハム戦)を控えた前夜、右田は試合に備えて静養しているのかと思いきや宿舎を抜け出して静岡市内のパチンコ屋にいた。それも足元には銀玉がぎっしり詰まった千両箱が。「野球と同じで負けるのは気分が悪いですから」と7千円見当のプラスの成果だった。この男にはオープン戦くらいではプレッシャーとは無縁のようだ。

木田投手と投げ合った結果は3回を投げ被安打3で1失点とまずは合格点の内容だった。心配そうに見つめていた湊谷スカウト部長は「キャンプ疲れのピークかな。アマ時代と比べるとスピードは物足りない。アイツの力はこんなもんじゃないですよ」と気遣ったが本人はケロッとしたもので「内容はまぁまぁじゃないですか。緊張?いや、紅白戦と変わらなかったですよ」と相変わらずの強心臓だった。

キャンプ前から「放言ルーキー」として面白おかしくマスコミに取り上げられていたが、達者なのはクチだけでなく実力の方も確かなようだ。「僕ってそんなに図々しい事を言っていますかね?活字になるとキツイ物言いになるけど実は小心者で周囲に気を遣っているんですよ新人ですから」本来なら球団も新人をPRするところだが逆に「本人も気にしているからあまり記事にしてくれないで欲しい」と注文する始末。

自主トレ初日に関根監督から「オープン戦の九州遠征ではどこで投げたい?」と聞かれ「長崎(対中日)がいいです。実家(熊本)からも近いですから親類や知人も見に来やすい」と即答していたが、キャンプで結果を残して地元凱旋登板を実力で手にした。しかし好事魔多し、親類縁者21人の大応援団の前で3回を投げて被安打5、四死球3で7失点の失態を演じてしまった。「自分のリズムで投げられなかった。一からやり直しです」と言葉少なく球場を後にした。





平田勝男…当初、首脳陣の平田に対する評価は真弓に疲れが出始めた頃を見計らって守備要員として使えれば充分~あくまで真弓の控えというものであったが今は嬉しい誤算を感じ始めている。「六大学No,1内野手」はともかく「どこの球団へ行っても即レギュラーの力を持っている(島岡監督)」については眉ツバものと冷ややかな声もあったが実戦形式の段階に入ると周囲を唸らせるだけの力量を平田は見せつけ始めた。

元々定評があった守備よりも巧打の方でアピールしている。紅白戦やオープン戦8試合全てで安打を放ち25打数10安打、打率.400 とくれば「だから2位指名で取れる選手じゃないんだ。1位指名が当然の力を持っているんだよ」という島岡監督の声が聞こえて来そうだ。逆に前評判が高かった守備に関しての評価は今ひとつ。「腰高で手投げ」「上半身に柔軟性が無い」ただ「守備は練習を積めば積むほど良くなる。打撃はセンスが必要だけどね」と安藤監督は合格点を与える。

ここに来て「近い将来は格好の二番打者になれる」と安藤監督は平田の起用プランを口にするようになった。「大学時代も二番を打ってきたのでバントや右打ちも抵抗なく出来ると思っている」と平田本人も自信をのぞかせる。平田が遊撃手のポジションを取るとなると真弓はどうなる?かつてライオンズ時代には外野手が本職だっただけにコンバート話が持ち上がる可能性すらある。平田の予想外の活躍で阪神首脳陣は嬉しい悲鳴を上げる事となるのか・・
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