
山田久志(阪急)や江夏豊(日ハム)が200勝目前となり、最近再び名球会の名前を新聞紙上で目にする機会が増えてきた。名球会とは一体どんな組織なのだろうか?
「別に名球会に入りたいが為に野球をやっている訳ではないけど、一つの区切りとして早いとこ200勝を達成したいね」と山田投手は淡々と語った。名球会とは「昭和名球会」が正式名称で昭和生まれのプロ野球選手で投手は200勝、打者は2000本安打以上を記録した者が入会できる親睦団体だ。金田、長嶋、王、張本、野村、村山、稲尾…錚々たるスター選手が名を連ねており球界で確固たるステータスを得ていて名球会入りは現役選手はもとよりプロ野球選手を目指すアマチュア選手らの目標となっている。
「単なる親睦団体だから事業展開をして儲けようなんて気はない」と金田正一会長は言う。名球会が現在行なっている活動は主に営利を求めない慈善活動でオークションやサイン会などで得たお金を福祉施設へ寄付している。だが名球会メンバーの意志に反してマスコミの多くは名球会を野球殿堂よりも尊いものであるかのように宣伝しているが、そこには名球会を利用して儲けようとするマスコミ側の思惑が透けて見える。果たして名球会なる組織にそれ程の「権威」があるのだろうか?
ある大正生まれの元スター選手は「大正生まれの僻み」と前置きした上で「200勝&2000本とは上手い所に目をつけたと思うよ。100勝&1000本だと人数が多すぎるし『昭和』を入れる事でウルサイ年寄連中も排除できるからね。でも昭和生まれ以前の選手にも凄い奴らがいた事も忘れないで欲しい」と語った。スタルヒン(303勝)、中上英雄(200勝)、川上哲治(2351本)、別所毅彦(310勝)、杉下茂(215勝)…彼らは生まれるのが早すぎた。勿論、長老の中にも「そんなに目くじらを立てる程の事じゃないさ。若いモンが集まってワーワー楽しくやってるだけだろ。会を作るには何かしらの資格が必要だし200勝&2000本の基準に他意は無いと思うけどな」と語る千葉茂のような寛容派もいる。
その一方でやっぱりどこか変だという声が付きまとうのも事実で入会資格を記録だけで線引きする事に無理があるのではないか。プロ野球とは記録が全ての世界ではなく、個々の思い入れ・憧れ・昔話などが積み重なったものがプロ野球が醸し出す「味」じゃないのか。そうした面から見ても名球会の入会資格はナンセンスと言わざるを得ない。昭和生まれでも入会資格のない面々の中西太・豊田康光・吉田義男・杉浦忠・広岡達朗・権藤博・藤田元司などの名前が我々の頭から消え去る事はないだろう。
そもそも入会基準に勝利数と安打数だけを用いる事に疑問を呈する球界関係者もいる。例えば福本豊(阪急)は昨シーズン終了時点の安打数は1746本だから、およそ2年で2000本はクリアするだろう。しかし福本の球界における存在価値は安打数よりも「盗塁」にあるのではないか?福本以上に安打を放った選手は多いが盗塁数で上を行く選手は日本球界には存在しない。同じ事は江夏豊(日ハム)にも言える。現在の江夏はセーブ王として球界にも確固たる地位を築いているが名球会では「セーブ数」は入会基準の対象ではない。江夏はあと4勝で200勝を達成するが仮にこの先、200セーブを記録しても勝ち星が今のままなら名球会入りはならない。先発完投型だったかつての江夏ならまだしも今の江夏に勝ち星は勲章ではない。自分に勝ちが付くという事はセーブに失敗し他の投手から勝ち星を奪う事を意味するからだ。
名球会側はこうした意見に「そんな事は会を作った側の勝手じゃないか」と反論してくるだろうし、確かに入会資格などは作る側が自由に定めて構わない。問題はやはりマスコミを含めた周囲の意識にある。生涯記録は名球会入りには程遠いあるOBは「私は名球会には何の文句もないし言う資格もない。言いたいのはマスコミに対してだよ。名球会の本質を追及する事なく、さも大したものとして大々的に持ち上げて記事を書く。そうした見識の無さに呆れているのさ」と手厳しい。本誌も含めてマスコミはもう一度精査する必要があるかもしれない。