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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 721 サダ坊

2022年01月05日 | 1977 年 



3年前、" 巨人の星 " といわれた定岡正二投手が晴れて一軍入りを果たした。「定坊」といわれたあの童顔もすっかり逞しくなって。先ずはファン待望のニュースと言いたいところだが、さて大喜びしていいのかどうか。

まだ不安があるのに昇格した背景
定岡投手の一軍入りは先ずはご当人にとっては大喜びであろう。人気に溺れずよく頑張り一軍の切符を手にした定岡に拍手を送ろう。しかしである、定岡の代わりに二軍落ちした小川投手との入れ替えに果たして必然性があったのかは疑問である。担当記者の間でも「定岡が直ぐに戦力として期待できるのなら分かるが、二軍の首脳陣も太鼓判を押していないのだから時期尚早なのではないか。言ってみれば一軍昇格の試験だと考えるのが正しいだろう」という意見が大勢だ。九州・中国地方に対ヤクルト戦遠征中の長嶋監督が岩本二軍監督に電話を入れたのは5月4日の深夜のことだった。定岡は次のような経緯で昇格したのである。

長嶋監督  「岩本さん、このところ定岡の調子が良いようですね?」
岩本二軍監督「ええ、だいぶ良くなってきました」
長嶋監督  「そうですかそれは結構な事で。ところで定岡をコチラに送ってもらえませんかね」
岩本二軍監督「定岡を一軍にですか?」
長嶋監督  「ええ、一軍もご承知の通り投手陣が苦しくて」
岩本二軍監督「まだ一軍は厳しいです。コントロールが不安定でストライクとボールとの差が大きいので」
長嶋監督  「そこを何とか…。若くて活の善い投手が欲しいんです。頼みます」
岩本二軍監督「分かりました。監督がそこまで定岡に期待してくれているのなら」


小川は悪くないのに
こうしたやりとりの後に定岡の一軍昇格が決まった。若い力、しかも人気抜群の定岡だけに各スポーツ紙は大きく報道した。しかし一方でこの人事に長嶋監督の早合点、慌てん坊らしい面が出たとの評があったのも事実。それはあながち意地悪な見方ではなく、至極まっとうな意見だという声も多い。というのも開幕当初は調整不足の為に二軍にいた小川投手を一軍に戻したのが4月下旬。中継ぎとして貴重な存在であるばかりでなく、大洋戦で先発するなど戦力として欠かせない。キャンプから好調を維持していたがオープン戦の途中で風邪をひき、太ももに軽い肉離れを起こして離脱した後に再昇格したばかりだった。

確かに昇格後の小川は調子よくなかった。定岡との入れ替えを決定づけたのは5月4日の大洋戦。先発した西本投手の後に登板したが、田代選手の13号2ランなど5点を献上。球威はもちろん小川独特の球のキレもなかった。" 大洋キラー " である男が逆にカモにされ一軍失格の烙印を押された。だが他の試合では好投している。ブルペンで小川の球を受けている捕手も調子は悪くないと証言している。4月28日の阪神戦は王選手が池内投手から押し出しの四球を選んでサヨナラ勝ちしたが、その試合で先発した新浦投手が一死しか取れず5失点降板後に登板して阪神の追加点を防ぐ好投をしたのが小川だ。ネット裏では「長嶋監督の見切りが早すぎる」といった意見が大勢だ。


" ひらめき " で引き上げた長嶋監督
さて実際のところ定岡の実力はどうなのか?確かにイースタンリーグで3連勝しているし数字だけを見るなら一軍に昇格しても不思議ではない。だが投球内容を吟味すると物足りなさを感じざるを得ない。岩本二軍監督が言うように球離れの位置が一定ではない為に微妙な制球力を欠き安定しない。「タイプから言うと力で押す方。リリーフではなく先発型(木戸二軍投手コーチ)」らしいが一軍での活躍には疑問符が付く。二軍なら球威があれば少々甘い球でも抑えられるが一軍ではそうはいかない。制球を気にして四球で自滅する可能性も高そうだ。打たれた時の精神的ダメージを考えれば何も急いで一軍に上げる必要はない。

悲観的な材料が揃っているのにどうして一軍に上げなければならなかったのか?ある担当記者は「(小川と定岡)同じダメなら将来性のある定岡に賭ける方が良いのではないか、というのが長嶋監督の考え。それに長嶋監督は定岡のような華やかなスター性のある選手が好みだからね」と。また別の担当記者は「中村二軍投手コーチに対する不満からだよ。定岡はオープン戦まで一軍に帯同していた頃より二軍に行ってから投げ方がおかしくなった。今のままでは悪くなる一方だから手元に置いて鍛えようと判断したと某コーチから聞いた」と。確かに一軍に合流した定岡を見た首脳陣は「二軍で何をしていたのか。進歩していないどころか悪くなっているではないか」と落胆した。


藤城らに負けたくない定岡の決意
新外人に投手ではなく野手のリンド選手が決まったのも定岡昇格の一因がある。リリーフ投手を獲得していたら抑えの浅野投手を先発に回せ投手陣の起用法は楽になっていた筈だ。こうした声がある中で当の定岡はファイトを燃やしている。「このチャンスを絶対にモノにしてみせます。自信はあります。見ていて下さい」と頬を紅潮させて決意を語る。巨人に入団して抱き続けてきた一軍入りの夢が叶ったから当然だが、入団時の浮ついた雰囲気がまるで影を潜めてきているのも心強い。これまでは「サダ坊!」と呼ばれると即座に「ハイ!」と返事をしていたが、今では「そんな呼び方は止めて名前で呼んで下さい」と反発するようになり成長が伺える。

あの坊や然とした顔つきも確かに大人の表情に変わりつつある。目つきも鋭くなり長嶋監督のヒラメキに応えてくれそうな雰囲気はある。「ストレートのスピードは充分に一軍レベルである。登板を重ねていけば度胸もついて打者を圧倒できるようになるだろう。要はコントロールだが経験を積めば良くなるだろう。巨人の救世主になる可能性もある(巨人担当記者)」といった好意的な意見も少なくない。次代の巨人投手陣を背負う投手として入団した定岡。そのスタートとなった今回の一軍入りなので不安視する周囲の声を吹き飛ばす快投を見せて欲しい。「初勝利を上げた藤岡らには負けない(定岡)」。サダ坊を卒業した " 定岡投手 " の登板が楽しみである。

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