
上田桑鳩が1940年に結成した書の団体「奎星会」が初めて道内巡回展を開いています。
筆者はこれまで、道展や毎日展、読売書法展などは見てきましたが、前衛書がならぶ書展に足を運ぶのは初めてで、圧倒されました(なにせ、道展などには、前衛書の部門がない)。
作品数は52点と、けっして多くはありませんが、非常に見ごたえがありました。
漢字や近代詩文、かなもあり、バラエティに富んだ展覧会です。
これは、年によって審査する分野が異なり、たとえば漢字を審査する年は、審査会員もふつうの漢字を出品するのだそうです。
たとえば、中原茅秋理事長は、今回かわいらしい筆致の文部省唱歌を出品していますが、本来はバリバリの前衛書作家とか。

前衛、非文字作品は、決してデタラメに筆を走らせているのではないことも、あらためてわかりました。
やはり、基礎には、書の文字があるのです。
大楽華雪・副会長「道を創る」など、具体的なモティーフは何もなく、ほとんどモノクロの抽象画なのですが、右から左へさまざまな動物が全力疾走しているかのようなスピード感と勢いにあふれ、見飽きることがありません。
山本大廣・常任理事の「臨甲骨文」は、最小限の線だけで構成されています。これだけ引き算するのは、相当な勇気がいると思います。
「これが臨書なんですか」
と尋ねると、特別同人の長沼透石さん(帯広)いわく
「主観的な臨書もあるのです」。
なるほど。
喜代吉鐡牛・常任理事「Tied IV(墨象)」や丸屋鎌使・常任理事「心の抒情」なども、いったいこれが書なのかと、おどろいてしまいます。堀吉光・常任理事「(命)MEIによる」も、よく見ると「命」という字なのですが、しかし鮮烈な残像のようにも見えるのです。

竹下青蘭(せいらん)・理事(札幌)は
「こういうのは、いきなりはむりで、たくさん書きこんでいるからこそ、書けるんです。たくさん書いた中からセレクトするきびしさが必要なんです」
とおっしゃっていました。
竹下さんの「寧」も、文字ではありませんが、運筆や構成は、文字の呼吸そのものだと思いました。
長沼さんの「「To」による悠遠」は、極端に太い線と細い線が同居していておもしろい。太い線はスポンジで書いたそうで
「書が一回性の芸術だとすると、邪道かもしれません」
と話しておられました。
しかし、こうなると「字釈」というより「題」という感じです。
5月1日の毎日新聞北海道版「辞林」から引用します。
(前略)作品は稲村雲洞(うんどう)・名誉会長(毎日書道会最高顧問)の臨書「富長」に始まり、岸本太郎・会長(毎日書道会理事)の前衛創作「斷」。中原茅秋(ぼうしゅう)・理事長(毎日書道会評議員)の文部省唱歌「四季の雨」に劇画のモデルやエルメスのスカーフのデザインも手がけ、海外でも注目を集める吉川壽一(じゅいち)・同人の前衛書「ASITAへのメッセージ」と57回展の入賞者など。日本の書壇をけん引する最高峰の書家から気鋭の作家まで、豪華なメンバーが注目作を並べている。
道内関係は竹下青蘭・理事の前衛創作「寧」、長沼透石(とうせき)・特別同人の「TOによる悠遠」のほか、加藤泰石(たいせき)・特別同人に中島青霄(せいしょう)、西田徹心(てっしん)、野坂武秀など6同人と57回展で道内から唯一入賞(奎星賞)した小室聡美・正会員まで、10人の作品を展示している。
前衛書中心の大規模な総合展が道内で開かれるのは初めて。長沼透石・同展実行委員長は「道内でなじみの薄い前衛書だが、これを機に理解を深め、親しんでいただければうれしい」と話す。(以下略)
右のカラムにリンクをはっている八重樫冬雷さん(帯広)も「history」という個性的な非文字作品を出品しています。ほか、塩崎学さん(日高管内浦河町)と姥ヶ澤鶴園さん(函館)も出品しています。

あと、出品作の名前に「北海道・帯広」というふうに地名を附してありました。おそらく東京展では、たんに「北海道」だけだったのでしょうが、もし札幌でもこの表記だと、「道内のどこなんだろう」と思いますよね。こういう小さなくふうは、とても良いです。
5月4日10:30から本部役員による作品解説会があります。
入場無料。
08年4月29日(火)-5月4日(日)10:00-19:00(最終日-16:00)
スカイホール(中央区南1西3 大丸藤井セントラル7階 地図B)
盛会のうちに無事終了しました。
前衛書の表現はまだまだ無限であること。
そして基本は書を楽しむことであることが
少しでもわかっていただければ幸いです。
ありがとうございました。
なかなか道内では、前衛書を見る機会がなかったので、良かったです。
いくら文字を離れても、基本は、抽象画ではなく、文字の書であることもわかりました。