ことし1年に読み終えた本は65冊。
2023年の107冊に比べ40冊以上も減り、かなり少ない年になってしまいました。
「あれっ、ヤナイさん、仕事やめて時間できたんじゃないの?」
と言われたら、返すことばがありません。
2025年はもっと本を読み、どしどし勉強に励むことをここに誓います。
この1年、読んでおもしろかった本を、読了した順に挙げておきます。
近代美学入門(井奥陽子著、ちくま新書)
近年の若者の知的水準に合わせたのかどうかはわからないが、非常に平易で読みやすい。カントはともかく、バークなどをやさしくコンパクトに解説した本は、類書が少ないと思う。
安楽死が合法の国で起こっていること(児玉真美著、ちくま新書)
文章や、全体の構成という点では、もう少しじっくり練って編集してもらいたかったけれど、衝撃度では2024年に読んだ本(刊行は23年11月)ナンバーワンだった。みなさんにも読んでいただきたいです。安楽死・尊厳死を合法にすればいいと、安直に考えている人は、先進国のカナダやスイスで何が起きているかを知って驚くはず。日本でこれを導入すれば、この老人は医療費がかかるから治療やめちまおうぜーみたいな流れになる危険性は非常に大きい。導入した国々で「この老人」を医師が機械的に判断するようなシステムになっていることにも愕然とした。
西行 (寺澤行忠著、新潮選書)
「願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎのもち月のころ」。平安末期の激動期に生きた漂泊の歌人として、後世から大きな尊敬を集めた西行の入門書。編年体ではなくテーマ別の構成で、エピソードがふんだんに紹介されていて、とっつきやすい。
大楽必易ーわたくしの伊福部昭伝 (片山杜秀著、新潮社)
若いころから伊福部の自宅に通いその謦咳に接してきた音楽評論家が、伊福部の生涯をたどりながら、その音楽的ルーツに迫った一冊。ジャズやロックも好きな筆者からすると「えっ? 単音の旋律の話だけ?」と言いたくもなるけれど、一般の読者向けにはこれでも十分おもしろく、あの「ゴジラ」のテーマ曲の秘密に迫れたような感じになる。
明恵 夢を生きる (河合隼雄著、講談社 +α文庫)
65冊のうち、鳥獣戯画や高山寺展の仕事がらみで読んだ本が11冊。明恵上人がのこした「夢記」に焦点をあてた異色の評伝で、この僧の人となりをよく伝える。
北海道の簡易軌道 (石川孝織、佐々木正巳著、イカロス出版)
超マニアックな一冊。戦前から戦後にかけて、交通の不便な開拓地に敷かれ、牛乳や人の運搬に役立ったが、道路とトラック輸送の普及により短命に終わった、各地の簡易軌道を徹底的に調査。浜中や別海、枝幸など現地で撮影したカラー写真がふんだんに使われ、廃線跡紀行のガイドもついた至れり尽くせりの本。
南海トラフ地震の真実 (小沢慧一著、東京新聞)
「30年以内に起きる確率が70~80%」という数字が、科学的根拠ではなく、政治的に盛られた数字であることを、新聞記者が粘り強い取材によって明らかにした本。地震学者への取材はもちろん、数少ない根拠とされた江戸期の古文書の解読に決定的な誤りがあることを、高知県の関係者と現場の地勢、古文書にあたって暴露していく。ジャーナリストの執念に頭が下がる一冊。トンデモ本ではありません。
カラー版 パブリックアート入門 タダで観られるけど、タダならぬアートの世界(浦島茂世著、イースト新書)
野外彫刻への関心は少しずつ高まっているけれど、実は、おすすめできる手ごろな本は意外と少ない。小田原のどかさんの本では歯ごたえがありすぎ、かといって、いまさらボリュームがどーの、マッスがどうたらという古くさい文章は読みたくない人に、うってつけの本がこれ。彫刻だけではなく、岡本太郎「明日の神話」、各地の芸術祭や宇部の野外彫刻展、Chim ↑ Pom 通り、ファーレ立川の騒動、排除ベンチにも触れ、パブリックアートをめぐる多くの課題を知ることができる。ただ、初の野外の裸婦像を菊地一男「平和の群像」としているのが惜しい(正解は本郷新「汀のヴィーナス」)。著者は「浦島もよ」名義で、ツイッター(X)で大量のつぶやきをしているライター。
ねぼけ人生 (水木しげる著、ちくま文庫)
「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な漫画家の自伝。ガキ大将だった少年時代、南洋の戦場で片腕を失ったが現地の人と仲良くなった戦中、極貧だった貸本漫画家時代、いつでもマイペースで楽天的なのが救われる。本郷新がちょこっと登場します。
美の思索家たち (高階秀爾著、新潮社)
今年長逝した、日本を代表する美術史家・美術評論家が1967年、当時邦訳のなかった西洋美術史の重要な書物14冊を分かりやすく紹介した一冊。この本の出版後、パノフスキー『イコノロジー研究』、クラーク『風景画論』などは邦訳が出た。“デュシャン以前”のなつかしさを感じる。
セワ゛ストーポリ(トルストイ作、中村白葉訳、岩波文庫)
クリミア戦争に取材した、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』で名高い文豪の初期の小説。戦争の高揚と悲惨さを描写した小説としては先駆け的な作品。正字(旧漢字)。
飛ぶ教室 (エーリヒ・ケストナー作、池田香代子訳、岩波少年文庫)
ドイツの児童文学者は1933年にどんな思いでこの心あたたまる物語を書いていたのだろう。12月に読んだことは、ほんとうに良かった。
渡邉恒雄 メディアと権力 (魚住昭著、講談社)
ナベツネ死去の報に接し、書棚の奥から引っ張り出してきたノンフィクション。敵と味方を峻別し、自分に恭順の意を示さない人間は容赦なく人事で報復する主人公の生き方にげんなり。魚住さんの取材力はすごい。
こうしてみると、歯ごたえのある学術書もほんとうに少ないな。
2025年はがんばろう…。
2023年の107冊に比べ40冊以上も減り、かなり少ない年になってしまいました。
「あれっ、ヤナイさん、仕事やめて時間できたんじゃないの?」
と言われたら、返すことばがありません。
2025年はもっと本を読み、どしどし勉強に励むことをここに誓います。
この1年、読んでおもしろかった本を、読了した順に挙げておきます。
近代美学入門(井奥陽子著、ちくま新書)
近年の若者の知的水準に合わせたのかどうかはわからないが、非常に平易で読みやすい。カントはともかく、バークなどをやさしくコンパクトに解説した本は、類書が少ないと思う。
安楽死が合法の国で起こっていること(児玉真美著、ちくま新書)
文章や、全体の構成という点では、もう少しじっくり練って編集してもらいたかったけれど、衝撃度では2024年に読んだ本(刊行は23年11月)ナンバーワンだった。みなさんにも読んでいただきたいです。安楽死・尊厳死を合法にすればいいと、安直に考えている人は、先進国のカナダやスイスで何が起きているかを知って驚くはず。日本でこれを導入すれば、この老人は医療費がかかるから治療やめちまおうぜーみたいな流れになる危険性は非常に大きい。導入した国々で「この老人」を医師が機械的に判断するようなシステムになっていることにも愕然とした。
西行 (寺澤行忠著、新潮選書)
「願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎのもち月のころ」。平安末期の激動期に生きた漂泊の歌人として、後世から大きな尊敬を集めた西行の入門書。編年体ではなくテーマ別の構成で、エピソードがふんだんに紹介されていて、とっつきやすい。
大楽必易ーわたくしの伊福部昭伝 (片山杜秀著、新潮社)
若いころから伊福部の自宅に通いその謦咳に接してきた音楽評論家が、伊福部の生涯をたどりながら、その音楽的ルーツに迫った一冊。ジャズやロックも好きな筆者からすると「えっ? 単音の旋律の話だけ?」と言いたくもなるけれど、一般の読者向けにはこれでも十分おもしろく、あの「ゴジラ」のテーマ曲の秘密に迫れたような感じになる。
明恵 夢を生きる (河合隼雄著、講談社 +α文庫)
65冊のうち、鳥獣戯画や高山寺展の仕事がらみで読んだ本が11冊。明恵上人がのこした「夢記」に焦点をあてた異色の評伝で、この僧の人となりをよく伝える。
北海道の簡易軌道 (石川孝織、佐々木正巳著、イカロス出版)
超マニアックな一冊。戦前から戦後にかけて、交通の不便な開拓地に敷かれ、牛乳や人の運搬に役立ったが、道路とトラック輸送の普及により短命に終わった、各地の簡易軌道を徹底的に調査。浜中や別海、枝幸など現地で撮影したカラー写真がふんだんに使われ、廃線跡紀行のガイドもついた至れり尽くせりの本。
南海トラフ地震の真実 (小沢慧一著、東京新聞)
「30年以内に起きる確率が70~80%」という数字が、科学的根拠ではなく、政治的に盛られた数字であることを、新聞記者が粘り強い取材によって明らかにした本。地震学者への取材はもちろん、数少ない根拠とされた江戸期の古文書の解読に決定的な誤りがあることを、高知県の関係者と現場の地勢、古文書にあたって暴露していく。ジャーナリストの執念に頭が下がる一冊。トンデモ本ではありません。
カラー版 パブリックアート入門 タダで観られるけど、タダならぬアートの世界(浦島茂世著、イースト新書)
野外彫刻への関心は少しずつ高まっているけれど、実は、おすすめできる手ごろな本は意外と少ない。小田原のどかさんの本では歯ごたえがありすぎ、かといって、いまさらボリュームがどーの、マッスがどうたらという古くさい文章は読みたくない人に、うってつけの本がこれ。彫刻だけではなく、岡本太郎「明日の神話」、各地の芸術祭や宇部の野外彫刻展、Chim ↑ Pom 通り、ファーレ立川の騒動、排除ベンチにも触れ、パブリックアートをめぐる多くの課題を知ることができる。ただ、初の野外の裸婦像を菊地一男「平和の群像」としているのが惜しい(正解は本郷新「汀のヴィーナス」)。著者は「浦島もよ」名義で、ツイッター(X)で大量のつぶやきをしているライター。
ねぼけ人生 (水木しげる著、ちくま文庫)
「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な漫画家の自伝。ガキ大将だった少年時代、南洋の戦場で片腕を失ったが現地の人と仲良くなった戦中、極貧だった貸本漫画家時代、いつでもマイペースで楽天的なのが救われる。本郷新がちょこっと登場します。
美の思索家たち (高階秀爾著、新潮社)
今年長逝した、日本を代表する美術史家・美術評論家が1967年、当時邦訳のなかった西洋美術史の重要な書物14冊を分かりやすく紹介した一冊。この本の出版後、パノフスキー『イコノロジー研究』、クラーク『風景画論』などは邦訳が出た。“デュシャン以前”のなつかしさを感じる。
セワ゛ストーポリ(トルストイ作、中村白葉訳、岩波文庫)
クリミア戦争に取材した、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』で名高い文豪の初期の小説。戦争の高揚と悲惨さを描写した小説としては先駆け的な作品。正字(旧漢字)。
飛ぶ教室 (エーリヒ・ケストナー作、池田香代子訳、岩波少年文庫)
ドイツの児童文学者は1933年にどんな思いでこの心あたたまる物語を書いていたのだろう。12月に読んだことは、ほんとうに良かった。
渡邉恒雄 メディアと権力 (魚住昭著、講談社)
ナベツネ死去の報に接し、書棚の奥から引っ張り出してきたノンフィクション。敵と味方を峻別し、自分に恭順の意を示さない人間は容赦なく人事で報復する主人公の生き方にげんなり。魚住さんの取材力はすごい。
こうしてみると、歯ごたえのある学術書もほんとうに少ないな。
2025年はがんばろう…。