つまらぬ話をひとつ。
先日ロンドンでバスに乗った時のこと。スーパーでちょっとした買い物をした後自宅まで、天気も悪く暗くなってきたので普段なら歩くところをバスに乗ってみた。乗ったバスはほぼ満席で、中ほどまで入ったところに立っていたところ、決して若くはない男性が立ち上がって席を譲るという。ありがとう、しかしすぐに降りるし、大丈夫だ、と丁重に断ったがそれでもどうぞどうぞと座っていた席を譲ろうとする。本当に大丈夫だから、ともう一度言ってやっと納得してくれた。一瞬、質の悪い嫌がらせかか、という考えまでが頭をかすめたが彼の表情やふるまいからそのようには見えなかった。
これまで、日本でもイギリスでもバスや電車などの乗り物で席を譲られたことはない。むしろ、マタニティーマークを付けている人(イギリスにも日本と同じようなマークがある)や体の不自由な人、お年寄りにはいつも譲っていたほうなのに、今回は自分がよほど年寄りに見られたのだろうか?あるいは何か体の調子が悪いとでも思われたのか、しかし別に顔色や体調が悪いということもなかった。
イギリス人には時に押しつけがましいほどの騎士道精神を発揮する人がいることは確かだが、それにしても一般的には年齢より若く見られるという東洋人の自分に席を譲ろうとするとは・・・
幸い今は歩くことなら何の不自由もないし(自慢になるが歩くのならどこまでも歩くことが出来る)、特に肥満体形ということでもない。とすれば容貌がよほど老けて見えたのだろうか、それならそれで暗澹たる気分になる。いつから席を譲られて素直に受け入れられるようになるのか。たぶん体が衰えて、立っているのが辛い、と感じるようになる時がそれなのだろう。一方で、自分の姿は自分ではなかなか見えないものだ。
今はまだその時ではない。それまでは、席を譲られても固辞することにしよう。自分よりもっと席を必要とする人がいると信じて。