大学時代からの親友の一人が旅行中の東京で体調を崩し入院、10日も持たずに肺炎で亡くなった。古希にもまだ間のある、思いがけない、あっけない最期。昨日、町屋の斎場で対面し最後のお別れをしてきた。彼はいつもと変わらない、穏やかで、すっきりした顔をしていた。まるで眠っているようで、おい、起きろよ、と声をかけたくなるのを抑えるのがやっとだった。彼と最後に会ったのは先月の6日。同じ大学の同級生5人で飲んだのが昨日のことのように思い出される。そういえば我が家の庭の桜が満開になった今年の春、花見をしようと友人とともに家に呼んで痛飲したこともあった。この50年ほど、彼と飲んだ回数は数えきれない。日本酒をこよなく愛する男。無頼を装ってはいたが本当は人の痛みや苦しみの分かる優しい心の持ち主。鋭い批評眼や広い分野の知識、記憶力。どんな失礼な言辞や嫌味にも笑って受け止める度量の大きさ。声が良くて歌も上手だった。そんな彼がなぜ、まるで選ばれた者のようにこんなに早く死出の旅に出てしまったのか。お互いに仕事の第一線を退いたここ数年は二月に一度くらいの割合で飲んでいた。ただ、不意打ちのような今回の突然の死だが、思い当たる節が無いでもない。ほぼ3年前、友人たちと飲んでいて彼は気分が悪くなり、救急車で病院に搬送されたことがある。その際は一時重篤となったがまだ体力に余裕があったせいが、奇跡的に回復した。家族はきっと今回も同じような回復を祈っていたのだが二度目の奇跡はおこらなかったのだ。
いきなり背後からけられたような、人生の無常をこれほどまでに思い知らされたことはない。人間いつかは必ず死ぬという単純にして厳然たる事実を、目の前に墨書された大きな紙を突き付けられた感じだ。
家族を残して一人旅立ってしまった彼がかわいそうで、ただただ寂しい。