飛行機や新幹線の座席を指定する際、基本的には窓側の席とするようにしている。国内の移動であれば長くても2時間程度だから特に席を立つこともないし、何よりも一方が窓なので気を遣うのが片方だけで済む。通路側は自分が席を立つときには都合がいいが、逆に窓側の乗客が席を立つときには場所を明けなくてはならないし、通路を人が歩くとそれなりに気になるからだ。
先日、急な用事で羽田から千歳へJALで旅行した時、空港のカウンターで通路側の席しかないが、と言われた。わずか1時間ほどの飛行時間であり、特に気にもならないので通路側C席とした。JALの搭乗は、介助が必要な人や2歳以下の乳幼児を連れた家族などが事前改札で最初に飛行機に乗ることが出来る。その次に優先搭乗グループ1,2と言う、座席のクラスやステータスなどが航空券に記載されていてその順番で搭乗することになっている。指定のC席に辿り着いたら、窓側からの2席に若い夫婦と膝の上に1歳ほどの赤ん坊、という家族が既に着席していた。そのままC席に座ろうとしたら、その夫婦から窓側の席と代わってくれないか、という申し出。理由は、その赤ん坊が泣きだしたりして時には通路を歩いてあやしたいから、ということ。その便はほぼ満席で他に移動する席もないので申し出通り席を代わることにした。赤ん坊は気圧の変化に敏感なのだろう。案の定離陸する前から泣き止まないのでシートベルト着用サインが消えるとその夫婦は交代で抱っこして通路を歩いたりしながらあやしていた。
到着後、雪の降りしきる中で自分が駐車場行のバスを待っていたら、その一家が通り過ぎてこちらに挨拶をしてきた。もう泣き止んではいたがその赤ん坊の頬にはまだ大きな涙粒がひとつ残っていた。
飛行機で席を代わったというのはこれまであまりない。一度、羽田からロンドンに向かった際、窓側の席を予約したのに乗ってみたら若い女性が自分の席に座っていたことがあった。よほど忙しいのか、もう書類をいくつか広げていている。搭乗券を確かめて見ると通路側が予約してある。彼女は、窓側を予約したはずなのに何か手違いがあったに違いない。ついては席を代わってくれないか、という。一瞬躊躇したが、こちらも一人旅で差し迫った仕事もないので、CAに伝えて席を代わることにした。出発してしばらくして、彼女から自分はPR会社で働いていて今はスロベニア観光庁の依頼で旅行客誘致のCDを作成をしており、仕上げのために現地に向かうところだとお礼かたがた話しかけてきた。この仕事が終わったらCDを送ります、とほとんど忘れたころになってからCDが送られてきた。
「袖すり合うも他生の縁」というから、いつかまたどこかで彼らと巡り合うことがあるかもしれない。