普段クリスマスカードのやり取りしかないロンドンの知人から突然の手紙。不審に思い、なにか不吉な予感がした。手紙の書きだしは本人及び家族の無事なこととこちらへの消息伺いという定型のものだったが、その後でロンドン駐在時に親しくしていた隣家の不幸の連絡。たぶん70歳前後になると思われるが、隣家の夫人がすい臓がんで5月末に逝去したと。急速に病気が進行して、数週間のうちに帰らぬ人になったという。たしかにすい臓がんは発見しずらく、また進行の速いがんだが、こんなにはやく亡くなるとは思ってもいなかっただろうと思う。数年前、主人が勤めていた大手石油会社を停年退職してロンドンから小一時間ばかりのGuildfordにそれまでよりは一回り小さな家に引っ越したという連絡があって訪ねたことがある。小ぶりの庭はきれいに手入れがされていて、このくらいの大きさが歳をとった今はちょうどいい、と言っていた。主人はどちらかというと寡黙で、夫人がおしゃべり好き、クッキーを主人が出してくれたものだ。あの快活な連れ合いに先立たれて、主人もさぞかし気落ちしていることだろう。英国の気さくで勤勉な慎ましやかな家庭の典型のように思われたあの夫婦。一男一女の子供も独立し、孫を楽しみにしていた夫人ともう二度と会うことができないと思うと寂しい。
ご主人は悲しみを乗り越えたとこの知人は伝えてきてくれた。たぶん、主人がこのことをこちらには伝えていないだろうとわざわざ連絡してくれたのだ。外国人の自分にも、こんな細やかな気配りのできる英国人の良さが伝わってきた。お礼の手紙を知人に出し、次回ロンドン訪問時にはもしまだ住んでいるのならあの静かなGuildfordの自宅を訪ねてみようと思う。