無人になった街を指して「ゴーストタウン」ということが言われる。さびれた、という意味でも使用されるが、そもそも、ゴーストという言葉は、一般的には亡霊、幽霊、怨霊と、一旦死んだ者や滅びたものがよみがえってきたものと訳される。しかし、ゴーストタウンを「怨霊都市」と呼べばなんともおどろおどろしい感じが出てくるので躊躇してしまうだろうし、「幽霊都市」、ではそもそも存在さえしなかったのではないかと思われてしまう。やはりゴーストタウンとしたままのほうが良いように思う。
ゴースト、あるいは亡霊といえば、自分がまずおもいつくのは、シェイクスピアのハムレットだ。父の亡霊がハムレットをかたき討ちへと導いてゆく。また、ゴーストには恐怖というよりも畏怖の念を想起させるものがある。恐怖と畏怖の線引きはむつかしいが、ゴーストには影、というニュアンスもあり、実態がないが影がありそれが人を驚かす、動かす、といった具合だ。
この、ゴーストが畏怖の念を催すという点では、ロールスロイスの車名には、シルバーゴースト、ファントム(怪人)、レイス(スコットランドの幽霊)など、一見驚くような名詞が使われていることでもわかる。これはゴーストという名詞の持つ超自然的な、あるいは超越的な存在といった意味が、選ばれし者、貴族階級や富裕層の優越感をくすぐるのだろう。世界の王室、国家元首の御料車を見れば多くの国でロールスロイス派とベンツ派に分かれるが、一般人の使用には敷居が高く、自らが不釣り合いと感じさせるのはロールスロイスだ。ロールスロイスに乗るには経済力ではなく、名誉や伝統が備わっていなければならない、といったものだ。お金だけでは買えないものがあるということを誇示していることで、ベンツは社用車にしても違和感がないが、さすがにロールスロイスはそれにふさわしくないと思わせるのだろう。
車名のほかにもロールスロイスに関する伝説は多い。かつては、エンジンの出力を数値表示することなく、十分な馬力を備えている、というだけだった(数字を出すなどというのは普通の車のすることでロールスロイスはそう言ったものを超越しているという誇り)し、また、その堅牢なことでは、ある紳士がヨーロッパ旅行に出かけ、スイスの山道でクランクシャフトが故障。早速工場に電話してパーツを送ってもらうよう要請するとヘリコプターが飛来し整備工が降りて来ててきぱきと修理し、再びヘリコプターで飛び去った。帰国した紳士は修理代の請求が来ないことに不審を抱き再び工場に電話したところ「当方の記録にはそのような事実はございません」と言われ、「しかし現に私は大陸旅行をし、クランクシャフトをダメにし、空輸してもらったんだ」と食い下がるが「お客様、ロールス・ロイスのクランクシャフトは壊れません」と言われたという都市伝説だ(Wikipediaからの引用)。
最近は、ゴーストというと、IT関係での映像の不具合などにも多用されるようになって、かつての墓場からよみがえってくるような恐怖感を催すものではなくなりつつあるが、いろいろな想像をかきたてるゴーストという言葉に趣を感じてしまうのは懐古趣味か。しかし、コロナウイルスで、地球上がゴーストタウンだらけになることは避けたいと願う。
北海道はやっと桜の季節を迎えた。澄んだ空を背景に、ほころび始めた庭の桜(エゾヤマザクラ)。