回顧と展望

思いついたことや趣味の写真などを備忘録風に

ゴースト

2020年04月30日 08時23分55秒 | 日記

無人になった街を指して「ゴーストタウン」ということが言われる。さびれた、という意味でも使用されるが、そもそも、ゴーストという言葉は、一般的には亡霊、幽霊、怨霊と、一旦死んだ者や滅びたものがよみがえってきたものと訳される。しかし、ゴーストタウンを「怨霊都市」と呼べばなんともおどろおどろしい感じが出てくるので躊躇してしまうだろうし、「幽霊都市」、ではそもそも存在さえしなかったのではないかと思われてしまう。やはりゴーストタウンとしたままのほうが良いように思う。

ゴースト、あるいは亡霊といえば、自分がまずおもいつくのは、シェイクスピアのハムレットだ。父の亡霊がハムレットをかたき討ちへと導いてゆく。また、ゴーストには恐怖というよりも畏怖の念を想起させるものがある。恐怖と畏怖の線引きはむつかしいが、ゴーストには影、というニュアンスもあり、実態がないが影がありそれが人を驚かす、動かす、といった具合だ。

この、ゴーストが畏怖の念を催すという点では、ロールスロイスの車名には、シルバーゴースト、ファントム(怪人)、レイス(スコットランドの幽霊)など、一見驚くような名詞が使われていることでもわかる。これはゴーストという名詞の持つ超自然的な、あるいは超越的な存在といった意味が、選ばれし者、貴族階級や富裕層の優越感をくすぐるのだろう。世界の王室、国家元首の御料車を見れば多くの国でロールスロイス派とベンツ派に分かれるが、一般人の使用には敷居が高く、自らが不釣り合いと感じさせるのはロールスロイスだ。ロールスロイスに乗るには経済力ではなく、名誉や伝統が備わっていなければならない、といったものだ。お金だけでは買えないものがあるということを誇示していることで、ベンツは社用車にしても違和感がないが、さすがにロールスロイスはそれにふさわしくないと思わせるのだろう。

車名のほかにもロールスロイスに関する伝説は多い。かつては、エンジンの出力を数値表示することなく、十分な馬力を備えている、というだけだった(数字を出すなどというのは普通の車のすることでロールスロイスはそう言ったものを超越しているという誇り)し、また、その堅牢なことでは、ある紳士がヨーロッパ旅行に出かけ、スイスの山道でクランクシャフトが故障。早速工場に電話してパーツを送ってもらうよう要請するとヘリコプターが飛来し整備工が降りて来ててきぱきと修理し、再びヘリコプターで飛び去った。帰国した紳士は修理代の請求が来ないことに不審を抱き再び工場に電話したところ「当方の記録にはそのような事実はございません」と言われ、「しかし現に私は大陸旅行をし、クランクシャフトをダメにし、空輸してもらったんだ」と食い下がるが「お客様、ロールス・ロイスのクランクシャフトは壊れません」と言われたという都市伝説だ(Wikipediaからの引用)。

最近は、ゴーストというと、IT関係での映像の不具合などにも多用されるようになって、かつての墓場からよみがえってくるような恐怖感を催すものではなくなりつつあるが、いろいろな想像をかきたてるゴーストという言葉に趣を感じてしまうのは懐古趣味か。しかし、コロナウイルスで、地球上がゴーストタウンだらけになることは避けたいと願う。

北海道はやっと桜の季節を迎えた。澄んだ空を背景に、ほころび始めた庭の桜(エゾヤマザクラ)。

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ピアニスト

2020年04月29日 08時50分41秒 | 日記

コロナウイルス感染拡大防止のため無人となった都市風景から連想したのは、ポーランドのピアニストで作曲家のウワディスワフ・シュピルマン(1911-2000)の『ある都市の死』(原題はŚmierć miasta、英語ではThe Pianist)を原作とする2002年の映画「The Pianist(日本語題名は、戦場のピアニスト)」。ロマン・ポランスキー監督のこの映画を観たのはニューヨーク在住だった2003年、その年この映画はアカデミー賞の監督賞、主演男優賞に脚色賞を受賞した。ナチスドイツによる徹底的・計画的な爆破により全市ががれきの山となり廃墟と化した誰一人いないワルシャワ(その描写が極めて印象的)の街を食料と暖を求めてさまようシュピルマン。彼の命を救うことになるドイツ将校の前で弾くショパンのノクターン嬰ハ短調曲。ユダヤ人強制収容所の残酷さ。ピアノ演奏を放送中にナチスドイツ軍に乱入され占拠された放送局とそれを戦後に再び弾き継ぐシュピルマンの執念と敗者が入れ替わるような歴史の展開。

この映画に触発されて作成されたCDは数多いが、この映画を観た後に買ったのが1948年から1980年の間にシュピルマンにより演奏されたピアノ曲集をおさめたCD。このCDは演奏している彼の写真がジャケットになっている。それに簡潔な説明文も。時代を感じさせる音質は必ずしも良いとは言えないが、この映画の主旋律ともいうべきショパンの悲しげな感じが、そして、想像を絶する苦難を乗り越え、最後まで希望と尊厳を持ち続けた彼の演奏には、人の心を打つものがある。

終戦直後の1946年にシュピルマンによって出版された『ある都市の死』(Śmierć miasta)を、特に共産党時代のポーランド政府の妨害を受けながらも復刻を成し遂げたのは息子のアンジェイで、もう一人の息子クリストファーは日本人と結婚し日本に移住して大学教授を務めていた。日本との深い縁も感じる。

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廃墟

2020年04月28日 10時19分53秒 | 日記

最近頻繁に報道されている世界の主要都市の人影の完全に消えた都心、例えばマンハッタンのタイムススクエア―、ロンドンのリージェントストリート、パリのシャンゼリゼ、東京の銀座中央通りなどの風景からは、廃墟、という言葉が頭に浮かんでくる。コロナウイルスの惨禍からしばし離れてみると(実際には建物は何ら棄損していないので、廃墟というのは正しくなく、あくまで想像の産物にすぎない)、この廃墟という風景がかつて画家や音楽家の感性を刺激し、そこに新たな美しさを見出して、芸術作品に姿を変えてきたのは不思議ではない。絵画では、廃墟画ともいうべきジャンルが確立されているし、それを特集した展覧会がひらかれたこともある。もちろん、それらは、必ずしも考古学的な価値のあるものばかりが描かれたわけではない。レスピーギの「交響詩ローマの松」からはカタコンベやアッピア街道などの情景を思い浮かべることが出来る。

廃墟が人を引き付けてきたものは、それのもつ独特の美しさとともにやはり無常観といったものもあるのではないだろうか。廃墟から人が見るものは、本来生命の無いはずの建物・建造物にも人間と同じような老いや死を見るからに違いない。ひとは人間の命の有限性、生のはかなさ、不死なものはないという事実を突きつけられ恐れおののくと同じように、建物などの人造物にも老いや死があるという共感を呼び起こすからか。ただ違いは、人間は全く消え去ってしまうのに、建造物は廃墟として(美しくさえ)生き残ることが出来るということだろう。ただ、新築の建物にさえ、廃墟となった後の美しさを求めてその想像図を描かせたものもあるが、そこまで来るといささか偏執狂的なものさえも垣間見るような気がする。

1993年に出版されたRoyal Academy of Artsの「英国水彩画黄金期(1750-1880)」の表紙は、ジョン・セル・コットマンのCroyland(Crowland) Abbeyの廃墟である。このことからも英国絵画の中で廃墟が重要なモチーフになっていることがわかる。

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レンギョウ

2020年04月27日 10時12分44秒 | 日記

外出自粛(移動自粛)で専ら今いる北海道の庭の草木に目を向けるようになった今年の春、桜や梅の花に気を取られていたら生垣のすぐそばに植えてあるレンギョウが花を付けていた。まだ、三分咲きといったところだろうか。この黄色い花は遠くからでもよく目立つ。近所の庭のレンギョウは地面から放射状にのびやかに空に向かって華やかに咲いているのだが、我が庭のレンギョウは、一時は生垣を乗り越えて道路に飛び出すほど余りに樹勢が強かったので毎年刈り込んでいったら、いつの間にか控えめな球形のこんもりとした形に変わってしまった。北海道では春の先駆け、とでもいうように、こぶしの白い花と競うように咲いているのがよく見かけられる。桜、モクレンの開花も間近。今朝も気温が低いので梅の花はまだ開かない。

先日はタイの友人から連絡があったが、今日は現地で旅行会社を経営しているニューヨークの知人からメール。安否を尋ねたのに対して、彼女からはコロナウイルス感染への心配よりも今後の景気回復についての不安や政府の支援についての不満が書き込まれていた。病気から生き延びることはもちろんだが、一方で会社経営や生活のことも切迫した事柄。新規感染者数が一応のピークを迎えつつある今、アメリカの関心は、すでに経済(復興)のほうに移っているような感じを受けた。ただ、何事にも弁護士や会計士がかかわるアメリカ社会のこと、こういった専門家がまだ機能不全にあるようで、友の悩みは深い。

振り返ってみると、6年前の今日4月27日、北海道にいてレンギョウの写真を投稿していた。結局のところ、大きな自然の営みの中では季節は同じことを正確に繰り返しているようだ。

 

 

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Love Never Dies

2020年04月26日 14時51分23秒 | 日記

先週は「オペラ座の怪人」だったYoutube無料ミュージカル録画、今週はその「オペラ座の怪人」の10年後を描いた続編、「Love Never Dies」が本日ロンドン時間午後7時(日本時間明日午前3時)まで視聴できる(2011年メルボルンでの公演録画、英語の字幕付き)。

https://www.youtube.com/watch?v=eXP7ynpk1NY

先ほど見終わったが、映像は鮮明、Stay Homeを実践されているAndrew Lloyd Webber のファンがこのミュージカルをどう評価するかはともかく、一見の価値はあると思う。

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