回顧と展望

思いついたことや趣味の写真などを備忘録風に

オーストリアの友人

2021年02月28日 17時45分17秒 | 日記

38年ほど前にロンドンで知り合ったオーストリア人の友人がいる。家が近く通勤電車が同じで、やはり同じような仕事をしていたし同じような年齢だったのでいつの間にか親しくなった。彼に誘われて年末から正月にかけをウィーンで過ごしたことがある。シェーンブルン宮殿の近くのレストランで大晦日からカウントダウンをして新年を祝い、痛飲したことが懐かしい。内陸部特有の刺すように冷たい風の吹く中、転げるようにしてホテルに戻ったのを思い出す。

彼は家柄が良く、大学を出た後、若手有力政治家の秘書官になったが、その政治家がその後泥沼の政争に敗れて失脚、それでも彼に相応の仕事を斡旋してくれ、ほとぼりの冷めるまでということでロンドンに駐在していた、という経歴の持ち主だった。目から鼻へ抜ける、という表現が当たると思うが、それでいてユーモアのセンスに富んでいて憎めない人柄だった。その後、コンサルタントに転身し今では悠々自適な生活をしている。その政治家は結局復権することができず、そのために彼も、必ずしも思い描いたキャリアではなかっただろうが、それを受け入れて恨みがましいことを口にすることはなかった。彼には1984年のザルツブルグ音楽祭の切符を手配してもらったこともある。その時すでにかなり高齢でカーテンにつかまりながら舞台に出てきたカラヤン、彼の指揮した「ばらの騎士Der Rosenkavalier」は圧巻だった。

オーストリアは人口は880万人ほどでありながらこれまでのコロナの感染者は日本とほぼ同じ45万人余り、死者数は8500人を超えている。人口が日本の14分の一ということから考えると極めて深刻な状況だ。最近ではクリスマスカードのやり取りくらいしかないが、いつかメールでも打ってみよう。

音楽祭のプログラムと、オーストリア製のアンテークな花瓶。1886年とあるがどうだろう。台のあたりが擦り切れてところどころ色が落ちてしまっている。

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ミニチュア

2021年02月27日 14時35分04秒 | 日記

タワーマンションの上層階からの眺望やガラスとスチールでできた機能的で清潔な部屋には都市生活の魅力があると思うが、一方で緑に囲まれた静かな環境も人を惹きつける。かつてイギリスの貴族階級は大都会には仕事のための住まいをもち、仕事のない時には広大な敷地に芝生や林に囲まれた本宅を持つことを常としていた。こういった本宅がカントリーハウスと呼ばれる。しかし、そういうことのできる特権階級はほんの一部であり、ほとんどの人はそんな贅沢な選択は持ち合わせない。都市での生活を選ぶかあるいは少し不便でも田舎の生活を選ぶか、ということになる。自分の限られた知識や伝聞からではあるがイギリス人はできるのであればいつかは静かな田舎に住みたいと思っていると思う。特にある程度歳を取るとその傾向は強くなっていくようだ。

40年ほど前にロンドンに駐在になって、週末に郊外に出かけて感じたことはイギリスの田舎の風景が清潔で豊かに見えたことだ。どんな田舎でも、どんな細い道路も舗装されていたし、どこでも電線が地中に埋められているので電柱や電線が風景を損なうこともない。深い緑の中に石造りの家が肩を寄せるようにして道路の両側に連なっているのを見ると田舎暮らしを夢見るイギリス人の気持ちが理解できるような気がした。

翻って赴任の前に仕事で何度か日本の地方、農村地帯を訪れる機会があったのだが、そのころの農村風景には建物に統一感もなく、表現が不適切かもしれないがくたびれたような家が目について、必ずしもひとをひきつけるものではなかった。それだけにイギリスの農村風景が新鮮に見えたのだと思う。日本の家屋の大半が木造でトタン屋根が主流だったのに対してイギリスの家は農村であってもその地域の石を使用した重厚なもので年月を重ねるごとに趣が増すようにも感じたから、小さくて少し傾いていたとしてもうらぶれたという感じはなった。

もともと100年程度は持ち堪えられるようにできている石造りの家と、流行を追って2-30年ごとに新しい家に建て替えることを前提にしている日本の家とでは比較するのは無理があるのかもしれない。それにイギリスの農村風景は産業革命や多くの植民地によって潤っていた大英帝国からの遺産でもあるのに対し、日本のそれはまだ短く更に敗戦による国土の破壊などもあって蓄積が違っていたのも事実だろう。

しかしながらここ30年ほどの日本の農村の風景や農家の佇まいの変化は著しい。新幹線などから望む農村の風景は、新しい瀟洒な大きな家が立ち並び、住環境は決してイギリスの農家に引けを取らない。それは何も農村の家だけではなく、道路や公園の整備についても言えるだろう。経済の停滞が長く続いてはいたけれども、日本は着実に量から質への転換を行ってきたのだと思う。惜しむらくはいまだにそこかしこに電柱が立ち並び電線が空を切り裂いているところの景観がいささか残念だと感じさせるところか。

1982年にデイヴィッド・テイトが創業したリリポットレーン(Lillipot Lane)はイギリスの観光名所から始まって地方の民家や漁師の家まで、そのミニチュアを手作りで製造することで一時代を画した会社。作られたミニチュアは細部まで再現され、家に絡まるつる薔薇、フラワーポットや敷石も本物と見紛う。今にも扉を開けて人が出てきそうな精巧な、そしてどこか温かみのあるミニチュアはイギリスの田園生活に対する人々の憧れに応えるものでもあった。これを見ていればどこにいてもイギリスの生活の一端を味わうことができる。それなりに人気はあったのだと思うが、この会社はしかし、2016年に工場を閉め製造を中止してしまった。翌2017年創業者のテイトは9年に及ぶ癌との戦いの末死去。こういった味わい深いミニチュアが再び作られるようになるのはいつのことか。

茅葺き屋根(Thached Roof)コテッジのミニチュア。

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新古典主義

2021年02月26日 17時51分16秒 | 日記

出来るだけ外食を避けようと思っているが、今日の昼は久しぶりに近くの蕎麦屋へ。いつもはいかにもおかみさん、という感じの人が注文を取りに来るのだが今日はまだ若い、たぶんアルバイトのような女性が注文を取りに来た。しかし、きちんと教えられたのか、よくとおる声で手際よくさばいている。マスクをしているからよくはわからなかったが多分すっきりとした顔立ちをしているのではないか・・・。とてもさわやかな気分にさせてくれる店になっていた。

月末の金曜日ということなのか、次々と客が入ってきた。カウンター席はかつての半分になっているし4人掛けのところには原則二人、という感染対策。やはり長居は無用、ということで早々に退散した。そのあとは気分転換を兼ねて(e-Taxで少し煮詰まってしまったので!!)ガラクタの整理を。このペアの花瓶は新古典主義の画家の作品を焼き付けたもので、図体が大きいのと、鮮やかな藍色にひかれてロンドンのどこかの骨董市で安く買ったものだと思う。花瓶とは言うものの、実際に花を活けたことはなく、単なる飾りになっている。

貴族的、退廃的なロココ趣味に対する反発から生まれた、ギリシャ文化への回帰を目指す、形式的な美や写実性を追い求めた新古典主義の芸術家の一人がオーストリア人(スイス生まれ)の女流画家アンゲリカ・カウフマン(Angelica Katharina Kauffmann)。18世紀後半にはヨーロッパ大陸はもとよりイギリスでも活躍、多くのファンやパトロンを得ていた。また、ローマではそこに滞在していたドイツの大作家ゲーテとも親交を結んだ、一世を風靡した画家である。

残念ながら彼女の作品には多様性(!!)や表情に乏しかったこともあり、色使いは高く評価されたものの、その名声は長続きしなかった。それでもロンドンには彼女の手掛けた装飾が残っているし、彼女の描いた自画像や肖像画は世界的に有名な美術館にいくつも展示されている。祖国オーストリアのかつての100シリング札に彼女が描かれていたこともあった(今はオーストリアはユーロが法定通貨でシリング札はもうない)。

右下にカウフマン、と。

左下に。

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カイザー

2021年02月25日 17時51分46秒 | 日記

コロナ禍による緊急事態宣言期間のせいで申告期限が4月15日まで1か月延長になった今年の所得税の確定申告。以前は所轄の税務署に行っていたのだがここ数年は自宅のパソコンからe-Taxにより申告している。友人の税理士からは「大丈夫か?」と冷やかされているが、落ち着いて指示に従って入力ればそれほど難しいことはないと思っている。ただ、作成作業を中断するときに、それまでのデータを確実にダウンロードしてどこかに格納しておかないと再度入力しなければならなくなるところは注意が必要だ。申告期限は伸びたが、既に証明書の類は揃っているし、これから何か変わるわけではないからそろそろ提出しようと準備を始めたところ。

アメリカに勤務していた時の税務申告はさすがに自分では難しいし、税務署から照会が来た時のことを考えて会計事務所に任せていた。そのため、一度かなり膨大な書類に署名するだけであとは委任状を差し入れている会計事務所が処理してくれる。もちろん有料で。アメリカでは基本的に個人で申告しなければならず、日本のように会社からの給与だけなら会社の人事部がすべて処理しくれるというのとは違っていた。アメリカは日本のような終身雇用が一般的ではなく、機会があればためらわずに会社や組織を渡り歩くのが普通だったからだろう。社員がいつ辞めてもおかしくないから、雇うほうもいつでも社員を解雇できる制度になっていた(Employment At Willの場合 )。会社と社員の関係は家族的、ということはなく、契約に基づくお互いに割り切った関係だった。アメリカの所得税は日本の国税に当たる連邦税と、住んだり仕事をしている場所におさめる地方税(州税)とがあった。連邦税は一律だったが州税は当然州によって異なる。だから金持ちは税率の低い州に移住することもよくあった。

たしかにこのe-Tax制度は便利で、特に今のように3密を避けようという意味では有効だと思う。ただ、かつてはこの申告期間中、普段は静かな税務署がにわかに活気づき、外まで行列ができたり、中では税務署員が走り回って申告書の書き方を教えていた喧噪が懐かしいような気もする。季節感が一つなくなったような気がする。「マルサ」というといかにも恐ろしい響きだが、こういう時はとても柔和だった・・・

昔からあるドイツ、カイザーのアンティークな燭台のセット。黄色と赤のバラが少し色あせてきている。売るつもりはなく、どうせ大した値段でもないだろうから、これからも税務署のお世話になることはないと思う。

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大英帝国?

2021年02月24日 16時00分42秒 | 日記

昨夜、ロンドン在住の友人たちとSkypeで会話。60代後半の二人ともすでに今月上旬にコロナのワクチン接種を受けている。接種に当たってはファイザー製かアストラゼネカ製かの選択が可能だったが、彼らはアストラゼネカを選択、国民保健サービス(NHS)から連絡が来て指定の場所に赴くと驚くほどスムーズに終了したとのこと。人員不足というようなことが報道されていたそれがどこにでも当てはまるわけではないようだ。これまでに国民の26%以上が接種済みというのは世界の主要国の中では最も進んでいる数字。初期対応の遅れが目立ったイギリスがここにきて対応の着実な進捗を見せている。

移動や集会の制限など未だ厳格な都市封鎖の中にあるものの今後は徐々に緩和される見込みだ。ただその道程表は明らかにされていない。イギリス人は、普段から寒い暗い冬を屋内でどうやって快適に過ごすかの知恵を身に付けているからこういった都市封鎖の中でもユーモアのセンスを失わずに過ごすことができるのだろう。少なくともなんでも「行政が寄り添わねば」とか、自分の身は自分で守るという当然のことを「過剰な自己責任」と批判するメデイアとは無縁のようだ。

このところ、BREXIT(EU離脱)の不確実性から解放されたイギリス経済には薄日が差している。ポンドは強含みだし不動産市況も持ち直している。そのせいかロンドンはいたるところで建物の改修工事が進んでいると。EU のように官僚的ではない、現実的なイギリス人の気質もその回復に一役買っているようだ。仕事や通学、通院などどうしても避けられない用事がない限り外出を禁じられているロックダウンは日本の緊急事態宣言の比ではない。住んでいる地域からの外出も制限されている。しかし、日頃は非効率で有名なイギリス社会が、報道されているところから感じるよりはるかに効率的にワクチン接種が進んでいるというのは少し意外。

そうは言っても社会の正常化にはまだしばらく時間がかかるだろう。それには早くても9月くらいまではかかるのでは、というのが友人たちの意見だった。ワクチン接種にしても、実のところはイギリスが先行しているというよりはEU各国が遅れているという側面もある。

そういう視点から見ると、むしろ今回のコロナ対応ではBREXITが良い方向に働いているという皮肉な感じがする。不毛な原則論や議論を避けて現実的な対応をする特性、これがかつて七つの海を支配した秘訣であり、賛否はあるがその成功の原動力になったのかもしれない。コロナ禍の収束にはまだ道半ばではあるが、少なくともトンネルの先に明かりが見えてきた、というのが今のイギリスの雰囲気ではないだろうか。このところ春の兆しのような天気の続いているというロンドン。暗い冬から春へと人の気持ちも明るくなってきているようだ。

37分と少し長いが、10日ほど前のロンドン中心部を撮ったYoutube。観光客の姿の見えないロンドンの閑散とした様子をうかがえる。

(82) ❄Winter Snow Walk through Mayfair London 2021❄ - YouTube

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