第一次大戦最末期、ソビエト誕生期のレーニン(ボルシェビキ)と新設の英国秘密情報部の凄まじい暗闘を描いたこの本はこの時期の歴史観を転換させるくらいの迫力で、かつ文字通り息もつかせぬスピードで展開する。密告、二重スパイ、陰謀、そして敵は相手方のみならず味方にもいるというまさにスパイ映画そのものだ。大物では特に後の英国首相チャーチルの変節が興味深い。
さらには映画007のジェームズ・ボンドのモデルと思われる情報部員も登場するし、エンターテインメントとしても一流。そして、何よりレーニン(ボルシェビキ)の世界制覇の野望が明らかにされ、それがいかに血なまぐさいものかを思い知らされる。レーニンのようなモンスターにはおそらくヒットラーだけが対抗馬になれるだろう。
ソ連とイギリス秘密情報部の暗闘はまさに007シリーズ第二弾「ロシアより愛をこめて」の構図だ。この映画、偶々昨日、BS日テレで放映されていた。ショーン・コネリーが演じるジェームズ・ボンドはいかにも大人のスパイだ。ただ、吹き替えの若山弦蔵の声が重厚すぎて、第一線で活躍する俊敏なスパイの声にいささか不釣り合いではあったが・・
英語版「Russian Roulette」は2013年に刊行された。原作者ジャイルズ・ミルトンの徹底的な資料調査には驚嘆させられる。この本は、最近では佐藤優が盛んに強調するインテリジェンスー情報の重要さを改めて思い知らせるとともに、ロシアがその文化、思想において100年前と何ら変わっていないことに気づかせてくれるということで極めて有益だ。