少年カメラ・クラブ

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スナップショット的研究開発

2013-08-01 20:09:41 | その他
何の因果か、いわゆる研究開発のような仕事を何十年もやってきた。新しいテーマを提案 したり、困ったことがあるから手伝って欲しいと頼まれたり、上の人からネタが降ってき たりと、いろんなパターンで様々なテーマに関わってきた。そんな中で研究開発の最も オーソドックスなやり方は、①市場を調査して消費者のニーズをつかみ、②それに基づい て技術を調査(特許調査なんかも含まれる。)を行う。③さらには技術を提供してくれる メーカーなんかも調べて、自分の位置づけを明確にしてテーマを立ち上げる。もちろん実 用化までにかかる費用や人員の投入なども見積もる必要があるだろう。まさに「企画」と いう言葉がぴったりの仕事である。

だけど、個人的にはこういうパターンでテーマを立ち上げてうまくいった経験はほぼゼロ である。もっというと、こういうやり方でテーマが走っているのを見ると、たぶんダメな んだろうなあとさえ思えてくる。方法論に何の異論もないのだけれど、とにかく、うまく いきそうな感じがしないのである。

話は変わるが、モノクロ写真の世界では、アンセル・アダムスという写真家が神様という ことになっている。有名なヨセミテ国立公園の大判写真は、素人の私が見てもすごいなあ と感じる作品である。このアンセル・アダムスが提唱した写真の撮り方に、「Pre-visualization」というのがある。Visualizationは視覚化だからPre-visualizationは、「前 もって視覚化する」ということになる。つまり、シャッターを押して写真を撮るときに、 現像やプリントなどのプロセスを頭の中にあらかじめ描くということが大切だという。ど のくらいの光の量(ちょっと専門的には絞り)で撮影をすると、表現したい景色がちょう どいい感じのプリントに仕上がるかをイメージすることが大事という、至極ごもっともな お話である。

この手法(専門的にはゾーンシステムと呼ばれている。)って、最初に書いた典型的な研 究開発方法によく似ているなあと思ったのだが、どうだろうか。研究開発を始めるその時 に、その着地点までをしっかり見通すことと、シャッターを押す時にプリントされた写真 をイメージすること、ほらね、そっくりである。でも、こういう研究開発はダメであると 言っているということは、かのアンセル・アダムス先生の写真もダメということと同じと いうことになりはしないか。これは困った。アダムスの写真がダメだとは思えない。

一方、アダムスのように大きなカメラを三脚に据えてじっくり露出を測りながら上品に写 真を撮る方法の対極にあるのが、スナップショットである。小さなカメラを肩に下げて、 感じるままに写真を撮る。露出もシャッタースピードもカメラ任せ、どんな写真が撮れて いるかは、写真ができてみないとわからない。こういう写真の撮り方で、名を馳せた写真 家というのもたくさんいる。私自身は、偉大な写真家でもなんでもないが、どちらかとい うとスナップショット派に属すると思っている。写真は感覚で撮るものである。少なくと もこっちのほうが楽しい。

ということで説明にも何にもなっていないが、研究開発もスナップショット的にやったほ うがいいんじゃないかと思うのである。ごちゃごちゃ講釈をこねないで”これいいなあ“と 思えるネタにとりあえず突進してみる。最後にお金が必要なところになったら、アダムス 式に分析をして見せればいい。名付けてスナップショット的研究開発、どうだろう。作法 としてのちゃんとした研究開発は理解した上で、アラーキーみたいな研究開発をやらか す。かなり恰好いい。

今回のコンテンツはBrooks Jansen氏のPodcast(http://daily.lenswork.com/podcast/)の Gathering Assets を参考にしました。