こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

お化け屋敷リポートと小説「ふれあい記念日・2

2016年08月09日 00時19分28秒 | Weblog
やっと生き返った思いです。
7日。
加西サイサイまつりは市役所駐車場を会場に開始。
議会棟では、
恒例の人気イベント「お化け屋敷」ラストの仕込みがスタート!朝8時から集まったメンバーは25名。
青年グループ「えんどれす」、地元高校ふるさと創造クラブ部員、ジュニアリーダー……と大半が若者に交じって、
「老人会代表です」と自己紹介をいつも冗談で紛らすわたしがいる。
本番前にはあと20数名が集う予定になっている。15時スタートに向けて、各員、2階、3階と分散して作業開始だ。
きょうもやはり朝から早くも暑い!
しかし、こんな快晴で迎える夏祭りは、ここ数年珍しい。
議会棟内部はクーラーが効いているとは思えない。
途中休憩をはさみ、順調に進んだ。
高校生二人と組んだ私は、3階担当だ。
1年生の彼らは、私の孫年齢だ。
そのうち一人とえらく気が合った。
休憩の雑談で知ったが、彼はおじいちゃんおばあちゃん子だった。
随時集まったメンバーはメークと衣装に取り掛かる。
一つ目小僧、ぬらりひょん、ゾンビ、魔女……思い思いのお化けが生まれていく。メーク係は地元のアマ劇団メンバー。
さて、おあとは明日に報告させていただきます。(まだ本調子じゃないみたいです・苦笑)

小説「ふれあい記念日」・2(30年前の作品)

「梨恵ちゃ~ん、いらっしゃい!あ、茉莉ちゃんも一緒なんだ。先生が焼いた焼きそばを食べてちょうだい。一生懸命焼いたんだから、おいしいぞ!うん」
 焼きそばのテント屋台から顔を覗かせたのは、梨恵を受け持ってくれる保育士さんだった。得意げに胸を張った。小太りで容姿端麗とは言い難いが、元気で明るくテキパキと仕事をこなすので、親たちから全幅の信頼を置かれている。
「お父さんやお母さんも一緒なんだ。いいなあ、羨ましいな、先生」
「いつもお世話になってます。梨恵の父親です」
 ペコリとお辞儀する鼻先に焼きそばが盛り付けられたスチロールの舟形皿が突き出される。美味そうな湯気が鼻孔をくすぐった。
 建物にそって並べられたテーブルに落ち着いて、竹橋を割った。茉莉は大好物のアイスクリームなど上の空で焼きそばを食べだす。梨恵は私が口に運んでやった焼きそばをもぐもぐとやり出した。
「先生、いっつもあんな風なんよ。なんか元気貰った気になるでしょう。いい先生なんだ」
 妻が笑っている。保育士さんの存在は妻の心の支えになっているようだ。それに疲れが少しづつ癒されている。『ふれあい祭り』に引っ張り出したのは正解だった。
「あやかりたいな、俺たちも。あの先生、小さいお子さんが四人もいてはるんやろ。そら大変やぞ」
「あなたも……」
「うん?」
「欲しいんでしょ、もう一人」
「子供か。そら……いや、いいんだ」
 これ以上妻の負担を増やすわけにはいかない。自分の我が儘は通せない。
 去年の暮れだった。妻に、もう一人子供をつくらないかと提案したのは。妻は呆れ顔で、こちらを見つめるだけで何も言わなかった。子供の面倒で自分の時間が犠牲になるから産みたくない若い女性が目立つ時代である。一人っ子でも育児はかなり大変だ。まして、梨恵のように人の何倍も手数のかかる子供もいる。夫の身勝手な要望を妻が受け入れるはずはない。考えが浅かったと後悔した。
 あれからこっち、それを話題にするのはタブーにした。まさか妻の方が持ち出すとは……!正直驚いた。
「産んでもいいよ」
「え?」
「梨恵の将来考えたのよ。兄弟は一人でも多くいた方が、茉莉も梨恵も心強いと思ったの」
 妻は梨恵に頬ずりしながら目を細めた。自分に言い聞かせる口調だった。
「どうだ?茉莉。もし赤ちゃんが出来たら、妹がいいか、弟がいいかい?」
 照れ隠しで茉莉に尋ねた。茉莉はきょとんとした。それでも何かを理解したのだろう。ニコッと返した。
「妹なら梨恵ちゃんがいるもん。だったら男の赤ちゃんがいい」
「そんなら弟だな。分かったよ、茉莉」
 振り返ると妻の目に出会った。二人の心に通じ合うものがあった。共通項を持てたのは、いつ以来だろう。いい兆しだった。
「お父さん、茉莉と梨恵、アイスクリームが欲しいな」
「よしよし。じゃあ買いに行こうか」
 茉莉に引っ張られながら幸せな気分を味わう。仕事の疲れはまだ残っているが、『ふれあい祭りはそれを忘れさせてくれる。
 アイスクリームを担当していたのは、私もよく知っている保育士さんだった。学生時代にアルバイトをした駅前の喫茶店でともに働いた仲である。その頃にしょっちゅう語っていた夢を彼女は実現させたのだ。
「あら、茉莉ちゃん。お父さんと一緒でいいな。なんでも買って貰えるぞ!」
「へへへへ。それに、お母さんも、梨恵ちゃんもいるんだ」
「本当だ!みんな一緒なんだ。すごいすごい。そいじゃあアイスクリーム四つだね。
 彼女は早速アイスディッシャーとカップを手に取った。アルバイト時代を思い出させる。相変わらず手際がいい。
「ちょっと待って。ごめん、三個、三個でいいよ。梨恵は舐めるだけだから」
 慌てて訂正した。梨恵は一人分どころか半分も食べ切れない。残れば勿体ないから、父親の自分が食べる羽目になる。ならば前もって節約しとけばいいわけだ。
「そいじゃあ、三つだね。毎度ありがとうございます!」
 如才ない受け答えをする。保育士さんにしておくのは案外宝の持ち腐れかも知れない。
 三人分の代金を払った。
「少し痩せたんじゃない?」
「苦労してっからな、これでも」
「市役所辞めちゃうからよ」
「その話はもういい」
「ごめん!気にしてんだ?」
「いや」
 昔馴染みだから言葉を飾らなくて済む。といっても触れて貰いたくないことはある。
 初めて『タンポポ』に梨恵を連れて来た時、対応したのが彼女だった。気付いたのは彼女である。声を掛けられるまで思い出さなかった。アルバイトから十年近く経っている。相手の顔にすぐピンと来るはずがない。まして梨恵の事で頭がいっぱいだった。それどころではなかったのだ。
「へえ、まだ首が座んないのか、梨恵ちゃんは。ちょっと厳しいかな。でも頑張らなくっちゃ。あなたは父親なんだから。梨恵ちゃんには、世界中であなた達しかいないんだから」
 彼女はプロの保育士になっていた。決して安易な慰めを口にしなかった。アルバイト時代から、「福祉の現場で働くのが夢なんだ」が口癖だった。それを実現させた彼女は、実に頼りがいのある保育士に成長していた。
「奥さんも頑張ってるんでしょ。だったら、大丈夫よ。一人じゃないんだもん。乗り越えられるわ」
 障害児を育てる母親や父親のジレンマに何度も遭遇している彼女ならではの言葉だった。不思議と力強さを感じた。
「でも、ちょっとそっとの苦労じゃないよ」
 はっきり言い切った彼女に反感は覚えなかった。むしろホッと救われるものを感じた。
「やあ、久しぶり。元気そうやないか」
 彼女の夫、川瀬だった。アルバイト先でマネージャーの彼は、アルバイトのいい相談相手だった。水商売の世界にいて、それに染まり切れないでいる変な人物だった。そんな彼に片思いした彼女の気持ちを伝えてやった。初めて人の恋路を橋渡ししたわけだ。成功だった。付き合いは始まり、三年後の結婚に至った。
「うちのから聞いてたけど、梨恵ちゃんのこと。感心してるわ。ほんまに君はよう頑張ってるで」
「そりゃあ親だからな。当然や。それにしんどいことはすぐ慣れるしな。何より可愛いんや、梨恵は、すごう可愛いんや」
 それは本当である。遅々たる成長の梨恵はいつまでも赤ん坊だった。姉の茉莉も確かに目に入れても痛くないほど愛しているが、梨恵に接する時はそれ以上の愛情を感じるのだった。
「子供を育てるんは並大抵じゃないけんど。そやけど苦労する分だけ愛情に変わりよるわ。うちの三番目の男の子な、生まれた時仮死状態や。首に臍の緒を巻き付けて出て来よった。チアノーゼいうんか顔色は青紫やがな。もうビックリしてしもうたわ。どないなるか心配で心配で、大きくなるんを見守ってる間にそらもう可愛さが募るばかりやった」
 川瀬の目は優しく細まった。超の付く子煩悩な男だった。
「へえ。うちの子もそれや。産声も上げなんだんや。もうオロオロしたわ。その影響が後々まで残ったんかな」
 臍の緒が首を絞めて酸欠状態を生んだ。梨恵はその程度が酷かったのだ。
「同じ目におうても、えらい違いが出たなあ」
 川瀬は(しまった!)という顔になった。余計な口を滑らせたのだ。大変な立場にある相手への配慮を欠いた言葉だった。誤魔化せない根っから正直な性格なのだ。
「うちのんも人より成長遅いんやで。二年生になるのにまだ大人の歯に生え変わらんねん。それにもやしみたいにひょろっとしたままやから心配でな……」
 川瀬は額に汗を浮かべた。話題を慎重に選んでいるのがありありだ。失言を取り戻すのに懸命になっている。笑みで応じた。
「そいでもそっちは稼ぎがあってええわ。わし、いま職なしや。女房に食わして貰うてる。まあ情けない話やがな」
 自分の劣勢を言葉にすることで、やっと立ち直った彼は、屋台のアイスクリームに専念している妻をチラッと見やった。
 太鼓の音がが聞こえる。どんどんこちらに近づいてくる。
「お?本命の出番や」
 広場の注意が一斉に入り口を向いた。
「神輿屋台が入ってくるぞ。去年も豪勢な屋台練りやったんやで。うちの息子は楽しみにしとるんや。ちょっとあいつのとこに行ってくるわ」
 川瀬は慌てて駆け出した。釣られて神輿屋台が眺められる方へ移動した。梨恵を抱っこした妻も見物の輪の中に入った。手にはアイスクリームが握られている。
「お母さん、お母さん、アイスクリーム!」
 茉莉は妻のスカートのすそを掴んでせがんだ。茉莉には祭りより好物のアイスクリームが気になるのだ。


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