親という存在が
幼い子供にとって
いかに不可欠なものかを
よく知っている。
幼いころに思い知らされたのである。
ちょっと汚い話になる。
神経質な子供だった。
父や母に対してさえ、
過敏になった。
それも物心ついたころからだった。
「ほれ、こいつはうまいど。食うてみい」
食べかけのご馳走を息子にくれる父。
親子ならしごく自然な姿だった。
なのに、なんと!
それが口にできなかった。
もちろん母の場合にも
同じ反応しかできなかった。
「手間のかかる子やのう」
その両親の言葉が普通になってしまった。
ご飯に微小な石でも入っていれば見逃すことはなかった。
「もういらへん」
食事の中断はしょっちゅうだった。
当時のコメは今のように
完全に異物や小石のかけらを除去されなかった。
コメを磨ぐ際に
異物を見つけて取り除けなければ
炊き上がったご飯に混ざった状態になる。
時には
コメにつくコクゾウムシやノシメマダラメイガの幼虫などが
一緒にに炊き上がっているのを目にしてしまうと
もうそのご飯は食べられなかった。
混ざっているといっても、
砂漠にポツンといった状態なのだが、
どうしようもなかった。
「ほんまに神経質な子やのう。食わな死んでまうど」
母は口を酸っぱくしていった。
いくら口で「可愛げのない子」といっても、
それは親の本心ではない。心配するのが当然だった。
しかし、
親の心子知らずというやつだった。
頑なに異物混入のご飯を拒絶した。
食えない状態が続いて、
空腹が過ぎぶっ倒れたことさえある。
悪いことに
好き嫌いも酷かった。
偏食を補う惣菜など
そう簡単に用意できる時代ではない。
「ほんまにショウの悪い子や」
母は吐き出してはため息をついた。
農家の家付き娘だった母に、
息子の繊細さを
理解できるはずもなかった。
そんな食生活が悪く影響したのか、
何度も便秘になった。
それも生易しい状態ではない。
カチンカチンに硬化して肛門をふさいだ。
何日も続く便秘に苦しむわが子に
父は救いの手を差し伸べた。
「出口のやつをこそげとったら大丈夫や」
便所に付き合った父は
割り箸を器用に使って硬い糞を穿り出した。
母はそんな父と同じ行動はとれなかった。
実は母も神経質なところがあって、
汚いものには、
わが子のものであろうと殆ど触れなかった。
わたしの神経質な部分は母親譲りだったのだ。
やっと出た瞬間の気持ちよさといったらどうだ。
「ほんまにしょうのないやっちゃ。
好き嫌いすっから、ウンコが出んようになるんやど」
父の厭味ったらしい言葉は、
左の耳から右の耳に抜けた。
言葉とは裏腹に
安どした父の愛情を感じ取っていた。
その後も何回となく、
尻詰まりになり
父の手を煩わせた。
父や母がいなければ
わたしが無事に成長することは
なかっただろう。(続)
幼い子供にとって
いかに不可欠なものかを
よく知っている。
幼いころに思い知らされたのである。
ちょっと汚い話になる。
神経質な子供だった。
父や母に対してさえ、
過敏になった。
それも物心ついたころからだった。
「ほれ、こいつはうまいど。食うてみい」
食べかけのご馳走を息子にくれる父。
親子ならしごく自然な姿だった。
なのに、なんと!
それが口にできなかった。
もちろん母の場合にも
同じ反応しかできなかった。
「手間のかかる子やのう」
その両親の言葉が普通になってしまった。
ご飯に微小な石でも入っていれば見逃すことはなかった。
「もういらへん」
食事の中断はしょっちゅうだった。
当時のコメは今のように
完全に異物や小石のかけらを除去されなかった。
コメを磨ぐ際に
異物を見つけて取り除けなければ
炊き上がったご飯に混ざった状態になる。
時には
コメにつくコクゾウムシやノシメマダラメイガの幼虫などが
一緒にに炊き上がっているのを目にしてしまうと
もうそのご飯は食べられなかった。
混ざっているといっても、
砂漠にポツンといった状態なのだが、
どうしようもなかった。
「ほんまに神経質な子やのう。食わな死んでまうど」
母は口を酸っぱくしていった。
いくら口で「可愛げのない子」といっても、
それは親の本心ではない。心配するのが当然だった。
しかし、
親の心子知らずというやつだった。
頑なに異物混入のご飯を拒絶した。
食えない状態が続いて、
空腹が過ぎぶっ倒れたことさえある。
悪いことに
好き嫌いも酷かった。
偏食を補う惣菜など
そう簡単に用意できる時代ではない。
「ほんまにショウの悪い子や」
母は吐き出してはため息をついた。
農家の家付き娘だった母に、
息子の繊細さを
理解できるはずもなかった。
そんな食生活が悪く影響したのか、
何度も便秘になった。
それも生易しい状態ではない。
カチンカチンに硬化して肛門をふさいだ。
何日も続く便秘に苦しむわが子に
父は救いの手を差し伸べた。
「出口のやつをこそげとったら大丈夫や」
便所に付き合った父は
割り箸を器用に使って硬い糞を穿り出した。
母はそんな父と同じ行動はとれなかった。
実は母も神経質なところがあって、
汚いものには、
わが子のものであろうと殆ど触れなかった。
わたしの神経質な部分は母親譲りだったのだ。
やっと出た瞬間の気持ちよさといったらどうだ。
「ほんまにしょうのないやっちゃ。
好き嫌いすっから、ウンコが出んようになるんやど」
父の厭味ったらしい言葉は、
左の耳から右の耳に抜けた。
言葉とは裏腹に
安どした父の愛情を感じ取っていた。
その後も何回となく、
尻詰まりになり
父の手を煩わせた。
父や母がいなければ
わたしが無事に成長することは
なかっただろう。(続)