こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

記憶の風景・そら豆(その2)

2017年04月28日 00時25分04秒 | Weblog
「こら!お前ら、
なに悪さしとんじゃい」
いきなりの怒鳴り声。
盗み食いを見つけられて
逃げようとしたが
手遅れだった。
畑の持ち主が目の前に
仁王立ちしている。
「しゃーないガキん子らや。
○○んとこの子やな。
お母ちゃんに言いつけたる」

おおらかな時代だった。
子供が
そら豆を盗み食いしたぐらいで、
本気で怒る大人はいなかった。

「あんたんとこの子が、
うちの畑で
そら豆を食らいよったぞ」

「そら済まんかったのう。
よう叱っとくさかいに、
今回は堪えたってーな」

目の前で話し合う
母と田んぼの持ち主。
終われば母に手酷く怒られる。
後悔でいっぱいだった。
盗み食いが悪いことだと
思い知る。

「今年はそら豆
よう育っとるのう」

「おお。
味が濃ゅーて美味いど」

大人たちは笑いあった。

母にこっぴどく絞られて、
縁側でしおれていると、
いい匂いが
台所から漂ってきた。

夕方食卓にのぼったのは
豆ごはん。
そら豆が
たっぷり入ったご馳走だった。

「もうそら豆の季節かいな。
こら、ごっそや」

大喜びする父。
相好が崩れる。

「ほれ、はよ食わな、
不味なるがな。
生で食らうより美味いやろが」
落ち込む息子を気遣う
母の優しい声だった。
箸をつけた。
香りが鼻をくすぐる。
急いで豆ごはんを口にかき込んだ。
美味い!
塩味が豆と絶妙に
共鳴しあっている。
何度もお代わりする息子に
母の頬笑みは絶えなかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする