WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

マイルス・デイビスのイン・ア・サイレント・ウェイ

2006年09月03日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 39●

Miles Davis

In A Silent Way

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 ジャズを聴き始めて20数年、エレクトリック・マイルスをちゃんと聴いてこなかった。アコースティック・マイルスはあれ程聴いてきたのにだ。今思えば、食わずぎらいだったのだ。若い頃、ジャズ喫茶で一度だけ『ビッチェズ・ブリュー』を聴いたことがあったのだがしっくりこず、以来、エレクトリック・マイルスに接することなく過ごしてきた。限られた予算の中でレコードを買うためには、優先順位というものが存在するのだ。

 転機は数年前、雑誌『GQ』(1999.12)の特集「Miles Is God !」の中のピーター・バラカンのエッセイを読んでからだ。個人的体験をおりまぜながら、このIn A Silent Wayついていつになく熱く語り、しまいには、「もし愛聴版にならなければ、もう2度と僕を信用しなくてもいい」とまでいったピーター・バラカンのことばにちょっと聴いてみようかという気になったわけだ。

 いい作品だ。この浮遊感覚がたまらない。シャカシャカシャカとひたすらビートを刻むハイハットをバックに、繰り広げられるギターやキーボードやトランペットの織り成すパッチワークのような演奏は、音楽的にも電気的にも非常に高い完成度だ。この作品が1969年のものであるとは信じられない程だ。以来、いくつかの電気的マイルスの作品を購入し、聞いている。

 In A Silent Wayがこれから「愛聴版」となるかどうかはわからないが、ときどきとりだしては聴く作品となった。ピーター・バラカンはある程度信用できる男だと思っている。