WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

リターン・オブ・バド・パウエル

2006年09月11日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 45●

The Return Of Bud Powell

Scan10012_7  土・日仕事だったので今日は休みだ(といってもこれから部活動につきあわなければならないが……)。平日で妻や子もいないので、本当に久しぶりに音楽聴き放題だ。

 晩年のバド・パウエルの作品をもう一枚。バドの遺作だ。彼はパリで生活した数年間で精神的な不調からかなり立ち直り、1964年、ニューヨークに戻って早々に録音されたアルバムだ。

 全盛期のような聴くものの意表をつく閃きはない。指が遅れがちのところも多い(録音もあまり良くない)。パリ滞在中の作品 In Paris に比べても元気がないような気がする。にもかかわらず、不思議な安らぎに満ちたアルバムである。② Someone To watch over me と⑥ I Remember Clifford⑧ If I Loved You は、とくに気に入っている。非常にゆっくりとしたテンポで、一音一音噛み締めるように丁寧に演奏されるこれらの曲は、往年のスピード感溢れる神がかり的演奏とは違った形で、バドの精神の深遠を垣間見せる演奏だ。

 バドは、この作品から2年後に亡くなった。

Bud Powell In Paris  http://blog.goo.ne.jp/hiraizumikiyoshi/d/20060911


バド・パウエルのイン・パリス

2006年09月11日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 44●

Bud Powell     In Paris

Scan10007_10  1964年録音の後期バド・パウエルの傑作。1940年代後半から1950年代前半にかけて精神疾患のため入退院を繰り返して以降のバドは、好不調の波が激しくなり、次第に下降線をたどってゆくといわれる。確かにその通りであろう。晩年のバドに若き日の神がかり的な煌きはない。

 けれども、私は晩年のバドが好きだ。特に、1959年にフランスに活動の拠点を移してからの作品は何ともいえぬ味わいがある。この頃のバドの演奏を評論家は、よく「枯淡の境地」とか「人生の深い哀感が漂う」とか表現するが、私は何より音楽を楽しんでいるバドの姿が目に浮かぶようなところに魅力を感じている。バドのピアノは良く歌い、演奏することの喜びが溢れ出てくるようだ。中でもこのアルバムは大好きな一枚だ。録音のバランスが悪いのだろうか、シンバルの音がややシャカシャカし過ぎてうるさいのが残念だが、文句なく素晴らしい演奏である。

 ② Dear Old Stockholm は、何人も認める名演であろう。哀愁漂う北欧の民謡を、バドは哀愁はそのままに、しかもリズミカルにスウィングしてみせる。心は躍り、身体はリズムに同化する。大好きなこの曲の五指に入る名演である。

 バドは、1964年アメリカに戻って病床に臥し、1966年7月31日、ニューヨークの病院で生涯を閉じた。41歳、私より短い人生だった。