WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

立原正秋箴言集(2)

2006年09月27日 | 立原正秋箴言集

組織と制度に真っ向からぶつかっていくほど愚劣なことはなかった。それは悲惨のリアリズムに終わるだけであった。人間の情念をあんな風に粗末にあつかってはいけない……。(『はましぎ』)

組織と制度は愚劣だったが、人間の情念が生み出した掟は美しかった。(『はましぎ』)

多くの人が社会秩序に縋って生きていると同じく、あの女衒は自分の苛酷な正義に縋って生きていけるだろう、……(『恋人たち』)

 何というか、アウトローのあり方、反権力ではなく、非権力的な生き方のしなやかさを教えてくれる言葉です。

                                         


ポール・デズモンド・カルテット/ライブ

2006年09月27日 | 今日の一枚(O-P)

●今日の一枚 57●

Paul Desmomd Quartet Live

Scan10008_13  ポール・デズモンドに熱狂したことはない。けれども、好きか嫌いかと聞かれれば、迷わず好きと答えるだろう。そして年齢を重ねるたびその傾向は強まっていく。

 『Swing Journal』2006-10月号によると、あのフィル・ウッズは、「ポールのアルト・サックスの音色がわたしは好きなんだね。あんなにウォームでクリアな音色を持っているアルト・サックス・プレイヤーは珍しい。考えてみれば、テクニックや音楽性よりも、あの音色に私は魅了されているのかも知れない。トーンのカラーをあまり意識しないプレーヤーもいるけれど、わたしはまずそこに耳が向う。個性的な音色や美しい音色を身につけているひとが羨ましいんだ。その中でトップクラスのひとりがポールだよ。」と語ったらしい。

 フィル・フッズの言を待つまでもなく、ポール・デズモンドの聴きどころは「音色」である。ウォームで優しくしかもどこか孤独を匂わせるような音色。実際、ポール・デズモンドは孤独を愛する多少変わった人物のようだ。ジェームス・ジョイスを愛するこの男はライブの自分の出番が終わると先にステージを降りてレストランに行ったり、楽屋で本を読んだり、あるいは、ジャズ関係者とはあまり付き合わずに演劇や映画やバレエの関係者と付き合いが多いようなタイプだったようだ。

 1975年録音のこの作品は、そんなポール・デズモンドの特質が最良の形で現れているようにおもう。アット・ホームでくつろいだライブの雰囲気が伝わってくる。ポールのアルトはどこまでも優しく、どこまでも温かい。そしてどこか寂しげで人恋しいような音色に共感する。鬼気迫るデーモニッシュな演奏も素晴らしいが、時にはこういう音楽を聴いて人間性を回復したい。ポール・デズモンドの音楽を聴いていると、なぜだか人間を信じてみようという気になってくる。不思議なことだ。