WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ブルー・トレーン

2006年09月18日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 53●

John coltrane     Blue Trane

Scan10016_1  やはり、こういう音楽をたまには聴くべきだ。私のJAZZの原点とはこういう音楽をいうのだ。

 いわずと知れたジョン・コルトレーンの名盤『ブルートレーン』。1957年録音のコルトレーン唯一のブルーノート、リーダー作である。初期のコルトレーンの代表作といっていいと思う。

 ケニー・ドリュー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)というしっかりとしたリズム隊をバックに、コルトレーン(ts)、カーティス・フラー(tb)、リー・モーガン(tp)という三管フロント陣がアンサンブルを繰り広げ、コルトレーンは"シーツ・オブ・サウンド"といわれる一瞬の間もなく音が連続するようなソロを展開する。実にスリリング、かっこいい演奏だ。

 この作品を聴くといつもある男を思い出す。学生時代、行きつけの酒場で知り合った男だ。哲学科に所属しているくせに歴史学にも興味をもつその男は、私と酒場で会えば、いつも中世史や哲学・思想について議論した。議論は多岐にわたり、しばしば激論となることもあったが、酒が回って酔っ払うと、その男はきまってBlue Traneを口ずさむのだった。それはテーマからはじまり、ソロをへてフィナーレにいたるまでほとんど一音も間違えることなく完璧に歌われた。いつのころからか、私がカーティス・フラーとリー・モーガンのパートを担当してハモり、トレーンのソロパートではリズム隊を担当するようになった。それが結構面白かったらしく、よく他のお客さんものってくれたものだ。おかげで私はいまも、Blue Traneのソロパートをほぼ完全に口ずさむことができる。一回性のアドリブにかける音楽としてのJAZZを聴く姿勢としては正しいものではないのだろうが、私にとってはかけがえのない楽しい日々であった。

 彼は今頃どうしているだろうか。彼とはもう20数年会っていない。


ジュニア・マンスの"ジュニア"

2006年09月18日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 52●

Junior Mance     "Junior"

Scan10007_13  大好きな一枚だ。CDの帯には「ジャズ・ピアノ・トリオ名盤中の名盤」とある。1959年の録音だ。1959年といえば、ジャズの世界ではあの『カインド・オブ・ブルー』をはじめ名だたる作品がなだれのように登場した伝説の年だ。

 ジュニア・マンスはジャズらしいジャズをやるピアニストだ。「トラディショナル・モダン」という言葉があるらしいが、ジュニアのピアノはまさしく「トラディショナル・モダン」といえるかも知れない。ライナー・ノーツには次のようなオスカー・ピーターソンの言葉がおさめられている。

 「昨今、ピアノの何たるかさえわきまえない前衛ジャズマンや低級なピアニストが横行するジャズ界にあって、豊かなテクニックとフレッシュなアイデアに恵まれたジュニア・マンスの登場は、実に爽快だ。しかもジュニアは、聴き手の心に直接的に訴えかけるエモーショナルなものを内蔵しており、ジャズの最も根源的なスウィングを忘れることがない。豊かな楽想に恵まれているジュニアは、アイディアをとめどもなく発展、変化させていく過程で、ひとつの演奏にいつの場合にもある種の物語性をもたらす。これはマンス独自の特質だが、そんな意味からも、このアルバムは、あなたに多くのドラマを伝えるはずだし、マンスはまだまだこれからもわれわれを楽しませてくれるにちがいない。」

 ③ウィスパー・ノットがいい。よくスウィングし、歌心のある演奏だ。リズムに同化して心が躍り、とてもハッピーな気持ちになる。ウイントン・ケリーとケニー・バレルがやった名演と甲乙つけがたい演奏だ。