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【鉄ちゃんのつぶや記 第40号】小田急線騒音訴訟に思う

2010-08-31 23:52:44 | 鉄道・公共交通/交通政策
(以下の記事は、当ブログ管理人がインターネットサイト向けに執筆した原稿をそのまま掲載したものです。)

 東京都世田谷区の小田急線沿線住民ら118人が小田急電鉄(新宿区)を相手取り、騒音軽減と被害の補償を求めた「小田急線騒音訴訟」の判決が、8月31日、東京地裁であった。原告は、騒音や振動で生活環境を悪化させられたとして、東北沢-喜多見駅間の騒音を日中平均60デシベル、夜間平均50デシベルに抑えるほか、計約7億8400万円の賠償を支払うよう求めた。これに対し、判決は「受忍限度を超える騒音で会話やテレビ視聴、睡眠を妨害され、精神的苦痛を受けた」「日中65デシベル、夜間60デシベル以下にするのは可能で、達していない場合は違法との評価を免れない」として42人に対して計約1152万円を支払うよう命じたが、「更なる騒音低減を求めた場合には運行のあり方に大きな影響を及ぼし、沿線住民の生活に重大な影響を与える可能性がある」として、騒音軽減の訴えは退けられた。

 この裁判の提訴は98年から99年。都心部を走る路線は小田急だけでなく、JRも私鉄もあまたある中で、沿線住民と10年を超える長期訴訟が続いてきたというのがいかにも小田急らしいと思う。何しろ小田急といえば、かつては「日本一職員の態度が悪い鉄道会社」とまで言われ、沿線住民・利用者からの評判はとにかく悪かったからだ。

 小田急がここまで悪しざまに言われてきた理由として、一部鉄道ファンは戦時統合による「大東急電鉄時代の驕り」を指摘する。太平洋戦争遂行のため、軍部主導で成立した「陸上交通事業調整法」により、1942年、関東私鉄は東京横浜電鉄によって小田急、京浜電鉄(現在の京浜急行)が合併、さらに京王電気軌道(現在の京王電鉄)までが併合され、巨大な「大東急電鉄」となるが、その時代の驕りだというのである。もっともらしく聞こえるが根拠薄弱な説である。ちなみに大東急電鉄は、戦後再び分割され東急、小田急、京浜急行、京王に戻っている。

 私の周囲でも、小田急は相手にしないとか、写真は撮らないといった「アンチ小田急」な鉄道ファンを何人か見てきた。私自身は少しもそのようなことはないが…。

 判決については、もう少し損害賠償の額は多くあるべき(少なくともこの倍は必要)と思うものの、鉄道の公共性を考えればやむを得ないだろう。

 沿線住民の被害を考えれば、当然ながら小田急が損害賠償を払って終わり、というわけにはいかない。これ以上の騒音対策(防音壁の設置等)ができればベストだが、できない場合は、当面、夜間減速等の措置が必要になるかもしれない。もっともその場合、何のために複々線化までして緩急分離(急行運転と各駅停車運転とを完全分離すること)したのかということになりかねないが、それが全体の利益を図るということだろう。

 結局のところ、東京都心の鉄道の最大の問題は通勤ラッシュの緩和である。複々線化による緩急分離の効果が朝夕の通勤ラッシュ時間帯だけでも発揮されれば、混雑緩和の効果は大きいものがあるが、最近、筆者が東京都心部の鉄道を利用していると、通勤ラッシュが深夜遅くまで続く傾向が強まっているように感じられる。具体的には、夕方6~7時頃に最初の帰宅のピークがあり、夜8~9時頃、いったん波が収まった後、深夜10時頃からまた乗客が増え始め、それが終電近くまで続くという状況が見られるようになっている。JR中央線(快速)に至っては、むしろ夜10時以降こそラッシュのピークなのではないかと思われる状況さえ生まれてきている。

 この背景には、労働時間が極端に「二極化」し、定時に帰れる人の一団がいる一方、毎日終電近くならなければ帰れない人もまた一団を形成するほどたくさんいるという事実がある(筆者の推測だが、おそらくどちらの集団も、毎日顔ぶれはほとんど同じだろう)。騒音問題に配慮して夜間減速体制を取るといっても、深夜までこの状況では困難なのではないかという気がするが、ここまで来たら「夜10時以降に新宿を発車する便はすべて夜間減速」というふうに、一律かつ機械的にやるしかないのではないか。

 こんな言い方をしてはなんだが、ラッシュは鉄道会社の責任ではないし、深夜まで残業する労働者の面倒までなぜ鉄道会社が見なくてはならないのか。大学を出ても就職先のない学生が10万人もいるといわれる中で、多くの労働者が深夜になっても帰れないほどに人員を削減し、莫大な利益を上げている企業の責任が問われなければならないのである。

 マスコミ報道によると、2010年3月末時点における企業の手元現金残高が202兆円を記録したという。こんなに資金を貯め込んだ企業は、せめて新卒の若者を雇って仕事を平準化することにより、深夜まで仕事をしている労働者を早く帰らせるようにすべきだ。彼らが深夜まで帰れないことによる社会的損失は計り知れない。多くの労働者が早く帰れるようになれば、通勤ラッシュも前倒しになり、夜間減速も実現しやすくなる。運転終了時間を早めてもよいだろう。そうすれば、小田急沿線住民がこんな騒音に苦しむ必要もなくなるのだ。

 このように考えてみると、大都市にも社会矛盾とひずみが山積している。都市の過密化(それは地方の崩壊と表裏一体でもある)を放置してきた政府、少ない労働者を徹底的に酷使して利益を上げることに慣れきってしまった企業に筆者は強く反省を促したい。そして、企業や政府機関の地方移転を積極的に進めるなどして東京の機能分散を図らなければ、この悲劇は永遠に終わらないだろう。やや大げさな言い方をすれば、一度、徹底的な「東京解体」が必要なのではないか。

 最後に、判決内容について少し補足しておこう。損害賠償の額は、和解に応じた原告が4200万円を勝ち取っているのに比べると4分の1にとどまっており、筆者はこの点が不満である。「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と日本国憲法によって規定されているにもかかわらず、この国では、裁判を続ける者より、和解によって裁判を途中でやめる者のほうに多くの損害賠償が支払われてきた。

 もちろん、「相手が厭戦気分を感じて多くの和解金を払うなら、それは勝利」と評価することもできよう。だが、この国では、名誉のため、あるいは自分の生き様のために法廷で闘う人に対する見返りがあまりにも少なすぎる。世の中には、どうしても相手に謝ってもらいたくて裁判をやるのだという人も大勢いる。その人たちに、正当な見返りがない裁判のあり方も、もう一度徹底的に見直すべきだ。

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