人生チャレンジ20000km~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

当ブログのご案内

当サイトは列車の旅と温泉をメインに鉄道・旅行を楽しみ、また社会を考えるサイトです。

「あなたがすることのほとんどは無意味でも、あなたはそれをしなくてはなりません。それは世界を変えるためではなく、あなたが世界によって変えられないようにするためです」(マハトマ・ガンジーの言葉)を活動上の支えにしています。

<利用上のご注意>

当ブログの基本的な運営方針

●当ブログまたは当ブログ付属サイトのコンテンツの利用については、こちらをご覧ください。

●その他、当サイトにおける個人情報保護方針をご覧ください。

●当ブログ管理人に原稿執筆依頼をする場合は、masa710224*goo.jp(*を@に変えて送信してください)までお願いします。

●当ブログに記載している公共交通機関や観光・宿泊施設等のメニュー・料金等は、当ブログ管理人が利用した時点でのものです。ご利用の際は必ず運営事業者のサイト等でご確認ください。当ブログ記載の情報が元で損害を被った場合でも、当ブログはその責を負いかねます。

●管理人の著作(いずれも共著)
次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する(緑風出版)
地域における鉄道の復権─持続可能な社会への展望(緑風出版)
原発を止める55の方法(宝島社)

●管理人の寄稿
規制緩和が生んだJR事故(国鉄闘争共闘会議パンフレット「国鉄分割民営化20年の検証」掲載)
ローカル鉄道に国・自治体・住民はどう向き合うべきか(月刊『住民と自治』 2022年8月号掲載)
核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

歴史の転換点となった2016年~ディストピアの時代に希望を紡げるか?

2016-12-25 22:18:59 | その他(海外・日本と世界の関係)
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2017年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 この号が読者諸氏のお手元に届く頃には、新年の足音が聞こえていることと思う。年末年始にゆっくりと読まれることの多いであろう新年号を、私はとりわけ重視している。過ぎゆく年に起きた様々な出来事を踏まえて新しい年はどのように動くか、またどのように希望をつなぎ、展望を持つべきかの考察に充てることが多いからだ。そのような意味で言えば、2016年という、ある意味では「特別だった1年」の出来事をきちんと回顧しておくことは、例年にも増して重要な課題である。

 ●歴史の転換点、2016年

 相変わらず無意味な停滞と閉塞感が続く日本国内はともかく、国際情勢に目を転じれば、2016年が歴史の転換点であったという評価に異論は少ないだろう。相次ぐテロと難民の大量発生、世界を驚かせた英国の国民投票におけるEU(欧州連合)離脱の意思表示、そして泡沫候補扱いされていた究極のポピュリスト、ドナルド・トランプの米大統領当選――。その背景、底流に共通するものを読み解いていけばいくほど、20世紀終盤における最大の歴史的転換点であった1989年――中国における天安門事件と東欧における社会主義圏の崩壊が連続した年――に匹敵する世界史的大変動の年であったことがはっきり見えてくる。それらひとつひとつを分析するだけでも本が1冊書けるほどの出来事を詳細かつ個別に分析することは、本誌の限られた紙幅の中ではできそうにないが、それでもいくつかのポイントをここで述べておくことにする。

 英国国民投票は、そもそも小さなボタンの掛け違いの連続だった。自由経済と所得再分配のどちらをより重視するかをめぐって、日頃は「剣線」(注)を挟んで激しくやり合う保守、労働の2大政党は、それでも最後までEU残留を主張したし、残留派の労働党女性議員が投票日直前に殺された事件も、残留派に同情が集まって勝利するだろうとの説に根拠を与えていた。福岡市出身で、1996年から英国に在住する保育士、ブレイディみかこさんによれば、投票日前日、郵便配達に来た顔見知りの郵便労働者はこう言っていたという。「俺はそれでも離脱に入れる。どうせ残留になるとはわかっているが、せめて数で追い上げて、俺らワーキングクラス(労働者階級)は怒っているんだという意思表示はしておかねばならん」と。

 また、英国のコラムニスト、スザンヌ・ムーアは「ガーディアン」紙上で次のように述べている。

 『「古いワインのような格調高きハーモニー」という意味での「ヨーロッパ」の概念はわかる。が、EUは明らかに失敗しているし、究極の低成長とむごたらしい若年層の失業を推し進める腐臭漂う組織だ。ここだけではない。多くの加盟国で嫌われている組織なのだ。それに、自分なりのやり方でグローバル資本主義に反旗を翻すためにも、私は離脱票を投じたくなる。が、2つの事柄がそれを止める。難民の群れに「もう限界」のスローガンを貼った悪趣味なUKIP(英独立党)のポスターと、労働党議員ジョー・コックスの死だ。……中略……だが、ロンドンの外に出て労働者たちに会うと、彼らは全くレイシストではない。彼らはチャーミングな人びとだ。ただ、彼らはとても不安で途方に暮れているのだ。それなのに彼らがリベラルなエリートたちから「邪悪な人間たち」と否定されていることに私は深い悲しみを感じてしまう』。

 「自分なりのやり方でグローバル資本主義に反旗を翻す」有権者たちの行動で、離脱派は勝利した。開票日の朝、ブレイディみかこさんは「おおー! マジか!」という連れ合いの一言で目を覚ました。件の郵便労働者に「まさかの離脱だったね」と言うと、彼は「おお」と笑ったという。離脱という投票結果に最も驚いたのは当の英国民自身だったのだ。

 ●実はあまり影響がない英国のEU離脱

 スザンヌ・ムーアから「多くの加盟国から嫌われ、究極の低成長とむごたらしい若年層の失業率を推し進める腐臭漂う組織」とまで酷評されたEUの基礎は、英国が離脱を決める前からすでに大きく揺らいでいた。反グローバリズム、反緊縮財政を掲げたギリシャでのSYRIZA(急進左翼連合)の政権獲得、イタリアにおける新興政党「五つ星運動」の台頭など、その兆候はいくつも指摘することができる。しかし、実際のところ、英国の離脱がEU諸国の経済に何らかの危機をもたらすかといえば、それほどでもないような気がする。

 EUの危機が、とりわけギリシャやイタリアなど、経済力の弱い国で最初に起きたことは、事の性質をよく物語っている。そもそも物価とは、貨幣と財・サービスとの交換価値を示すものであり、アダム・スミスが述べたように、重要と供給の力関係によって市場で決定される。ドイツのような経済力の相対的に強い国と、ギリシャやイタリアのような経済力の相対的に弱い国とでは、生産力にも大きな違いがあるのだから、本来は経済力の違いに応じて別々の通貨が使われるのが当然だ。各国の国内で、財・サービスと貨幣の交換価値である物価が市場を通じて適切に調整され、国と国との経済力の格差は通貨と通貨を交換する外国為替市場で調整される――現代世界の、それぞれの国民国家の内部において、財・サービスに適正な物価をつけることを可能にしてきたのはこのような二重の調整システムである。

 EUによるユーロへの通貨統合は、それまでの世界で常識であったこの二重の調整システムに真っ向から挑戦するものであった。経済力も、その基礎をなす生産力もまったく違う国同士が共通の通貨を使用することは、この二重の調整システムを否定するという根本的で重大な矛盾をはらんでいた。加盟国間の経済力の格差を放置したまま通貨だけを統合すれば、物価をどの水準に置いたとしても、「ある国では経済力と比較して物価が安すぎ、別のある国では経済力と比較して物価が高すぎる」という問題が発生する。この問題は、EU加盟国ごとに中央銀行を置き、それらが独自に通貨供給量を決められるようにすれば解決できるが、このような形で各国が発行する独自のユーロは、同じ名称でも米ドルと香港ドルがまったく別通貨であるように、もはや共通通貨ではなくなってしまう。ユーロ圏において通貨供給量を決めるのがブリュッセルの欧州中央銀行だけという状態では、この問題を根本的に解決することはできないのである。

 EU発足と通貨統合のためのマーストリヒト条約に署名した各国首脳もそのことは理解していたが、加盟国間の国境をなくし、ヒト、モノ、カネの移動を活発化させることを通じて、経済力の格差もいずれは解消すると期待して、積極的に問題を将来世代に先送りしたのだと思う。

 しかし、その期待、希望的観測は見事に外れた。国境が消え、ヒト・モノ・カネの移動が活発化しても、そのことだけで民族、言語、宗教、生活習慣などの違いが消えてなくなるほど世界は単純ではない。実際の経済は、こうした要素をはらんだ人々の意識の中で、従来の国民国家の枠組みをある程度残したまま動く。EUの制度設計をした人たちがそのことに対し、あまりに無頓着すぎたことがこの問題の根源にある。その意味で、ユーロ圏の経済危機は当初から予想されていたのであり、起こるべくして起きた出来事であった。

 英国が結果的に賢明だったのは、通貨統合に参加せず、独自通貨ポンドを捨てなかったことである。EU残留、離脱いずれの道を選択しても、前述した二重の調整システムを通じて財・サービスに適正価格をつけられるシステムを英国は温存していたからである。ポンドとユーロの間の格差は、これまで通り外国為替市場のレートを見るだけでよいのだ。

 ●エリート支配への怒りを組織できない左派

 まだ記憶に新しい、米国のトランプ勝利にも言えることだが、従来の常識を覆すこのような「番狂わせ」の背景には、エリート、エスタブリッシュメント支配に対する非エスタブリッシュメント層の反乱がある。「支配層がいいように政治を私物化し、自分たちを疎外している」という怒りが、うねりのように既成政治を倒したのである。ドナルド・トランプ個人の資質も「政権担当能力」も、そこで問われた形跡はない。

 歴史に仮定は許されないが、もし民主党がヒラリー・クリントンでなくバーニー・サンダース上院議員を大統領候補としていたら、大統領選はまったく違った結果になっただろうという論評は多くの人々の共感を得ている。実際、トランプとサンダースの支持層はかなりの程度、重複していたし、サンダースが民主党予備選に勝てず、大統領候補となれなかったことで、トランプに鞍替えしたり棄権したりした非エスタブリッシュメント層もかなりの数に上るとされる。

 『ドナルド・トランプは支配勢力の左右する経済・政治・メディアにあきれて嫌になった没落する中流階級の怒りと響きあった。人々は、低賃金が嫌になり、然るべき支払いのある仕事口が中国などの外国に行くのを見ているのが嫌になり、億万長者が連邦の所得税を支払わないのに嫌になり、そして子供たちが大学へ行く学費の余裕もないのに嫌になっている。それにも関わらず、大富豪はさらにリッチになっているのにあきれているのだ。

 トランプ氏が、この国の労働者家族の生活をよくする政治に誠実に取り組むならば、それに応じて私と、この国の先進的勢力は協力する用意がある。人種主義者、性差別主義者や外国人ヘイト、そして反環境主義の政治の道を行くならば、我々は精力的に彼に反対して行動するだろう』。

 これは、トランプ勝利を受け、サンダースが発表した声明である。これを見ても明らかなように、サンダースは移民排斥政策以外でほとんどトランプに批判らしい批判をしていない。それどころか、トランプが移民排斥をやめ、上流階級以外のための政治をするなら協力するとまで述べている。一方で、民主党予備選期間中のサンダースは、クリントンに対しては、次のように厳しい批判を加えているのだ。

 『クリントン長官は、上院議員だった2002年10月に対イラク開戦承認決議案に賛成した。北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)の支持者でもある。その上、自身のスーパーPAC(政治資金管理団体)を通じてウォール街から1500万ドルももらっている人に、大統領になる資格があるとは思わない』。

 今回の米大統領選がどのような構図で戦われたかを、これら一連のサンダースの発言はよく物語っている。これではどちらが自党の候補者で、どちらがライバル政党の候補者かわからないほどだ。

 既成政党が左右を問わずエリート支配に堕し、貧困層の受け皿でなくなっている状況が、英国だけでなく米国でも共通の課題であることが浮き彫りになった。選挙の対立軸がかつての左右から「上下」に移っていることが示された。『レイシストではなくチャーミングで、不安で途方に暮れている労働者層が、リベラルなエリートたちから「邪悪な人間たち」と否定されていることに深い悲しみを感じる』というスザンヌ・ムーアの指摘はここでも完璧に当てはまる。上から目線で大衆蔑視のイメージを払拭できなかったクリントンは、旧態依然としたエスタブリッシュメント層を代弁する候補者として強く忌避されたのである。

 翻って日本ではどうだろうか。次第に米英両国に近づいてきている印象を筆者は受ける。自民、民進両党の指導部(末端の議員や党員全体を指すのではなく、あくまで指導部)がどちらも貧困層軽視、グローバリズムと原発推進であること、党対党の対立よりも、党内部における指導部と末端議員・党員との対立のほうが先鋭化して見えることなど、実によく似ている。そもそも、米英両国を範として「政権交代可能な保守2大政党制」を目指してきたのが55年体制崩壊後の日本政界であった。その意味で、日本の政界風景が米英両国に似てくるのは必然といえよう。

 篠田徹・早稲田大教授は、米国では組織の枠組みを超え、地域で雇用政策などの新しい動きが生まれているとの山崎憲氏(労働政策研究・研修機構主任研究員)の指摘を受け「関係者をすべて横でかき集めるという「ステークホルダー」という考え方。関係者がみんな集まって解決していくというのは世界的流れになりつつある」としている(「労働情報」誌第949号より)。日本でも、左右対立を軸とした従来の政治感覚をそろそろ抜本的に見直して、上下を軸に政治を展望することが必要な状況になってきている。

 ●飯も食えないグローバリズムより食えるナショナリズムへ

 英国のEU離脱とトランプ勝利にはもうひとつ、避けて通ることのできない重大な共通点がある。「飯も食えないグローバリズムに殺されるくらいなら、飯を食わせてくれるナショナリストに国を委ねた方がましだ」という非エスタブリッシュメント層の意思を、新たな国際的潮流として確定させる効果を生みかねないことである。

 トランプが「米国は世界の警察官から降りる」と宣言し、国際社会に権力の空白が生まれつつある。巨大な資本主義戦争マシーンである米国が世界のあちこちに軍事介入をしてきたこれまでのやり方を見直すことは、反戦運動を戦ってきた諸勢力にとって確かに歓迎すべき出来事だろう。だが、筆者には、この権力の空白が第2次大戦直前期に似ていて、そこに一抹の不安を覚えるのである。

 米国がモンロー主義(非介入主義)を唱えた第1次大戦後、世界には現在と同じように権力の空白が生まれた。そのような権力の空白に加え、第1次大戦敗戦の結果としての天文学的な負債、そして失業者が700万人に上る未曾有の経済危機がナチスとヒトラーを政権の座に就けた。ユダヤ人を排斥する一方、アウトバーン(高速道路)建設を中心とした公共事業を通じて失業者を600万人から50万人に激減させた。ヒトラーは、当時の貧困層には決して手の届かなかった自動車保有の夢をかなえるため、ポルシェに命じて大衆車フォルクスワーゲンを開発させた。ある元社会民主党員の女性は「少しでもナチスに異議を唱えると、『ヒトラーが成し遂げたことをぜひ見てほしい。我々はまた以前のようにたいしたものになっているのだから』と決まって反論された」と当時を振り返っている。

 安倍首相は、麻生元首相に指摘されるまでもなく、すでにナチスの手法をじゅうぶんに真似ている。アベノミクスを通じて大規模な公共事業をオリンピックの名の下に興すことで、実際、失業者を減らした。ヒトラーが、自由市場経済の原則をものともせず、企業に命じてフォルクスワーゲンを作らせたように、安倍首相も企業に命じて賃上げや残業減らしに躍起となっている。メディアを総動員した“ニッポン凄い”キャンペーンによって「我々をまた以前のようなたいしたもの」にしようとする姿は、まさにヒトラーと二重写しだ。

 一度は政権を投げ出した安倍首相を再び政権に返り咲かせた要因は単に野党のふがいなさだけにあるのではない。「飯も食えない国際協調とグローバリズムから食えるブロック経済とナショナリズム」への国際的潮流の変化を抜きにしてそれを語ることはできないだろう。野党のみならず、自民党内からも安倍首相の対抗勢力が現れない理由、国際的には死んでしまった新自由主義にいまだ指導部がしがみついたままの民進党が凋落の一途をたどっている理由について、このように考えると納得がいく。安倍首相が権力を奪取したというより、時代が安倍首相を捜し当てたのである。その意味でも2016年は、10年後の世界から歴史的転換点として、はっきり記録される年になると思う。

 この他、英国のEU離脱やトランプ当選の過程において、インターネットがもたらした「負の役割」についても述べる予定だったが、紙幅以前に筆者の気力が尽きたようだ。これらは新年早々に改めて論じることにしたい。

 読者諸氏にとって、新年が安穏な年となることを願っている。

注)英国議会では、正面から見て右側に与党、左側に野党が座る形で向き合って議論する。両者の真ん中には1本の線が引かれていて、互いにどんなに議論が白熱してもその線より前に出てはならないとされる。かつて、議員が剣を身につけていた時代にこの線が引かれたことから、この線が“Sword Line”(ソードライン、剣線)と呼ばれるようになったとの俗説がある。余談だが、英語には“Live by the sword, die by the sword.”(剣によって生きる者は剣によって滅ぶ)ということわざがある。

(黒鉄好・2016年12月17日)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日高本線鵡川~様似間の廃止を提起~半数の町長が欠席の中でJRが「説明会」を強行

2016-12-25 21:42:55 | 鉄道・公共交通/交通政策
JR北海道は、12月21日、浦河町内のホテルで「説明会」を開き、日高本線鵡川(むかわ)~様似(さまに)間(116.0km)について、災害からの復旧を断念し、廃止としたいとの意向を沿線市町村に伝えた。日高本線は、2015年1月の高波により不通となったまま、年明けには不通2年を迎える。



この日の説明会には、JR北海道側から島田修社長、瀧本峰男取締役・総合企画本部副本部長(線区経営改善担当)が出席。沿線自治体から川上満平取(びらとり)町長、三輪茂日高町長、小竹國昭新冠(にいかっぷ)町長(日高町村会会長)、竹中喜之むかわ町長の4町長が出席した。説明会会場のホテルがある浦河町をはじめ、新ひだか、様似の3町長は、JR北海道の一方的な廃線通告に抗議の意思を示すため欠席。えりも町長も「体調不良」を理由に欠席し、沿線8自治体首長のうち半数が欠席する異例の事態の中で行われた。

島田社長は、高波に今年夏の台風10号による被害も加わり、復旧費が86億円に上ると見込まれること、復旧費と別に「海岸浸食対策費」も必要で、これらを合わせると100億を超える費用が必要との社内試算を示した。また、JR側が沿線自治体に求めた13.4億円の費用負担に、沿線自治体側が難色を示したこと等、廃止を提案するに至った経緯を淡々と説明した。

廃止の提案をする島田社長


もともと、この説明会は沿線自治体側が望んだものではなく、JR北海道が一方的に設定したものだ。むかわ町を除く沿線7自治体は、日高本線が不通となって以降、6回にわたって継続してきた沿線自治体協議会の場での協議続行を望んでいた。沿線自治体協議会のメンバーでないむかわ町長に至っては、今日の説明会にいわば呼びつけられた形になる。それだけに、この一方的で乱暴な説明会の強行に、沿線自治体側から次々と怒りの声が上がった。とりわけ、説明会終了後、ぶら下がり会見に応じた三輪町長、小竹町長の2人は怒りを隠さなかった。

三輪町長「これは私たちが求めていない説明会だと思っている。(JRからの回答は)沿線自治体協議会で求めていきたい。今日はそれについてはコメントしない。社長の話を聞き置くだけだ。(他の町長の)皆さんもそうだと思う。もう1回、第7回の(沿線自治体)協議会開催を求めていく」

小竹町長「大変厳しい説明内容だったと受け止めている。(バス転換では)利用者に負担がかかる。(バス転換は)想定しておらず、今日は説明を聞いただけだ。なぜ協議会の場で提案しないのか。今日はその旨を申し上げた。協議会がそのスタートになる」

この上で、小竹町長は「あくまで復旧を求めていく方針に変わりはないか」との記者の質問に、「初めからその気持ちであり、現在もそれは変わらない」「協議会はあくまでも復旧のためのもの。(再開されれば)復旧を目指していくことになる」と答え、あくまでも日高本線の復旧を求めていく方針に変わりはないと明言した。「JR北海道は今日の(説明会の)日程をあらかじめ決めていたのではないか。急に決めたようには思えない」とも述べ、初めに廃線通告ありきのJR北海道の姿勢に対し、不信感をあらわにした。

この日の説明会には、筆者もレイバーネット報道部として取材参加したが、「運輸交通記者クラブの加盟社ではない」という理由で質問は禁じられた。その場で「善処」を要望したが、JR北海道広報部は「記者クラブとの関係もあり、当社の一存で決められない」と回答。一方「会見終了後の個別取材には応じる」と譲歩してきたため、今後に向け、引き続き非加盟社の会見場での質問を認めるよう、改善を求めてゆくことにしたいと考えている。

会見終了後のレイバーネットの取材に対し、JR北海道広報部は以下のように答えた。

Q.過去の鉄道路線廃止では、沿線自治体の同意を得ずに廃止届を提出した例はないものと理解している。今回の提案をもって「協議打ち切り、廃止届提出」でないと確約願いたい。

A.(鉄道事業法では、廃止届の提出は事業者の判断であり、沿線自治体の同意が条件とされていないため)手続上は可能だが、現実問題として、それ(廃止届の強行提出)はできないものと考えている。いずれにしても、沿線自治体と相談させていただくことになる。

Q.JR北海道は、維持困難13線区の発表の際、地元に上下分離の提案を行っているが、自治体とりわけ市町村にとって鉄道の下を負担することは財政上、不可能に近い。JR北海道として、「下」の保有を行うべき事業体として、どのような形のものを想定しているのか。また、国に下を保有するよう働きかける考えはないのか。

A.「下」は自治体を想定しているが、それは絶対ではなく、過去に(他地域で)そのような例があったためそうしているだけ。JR北海道から「下」を保有するよう国に求めていく考えはない。国は第三者に過ぎない。

----------------------------------------------------------

島田社長は、「(不通が2年近くになる日高本線については)そろそろ「現実的な解決策」を提示する時期」だと繰り返したが、廃線提起をすることが鉄道事業者として責任ある態度とはとても思えない。それは沿線町長らの声にも現れている。

北海道では、国鉄分割民営化の際、全体の3分の1にも及ぶ鉄道を失っており、沿線地域の衰退は加速した。今回、JR北海道が「単独では維持困難」とした路線はJR北海道全営業キロの半分にも及ぶ。この問題は分割民営化に端を発しており、北海道全体の総合交通計画を作成する責任は道にある。にもかかわらず、国も道もこの問題に主体的な関わりを避け、逃げている。こうした国や道の姿勢に対しても道民の不満は高まっている。「JR北海道から「下」を保有するよう国に求めていく考えはない」とする回答からは「当社の仕事ではない」という意識が透けて見えた。

原発と同様、責任の所在が曖昧な「国策民営」の弊害が噴出していることが、取材を通して見えてきた。JR北海道の100%株主である国も鉄道運輸機構も、総合交通計画を作成する責任を負う道も、会社の存在が法律(JR会社法)に規定され、決定権を持たないJR北海道も、全員が「自分の責任ではない」と考え、責任を押しつけ合っている構図だ。国交省も当事者意識がなく、やはり今後はJR北海道問題を中央での政治案件に引き上げてゆくことが必要だ。それなくしてこの問題の根本的解決はあり得ないというのが、会見場を取材しての感想だった。

この日の説明会は、沿線自治体側が「JR北海道側の説明を聞いただけ」で廃止、バス転換への同意でないことはもちろん、今後も日高本線の復旧を求めていく方針に変わりはないと明言したこと、筆者の取材に対してもJR北海道広報部が「廃止届の強行提出はできない」としたことは大きな成果である。浦河町など4町長が欠席したことも、この日の説明会を廃止同意の場にさせない上で大きな効果を発揮した。

「日高本線は維持困難13線区とは別」との島田社長の回答とは裏腹に、JR北海道がこの説明会を「維持困難線区各個撃破作戦」の第1弾と考えていたことは明白であり、ここで安易に沿線自治体が廃止や地元負担を受け入れれば、13線区沿線が総崩れになる恐れがあった。第1弾の日高本線をめぐって、JR北海道の思惑通りに事を運ばせなかったことで、今後の路線維持に大きな望みをつないだといえよう。

----------------------------------------------------------

なお、廃線提案後の記者会見におけるメディアと島田社長とのやりとりは、以下の通り。

(朝日新聞)
 バス転換のめどはいつ頃か。

(島田社長)
 現時点においては申し上げられる段階にない。

(毎日新聞)
 過去1年の協議会の中で、(自治体側からJR北海道に対し)費用負担が難しいとの回答があったが、協議会でなく説明会となった理由は。

(島田社長)
 責任ある回答を示してほしいとの自治体側からの依頼を受け、社内検討を経てこの形となった。4自治体の首長が代理出席ということもあり、今日は説明をする場だ。協議会を再開してほしいとの要望もあり、道とも相談の上、今後のご相談をさせていただきたい。しかしながら、1日も早く現実的な解決策を出すべき時期に来ているとの強い思いを持っているので、年明け以降、協議会などの場で話し合いが行われることを期待したい。

(NHK)
 廃止に至るまで、全自治体の同意が条件なのか。

(島田社長)
 本日は厳しい意見をいただいたので、正式の協議会の場で丁寧に説明させていただき、日高地域の公共交通をどうすべきか、合意を得る努力をしていきたい。まずは、私どもの提案にご理解をいただきたい。

(NHK)
 今日は、維持困難13線区公表後初めて(JR北海道が廃止の)方針を示した場と捉えてよいか。

(島田社長)
 日高線については、台風被害があり、協議会での協議経過もあるので、13線区公表スケジュールとは異なると理解いただきたい。

(NHK)
 今後もこのような形になるのか。

(島田社長)
 合意形成が整ったところから、個別線区について話し合いの場を持ちたい。一斉にということではない。

(北海道新聞)
 むかわ町長を呼んだ理由、4町長が欠席された理由は。

(島田社長)
 むかわ町長にも参加してほしいとこちらからお声がけした。4町長が所用または体調不良で欠席されたことは残念。年明け以降、首長が欠席した自治体には説明していきたい。

(北海道新聞)
 仮定の話になるが、高波被害だけなら日高線は復旧していたと考えるか。

(島田社長)
 復旧していたとしても、台風でまた被災していたと考えられる。自然災害対策は頭の痛い問題だ。

(読売新聞)
 繰り返しになるが、廃止のめどは決まっていないということか。

(島田社長)
 協議会のこともあり、現時点では申し上げられる段階にない。

(共同通信)
 協議会は今後も行われるのか。

(島田社長)
 協議会の場で正式に回答してほしいとの意見があったので、そのようにしたいが、その後どのような場で協議すべきかは話し合っていきたい。

(STV―地元民放テレビ局)
 沿線自治体首長は復旧を求めている。協議は難航すると思われるが。

(島田社長)
 台風被害を受け、1日も早く現実的な解決策を出す時期に来ている。当社提案を検討いただきたい。

(STV)
 バス転換に関しての費用負担は。

(島田社長)
 協議会で議論することであり、金額は出ていない。
----------------------------------------------------------

●当日の動画はこちら。

161221JR北海道 日高線鵡川~様似間廃線提案(その1/島田社長記者会見)


161221JR北海道 日高線鵡川~様似間廃線提案(その2/三輪茂・日高町長ぶら下がり会見)


161221JR北海道 日高線鵡川~様似間廃線提案(その3/小竹國昭・新冠町長ぶら下がり会見)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする