3日目。高知市内のホテルで起床……したが、正直、昨夜は熟睡できなかった。久しぶりの長期鉄道旅行で神経が高ぶっているのか、単にこのホテルの設備のせいかはわからない。
高知駅前8:31発のとさでん交通で出発となるため、今朝は8:00チェックアウトとなる代わりに割引となるプランを利用した。どうせ早い時間にチェックアウトしなければならないのだったら……と7時半頃にホテルを出る。高知駅内に、早朝から営業しているパン屋があるという事前情報の通り、営業している。パンとコーヒーで朝食。昨日の朝は出発が早く、「しおかぜ1号」車内で弁当だったから、時間の流れ方まで感覚が違う。
予定通り、とさでん交通に乗る。昨日は1日乗車券(1000円)を使ったが、今日は高知駅前~御免町の全線乗っても480円。1日乗車券ではまったく元が取れないので、普通運賃で乗車。高知市外に出ると、専用軌道の雰囲気が出てくる。遅れもなく、9時半前に御免町到着。
【完乗達成】とさでん交通
<写真>とさでん交通200形
土佐くろしお鉄道阿佐線(通称「ごめん・なはり線」)の御免町駅はすぐ隣にある。高架線のホームに上がって、待つことしばし、9:45に奈半利行き5852Dが到着。
室戸岬行きのバスには安芸、奈半利どちらからでも乗れるので、奈半利まで5852Dに乗り通す手もあったが、ごめん・なはり線には2002年7月の開業初日に全線乗っている。再び全線乗る必要はなく、安芸からバスに乗り換える方が空いているだろうとの判断の下に、安芸で5852Dを降りる。JRではないため、ごめん・なはり線でもバスでも四国フリーきっぷは使えず、別途運賃が必要なことにも変わりない。
安芸駅は、プロ野球・阪神のキャンプ地として観光地化しているせいか、駅が農産物直売所も兼ね、賑わっている。室戸岬行きバス乗り場がわからず、一瞬迷ったが、乗り場はすぐに判明した。
10:36安芸駅発のところ、やや遅れて高知東部交通バス室戸岬行きが来る。途中、奈半利駅に寄るが、ここから大勢乗り込んでくる。安芸で乗り換えた自分の判断はここでも吉と出た。コロナ禍が2年以上に及ぶ中、勘も鈍り、自分はこのままもう旅行もできないのではないかと思った時期もあった。だが、かつての「勘」が次第に戻りつつあるのを感じる。長かったコロナ禍ももう少しの辛抱なのではないかと、このとき初めて思った。
室戸岬には正午着。バス停の目の前に観光協会の事務所があり、キャリーバッグなど預かってくれるという。預けて岬を歩く。お目当てのDMVのうち、室戸岬経由で「海の駅とろむ」まで足を伸ばすのは1日1往復だけだ。予約済みのその1本(050便)は13:41発。ここで岬を散策&昼食のつもりで1時間40分空けたのだが……岬と名の付くところにありがちな「飲食店なし」という気配だ。
<写真>室戸岬
岬を散策し、観光協会で食事の摂れる場所を聞くと、「
ホテル あけのほし」を紹介される。徒歩だと片道15分程度かかるというので、1000円でレンタサイクルを借りる。「あけのほし」に着いたが、混んでいて注文から出るまでに30分かかるという。DMVに間に合わない可能性があり、残念ながら「あけのほし」からは撤収することにした。
「あけのほし」従業員から「もしかすると、岬近くの『ラポール』さん(喫茶店)が営業しているかも」と紹介される。再び自転車で岬方面に戻る。喫茶『ラポール』は観光協会のすぐ隣だった。いったい自分はなんのために1000円も払って自転車を借りたのかと思うが、こうしたハプニングは旅にはよくあることなので、問わないでおく。
昼食後、自転車を返却しつつ「結局、ラポールさんで食事をしました」と観光協会の話好きの女性係員にことの顛末を話すと「そうですか。ラポールさんが休日に開いてるなんて珍しいですね」と言われる。普段は週末はやっていないらしく、「3年ぶり行動制限なしGW」を当て込んでの特別営業だろう。初日こそトラブル続きだったが、今回の旅、なかなか運に恵まれている。
預けていたキャリーバッグを回収、13:41発DMV50便がやってくる。高速バスなどの予約サイト「発車オーライネット」で手軽に予約可能だ。マイクロバスから改造した車両なので、車内はマイクロバスそのものだ。
<写真>DMV050便の車両
ここで、今後乗る方のために情報提供しておきたいが、DMVはマイクロバスからの改造なので、座席の間隔が狭く、足下のスペースもギリギリである。当ブログ管理人のようにキャリーバッグを持って乗車し、足下に置くと、足を置く場所がなくなってしまい難儀した。
土曜・休日のみ運転され、「海の駅とろむ」まで足を伸ばす1日1往復のDMV(139便、050便)は今のところ全席指定だ。「優先席」表示がある左側2席は予約に割り当てないらしく、空席のままだった。キャリーバッグを持って乗車せざるを得ない場合は、運転手の許可を得た上で、キャリーバッグを優先席に置かせてもらうのも1つの方法かもしれない。
DMVは国道55号線を阿波海南駅に向け、北上する。途中、通過する東洋町は当ブログ管理人にとってぜひとも見ておきたい町だった。
実は、この高知県東洋町、2006年に日本で最初の「核ごみ最終処分場候補地」に名乗りを上げた自治体である。だが、町内を二分する政争のあげく、町長選で反対派が勝利、応募は撤回された。この東洋町の応募撤回以降、「究極の迷惑施設」の誘致に動く自治体は現れなかった。……2020年、北海道内から寿都町、神恵内村が名乗りを上げるまで。
今、この2つの自治体で進んでいるNUMO(原子力発電環境整備機構)による文献調査は、この秋にも終わるとみられている。北海道内の2町村と同じ運命をたどりそうになりながら、引き返すことに成功した全国唯一の町。どこで運命が分かれたのか、この町を見ることでヒントが得られるかもしれないと思ったからだ。
そして……やはりそこにはヒントがあった。核ごみ文献調査への応募に踏み切った寿都町は、国道沿いに廃屋が並ぶ。当ブログ管理人を案内してくれた人は「多分、町の建物の半分以上は廃屋だろう」と語っていた。一方、東洋町にそのような光景は見られなかった。ほとんどすべての家屋は手入れが行き届き、明らかに人が住んでいる気配を感じさせる。
水産業、水産加工業が主力産業であるという点では、東洋町も寿都町も同じである。だとすれば、2つの町の運命を分けたものは「住民が定住したくなる町か、出て行きたくなる町か」にあるというのが、当ブログ管理人の感想だ。
どんなに観光客が大挙して押し寄せたとしても、観光客は地元産業を潤すだけで、住民税を納めてくれるわけではないから自治体財政には寄与しない。コロナ前は観光公害といわれるほどインバウンドが押し寄せていた京都市が今、財政難に直面しているのも、観光客が住民税を納めてくれるわけではないからである。自治体が潤う秘訣は住民が増えることに尽きるのだが、東洋町には、人が住みたくなる「何か」があるのだろう。
<写真>「海の駅東洋町」に到着
DMVは「海の駅東洋町」に到着。ここから少し走り、いよいよ甲浦駅へ。国鉄再建法に基づく「工事凍結ローカル線」のうち、JR以外が事業主体になることで工事再開が認められた路線としては事実上最後の区間として、華々しく開通したのは2002年だっただろうか。それからわずか20年で、事実上、公共交通としての役割から降り、DMVによる観光輸送に活路を見いだそうとする阿佐海岸鉄道。その試みが吉凶どちらに転ぶかは、まだわからない。
DMVは、ゴムタイヤから鉄道車輪へのモードチェンジトラックが、甲浦駅では高架上にあるため、新しくこのために作られたスロープを回りながら上っていく。モードチェンジ中も乗客は車内から出られないため、車内では、液晶画面を使ってモードチェンジの動画が映し出される。モードチェンジはわずか15秒で終了した。
甲浦駅からは阿佐海岸鉄道線を車輪で走る。2軸車両のため、レールの継ぎ目を踏んだときは通常の列車のような「ガタンゴトン」という音ではなく、「トン、トン」という音になる。国鉄時代を知る年長世代は、ワム80000形のような2軸貨車の音に似ていると感じるかもしれない。実際、車輪モードの際は、通常の車両と違い、車体と車輪の間にバネがないため、振動がそのまま身体に伝わってくる。まさに「2軸ボギー貨車に乗せられている感覚」である。走行速度は40km程度で、レールバス時代よりずいぶんダウンした。
15:01に阿波海南到着。もともとは甲浦~海部が阿佐海岸鉄道の区間だったが、DMV開業に合わせ、海部~阿波海南はJR四国から阿佐海岸鉄道に移管された。DMVは鉄道車両に比べて車体が軽く、通常の鉄道用信号の地上子では車両通過を検知できないため、DMVを運転する区間は通常の鉄道車両は走れない。阿佐海岸鉄道は、今回、わずか20年前に先人が苦労してつなげた線路を、わざわざ切断するという「不退転の決意」でDMVを導入したのである。
<写真>阿波海南駅のモードチェンジトラック
<動画>2022.5.1【世界でここだけ】阿佐海岸鉄道DMV(デュアル・モード・ビークル/鉄陸両用車両)走行シーン/モードチェンジ
16:08阿波海南発の牟岐線4568D~568Dで18:11に徳島到着。いつの間にか絶滅危惧種となったキハ40形四国カラーが、前回、2009年訪問時と同じ姿で健在をアピール。徳島18:30発の高徳線特急「うずしお15号」で19:37に高松到着。
<写真>キハ40系四国カラー、いまだ健在
ここで約2時間の小休止を設けているので、夕食とする。せっかく香川県に来たからにはうどんを食べたい。駅ビル内のうどん店に入る。結果的に、弁当しか食べられなかった前日とは打って変わり、この日は3食、きちんとした飲食店に入れたことになる。
さて、いよいよ旅も終盤。この後はいよいよ「サンライズ瀬戸」に乗る。長年の夢が叶うときだ。