語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】東電の電気料金は半額にできる ~左団扇の東電~

2011年06月05日 | 震災・原発事故
 東電のリストラ策は、大きく二つ。(1)資産売却、(2)人件費削減、だ。
 (1)は、軽井沢や草津にある「東友倶楽部」をはじめとする27か所の保養所、「東京電力総合グラウンド」など総額6,000億円。
 (2)は、役員報酬を50~100%、社員給与を20~25%カットで年間540億円。
 しかし、政府試算で総額4兆円といわれる賠償費用には遠く及ばない。

 東電のリストラ策はには肝心な部分が抜けている、と古賀茂明・経済産業省大臣官房付はいう。
 (2-2)何度もリストラをやってきたJALさえ、11年3月期の連結業績ではリストラによる改善が1,000億円あった。売上高がJALの4倍以上もあり、しかもリストラを一度もやっていない東電ではJALの何倍もリストラが可能だ。
 (3)殿様商売で無駄だらけの事業を見直すべきだのに、経営合理化対策ではそこに全く手をつけていない。

 電力会社は、発電所や変電所の建設、燃料購入、人件費、宣伝費などの費用に一定の割合(現在3%)で利益を上乗せして電気料金を定める(「総括原価方式」)。コストが大きければ大きいほど、利益も同じ比率で増す仕組みだ。だから、いくら金をかけてもいいから立派な施設を作れ、となるわけだ。海外の発電所建設コストと比べれば、一目瞭然だ。1kW当たりのコストは、原子力発電所が3倍、火力発電所が20倍というデータもある。導入技術の違いを考慮しても日本の建設費は割高だ。
 東電は、営業所などで使うデスク、オフィス機器、文房具、制服などは定価に近い額で購入している可能性が高い。連結で53,000人を抱える東電が相手なら非常に旨みのある取引だ。経産省が電気料金認可時に納入価格を厳しくチェックしている、という話は聞かない。こうした経費はいくらでも絞れる。
 東電を取引先とする企業は5,000社以上。発電所の設計・建設関係の大企業が名を連ねる一方、年間売上高10億円以下で、東電を主要取引先とする企業が7割を占める。その中には、東電OBが経営する企業も目立つ。地元対策として取引する企業が多いのも特徴だ。

 かくて、日本人は、OECD30か国中8番目という高額な電気料金を押しつけられてきた。
 「民間企業はいかにして原材料費や設備建設のコストを安く抑えるかに腐心しているのに、東電をはじめとする電力会社はその真逆のやり方を60年間続けてきた。燃料輸入国という弱点はあるが、高コスト体質に徹底的にメスを入れて発想電の分離をすれば、コストは大幅に下げられる」「原発事故の補償費用があるにしても、値上げなど全く必要ないのです」(古賀・大臣官房付)
 日本に比べて海外の電気料金は、米国(発送電分離)は40%。韓国(発送電一体)でさえ33%だ。
 事業リストラを行えば、現在の半額まで電気料金を引き下げることは可能だろう。

 以上、記事「東電の電気料金は半額にできる」(「週刊ポスト」2011年6月10日号)に拠る。

   *

 舛添要一・元厚生労働大臣は、01年に参議院議員になったが、評論家時代、1回100万円以上で講演料を東電から受け取っていた。ギャラの振込先は細君が社長を務める舛添誠二経済研究所だから、収支報告書に出る政治献金と違って公開されない。
 舛添の東電がらみの講演は、富士市女性夏期大学における「21世紀の福祉について」(01年7月)、エネルギー推進委員会いおける「憲法改正問題」(05年6月)、東電本店における「私にとっての仕事と介護」(06年11月)などがある。

 加納時男・東電元副社長を98年から10年まで参議院議員として送りこむため、東電は、自民党の党友会といった名目で金を集めた。関連会社も含めて億単位が集まった。これで比例名簿の順位が上がった。秘書も東電からエリートが派遣された。
 加納には桁外れの影響力があった。国内に4千社の取引先を持つ東電の代表であり、経団連の代表でもあった。単なる商工族の議員とは違う。加納の引退後、野党ながらそれに近いのは甘利明・元経産大臣だ。
 自民党では、震災後の4月に「エネルギー政策合同会議」が発足した。委員長は甘利、参与は加納という原発推進者の集まりとなっている。

 東電は、超大物へのケアも怠らない。
 小泉純一郎・元総理が退任後の07年、国際公共政策研究センターというシンクタンクができた。小泉が顧問に就いた。多くの大企業からの寄付金で設立された。東電は、トップランクの1億円を寄付し、スタッフを派遣した。

 こうした経費も、総括原価方式で国民が払ってきた。

 以上、記事「小沢一郎と東京電力『蜜月21年』」(「週刊文春」2011年6月9日号)に拠る。

    *

 政府が5月13日に発表した東電の賠償スキームはまったく理解不能な代物ではないか。【古賀】
 東電救済スキームだ。本当なら東電は債務超過なのに、新設する原発賠償補償機構に政府が上限なしの公的資金を投入して「債務超過にはしない」と決めてしまった。政府のお墨付きがあることを前提に、20日の決算発表が行われた。これはいわば、国家的な粉飾決算だ。【高橋】
 福島第一原発から漏出している汚染水の費用は1トン当たり1億円とも言われている。すでに10万トンを超えたそうだが、汚染水処理だけでも10兆円単位になる。【古賀】
 東電の純資産は1兆6千億円だから、汚染水の処理だけであっという間に債務超過(笑)。政府はミエミエのウソをついてまで東電を助けたい、というわけだ。【高橋】
 普通に考えれば東電の債務超過は確実で、明らかな破綻企業だ。それを前提にすれば、東電の処理は株主、債権者の順に責任を負担してもらうのが資本主義市場のルール。そして、減資と債権カットした分だけ、国民負担が少なくなるのが通常の形だ。ところが、今回の賠償スキームは、役員報酬や資産売却で東電をさんざん叩いて国民の鬱憤を晴らしたかのうように見せて、そこから先はいきなり国民負担、という話になっている。【古賀】
 減資も債権カットも行わず、その一方で賠償機構に公的資金=税金を上限を決めずに投入する、という。さらには補償費用捻出のために電気料金が値上げされる可能性も高い。結局のところ国民に負担を押しつけるのだから、完全にバカにしている。本来であれば会社更生法や民事再生法を使えばすむこと。法律に則って株主、債権者の順に債権がカットされていく。原発事故の被災者も債権者になるが、被災者については救済法という特別法によって守る。それこそが立法府のメンバーたる政治家の責任だ。ところが、政治が関与して市場のルールを曲げてしまった。将来に禍根を残す。【高橋】
 東電は、被災者補償について全部は払えないと政府に泣きついているが、なぜか金融機関に対しては債権放棄を求めていない。つまり、被災者より金融機関が優遇されかねない。【古賀】
 債権者と債務者が当事者間で話し合うことはあっても、政府がその仲裁に入ってはいけない。これが大原則だ。本来、それは司法の役割だから、行政が口を出すべきじゃない。それを無防備にやってしまう菅政権は、すごく未熟だとしか言いようがない。【高橋】

 専売公社や電電公社は民営化したし、興銀もある時期から天下国家を論じるゆとりがなくなった。しかし、東電は変わらなかった。電力会社は究極の地域独占企業だし、すべてのコストの上に一定の率で利益を乗せて電気を売ることができるからだ。「総括原価方式」という電気事業法で認められた計算だが、これだとコストが増えればその分だけ利益も増える。普通の企業は1円でもコストを切り詰めようとするが、競争の存在しない電力会社にはそういう苦労が一切ない。【古賀】
 見事に役所だ(笑)。【高橋】
 そういう会社だから歴代の東電の社長はみんな勉強家で、その辺の次官よりずっと教養があった。コストのこともライバルのことも心配する必要がないので、時間に余裕があって、毎日、社長室で哲学書を読んで過ごせるから(笑)。【古賀】
 結局、同質な人間同士の仲間意識が規制を緩くさせ、今日の事態を招いたということになるか。【高橋】

 以上、対談:古賀茂明(現役経産省キャリア)&高橋洋一(元財務省キャリア)「『原発ズブズブ』『東電ズブズブ』の霞が関だもの」(「週刊現代」2011年6月11日号)に拠る。
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