語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】まだ表われていない大震災の経済的影響~課題の整理~

2011年06月13日 | ●野口悠紀雄
 大震災が日本経済に与える(or今後与える)影響は、次のようなカテゴリーに分けて識別する必要がある。
 (1)すでに影響が生じており、その大きさをデータで確かめられるもの、生産設備の損壊に伴う問題。
 震災による直接的な影響で、そのほとんどは生産量の減少や電力の供給制約だ。
 この影響は、鉱工業生産指数や貿易統計にすでに表れている。3月の自動車の生産は、66年の統計開始以来最大の下落幅(57.3%減)となった。貿易収支は4,637億円の赤字となった。
 生産設備はいずれ回復する。ただし(3)の海外移転が進む可能性があり、どの程度進むか、現時点では十分な評価が難しい。
 発電施設も、火力については復旧・増強が行われている。定量的な見とおしは可能だ。ただし、(2)の電力コスト上昇の問題が生じ得る。

 (2)今後生じることは確実だが、明確な形の影響はまだ生じておらず、したがって現時点では定量的に把握しにくい問題。
 (a)原子力発電に関わるもの。
 浜岡原発が運転停止となり、電力の量的制約は全国的な広がりを持つことになった。定期点検などで停止中の原発の運転再開は、不確実性が大きい。浜岡原発のような事態がほかでも生じれば、量的な電力制約はさらに広がるだろう。

 (b)原子力から火力へのシフトに伴う発電コスト上昇。
 近未来に生じることが確実であり、定量的にもある程度は見当がつく。東電は、LNGの輸入増加のため1兆円程度のコスト増が生じる、としている。中電、さらにほかの電力会社でも同じ事態が発生する可能性が高い。
 電力コストの上昇要因は、ほかにもある。東電には、原発事故の賠償金、事故収束への費用、廃炉に必要な費用が発生する。5月13日に決定された賠償スキームには、東電の賠償責任に上限が設けられていないので、基本的には電気料金に転嫁されると思われる。
 これらに起因する料金引き上げがどの程度になるか、現時点では完全には把握しにくい。しかし、東電の場合には、火力シフトと合わせて料金が2割以上、場合によっては4割程度の値上げとなる可能性もある。

 (c)震災で損壊した生産施設、住宅、社会資本の復旧のための投資。
 これらが行われることは確実で、どの程度の額になるか、おおよその見当はつく。被害総額が16兆~25兆円(内閣府の見とおし)だとして、復旧期間が2~3年とすれば、毎年の投資額は10兆円程度になる。
 ただし、これらの投資がいかにファイナンスされるか、現時点でははっきりしない。財政が関与する部分(主に社会資本)について、主な財源が税になるのか国債になるのか、まったく不明だ。
 民間主体による復興投資についても、金利や為替レートによって、動向が大きく左右される。そして、金利や為替レートは経済政策によって大きく変わる。

 (3)極めて重大であるにもかかわらず、定量的な把握が現時点では難しい問題。
 最も重要なのは、生産拠点の海外移転だ。これは円高によって、すでに昨秋から顕著に生じている。すでに日本の製造業は、怒濤の勢いで生産拠点の海外移転を進めている。しかし、震災後の状況については、現時点で得られるデータが極めて少ない。
 (2)の(a)や(b)によって、海外移転が一層加速する可能性が極めて高い。また、(2)の(c)の増加で金利が上昇すれば、国内での工場再建は不利になる。金利上昇が円高をもたらせば、さらにその傾向が強まる。 

 これまで日本の中核産業であった製造業が海外に移転してしまえば、深刻な雇用問題が発生する。だからといって、民間企業に雇用の責任を負わせることはできない。製造業に国内にとどまってほしい、と要請することはできない。だから、製造業に代わって雇用を生み出す産業を作り出すことが、どうしても必要だ。それがいかなる産業になるかは、日本経済の命運を決める重大なポイントだ。
 これまでも、製造業の雇用は減り続けてきた。問題は、製造業からあふれる雇用を受け入れる受け皿が小売業、飲食店など生産性が低いサービス業しかなく、そこでパートタイム形態の雇用が増えたことだ。ために、全体として給与水準が低下し、日本経済の所得が低下した。
 「生産性の高いサービス産業を作ることは、これまでも必要とされてきたことだが、それが一刻の猶予も許されない緊急の事態となった」

【参考】野口悠紀雄「まだ表われていない大震災の経済的影響 ~ニッポンの選択 最終回~」(「週刊東洋経済」2011年6月4日号)
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【震災】岩手を見捨てた小沢一郎/岩手に見棄てられた小沢一郎

2011年06月13日 | 震災・原発事故
 何よりも小沢一郎・民主党元代表の凋落を物語るのは、実は、地元岩手における酷評だ。
 「小沢氏が権力者の表舞台に戻ってくることに対して、誰もが会合で『もうウンザリだ』『えらい迷惑だ』とぼやいていた。マスコミはすぐ地元を小沢王国と呼ぶが、もう嫌気が差しているんです。水谷建設の事件であまりにもイメージが悪いし、震災後、一度しか岩手に帰ってきていない。しかも、行ったのは県庁だけ」【地元関係者】

 「そもそも国難の時に頼りになるという期待感が小沢にはあった。ところが、いざとなったら何もしないことがよくわかった。選挙の時だけ、地を這えと人を動かすのに、被災地に誰も寄こさない。先日、岩手で経営者ら200人が集まった時、みんな『小沢は地に墜ちた』と非難囂々でした」【小沢の元選対幹部】
 倒閣のために小沢グループの政務三役5人が辞表を出した騒ぎも、致命的だ。5人のうち、東祥三・内閣府副大臣は原子力と防災担当だ。樋高剛・環境政務官は、瓦礫など災害廃棄物の処理担当責任者だ。
 「ここまで被災地を無視した政局はありえない」【政治部記者】

 壊滅的な被害を受けた陸前高田市は、中選挙区時代、小沢の選挙区だった。政治の停滞が、ここで深刻な問題をひき起こしている。
 瓦礫を撤去しても、県はまだ3月分の代金を全額支払っていない。支援金も義援金も入ってこない。だから、重機のリース代、従業員の賃金が払えない。銀行はカネを貸してくれない、云々。【瓦礫を撤去した土木業者】
 瓦礫撤去には手をつけない業者がけっこうある。復興計画が確定していない現状では、タダ働きになるからだ。今は資材を調達している。小沢派の代表格だった会社が自民党に頼んでいるほどだ。これまで小沢は「用があれば秘書に言え」と言ってきたが、誰も来ないから頼りにならない、云々。【被災していない地域の建設業者】

 小沢王国を支えてきたのは、建設業者だった。しかし、震災以前から、県内の業者は小沢離れを始めていた。
 10年に公正取引委員会が、「談合を繰り返していた」と県内の80社を認定したのが発端だ。公共事業の指名停止処分と課徴金の納付命令で自主廃業や倒産に追いこまれる企業が出てきたのだ。
 除け者にされなくない、という恐怖心から談合サークルに入っていた業者も巻き添えを食らった。もう政治活動どころではない。【県政関係者】
 選挙のたびに動員を要請され、名簿の提出を求められていた建設業者が、「政治には疲れた」と離れていった。そこへトドメの一撃となったのが、震災への無策だ。

 小沢が被災地を訪れないのは、「警備などで迷惑をかけるから」ではない。
 小沢は、被災地で陳情されるのが嫌なのだ。陳情されても、「よし、わかった」と言えない。政府に対する力がなくなったから、空手形を切れないのだ。【小沢グループに詳しい関係者】
 それでも、「人としておかしいだろ」と、瓦礫を撤去する別の土木業者は言う。2月の市長選挙の時、小沢ら現職国会議員、県議、県知事が陸前高田を訪れた。「陸前高田を明るくする」と言っていたが、連中は薄情にも来ない。だから、我々市民は「なんだよ、選挙の時だけ来て」と言うんだ。自分の選挙地盤だった所だから、小沢に常識があれば顔くらい見せるだろ。「うちの母ちゃんもじいちゃんも亡くなったんだ」と叫ぶ子どもが、ここにはいっぱいるのに、一体、国会で偉そうに何をやってんだ、云々。
 黄川田徹・衆議院議員の秘書の遺体が上がった後、焼き場に来た民主党の人間は黄川田議員だけだった。小沢の秘書も他の民主党の連中も来なかった。死に水を取ることもできないヤツらに、政治なんてできねえよ、云々。【黄川田議員の支持者】
 「小沢にとって、我々は票集めの道具でしかない」【後援会幹部】

 以上、記事「岩手を見捨てた小沢一郎 有力後援者が続々『絶縁宣言』」(「週刊文春」2011年6月16日号)に拠る。
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