大震災が日本経済に与える(or今後与える)影響は、次のようなカテゴリーに分けて識別する必要がある。
(1)すでに影響が生じており、その大きさをデータで確かめられるもの、生産設備の損壊に伴う問題。
震災による直接的な影響で、そのほとんどは生産量の減少や電力の供給制約だ。
この影響は、鉱工業生産指数や貿易統計にすでに表れている。3月の自動車の生産は、66年の統計開始以来最大の下落幅(57.3%減)となった。貿易収支は4,637億円の赤字となった。
生産設備はいずれ回復する。ただし(3)の海外移転が進む可能性があり、どの程度進むか、現時点では十分な評価が難しい。
発電施設も、火力については復旧・増強が行われている。定量的な見とおしは可能だ。ただし、(2)の電力コスト上昇の問題が生じ得る。
(2)今後生じることは確実だが、明確な形の影響はまだ生じておらず、したがって現時点では定量的に把握しにくい問題。
(a)原子力発電に関わるもの。
浜岡原発が運転停止となり、電力の量的制約は全国的な広がりを持つことになった。定期点検などで停止中の原発の運転再開は、不確実性が大きい。浜岡原発のような事態がほかでも生じれば、量的な電力制約はさらに広がるだろう。
(b)原子力から火力へのシフトに伴う発電コスト上昇。
近未来に生じることが確実であり、定量的にもある程度は見当がつく。東電は、LNGの輸入増加のため1兆円程度のコスト増が生じる、としている。中電、さらにほかの電力会社でも同じ事態が発生する可能性が高い。
電力コストの上昇要因は、ほかにもある。東電には、原発事故の賠償金、事故収束への費用、廃炉に必要な費用が発生する。5月13日に決定された賠償スキームには、東電の賠償責任に上限が設けられていないので、基本的には電気料金に転嫁されると思われる。
これらに起因する料金引き上げがどの程度になるか、現時点では完全には把握しにくい。しかし、東電の場合には、火力シフトと合わせて料金が2割以上、場合によっては4割程度の値上げとなる可能性もある。
(c)震災で損壊した生産施設、住宅、社会資本の復旧のための投資。
これらが行われることは確実で、どの程度の額になるか、おおよその見当はつく。被害総額が16兆~25兆円(内閣府の見とおし)だとして、復旧期間が2~3年とすれば、毎年の投資額は10兆円程度になる。
ただし、これらの投資がいかにファイナンスされるか、現時点でははっきりしない。財政が関与する部分(主に社会資本)について、主な財源が税になるのか国債になるのか、まったく不明だ。
民間主体による復興投資についても、金利や為替レートによって、動向が大きく左右される。そして、金利や為替レートは経済政策によって大きく変わる。
(3)極めて重大であるにもかかわらず、定量的な把握が現時点では難しい問題。
最も重要なのは、生産拠点の海外移転だ。これは円高によって、すでに昨秋から顕著に生じている。すでに日本の製造業は、怒濤の勢いで生産拠点の海外移転を進めている。しかし、震災後の状況については、現時点で得られるデータが極めて少ない。
(2)の(a)や(b)によって、海外移転が一層加速する可能性が極めて高い。また、(2)の(c)の増加で金利が上昇すれば、国内での工場再建は不利になる。金利上昇が円高をもたらせば、さらにその傾向が強まる。
これまで日本の中核産業であった製造業が海外に移転してしまえば、深刻な雇用問題が発生する。だからといって、民間企業に雇用の責任を負わせることはできない。製造業に国内にとどまってほしい、と要請することはできない。だから、製造業に代わって雇用を生み出す産業を作り出すことが、どうしても必要だ。それがいかなる産業になるかは、日本経済の命運を決める重大なポイントだ。
これまでも、製造業の雇用は減り続けてきた。問題は、製造業からあふれる雇用を受け入れる受け皿が小売業、飲食店など生産性が低いサービス業しかなく、そこでパートタイム形態の雇用が増えたことだ。ために、全体として給与水準が低下し、日本経済の所得が低下した。
「生産性の高いサービス産業を作ることは、これまでも必要とされてきたことだが、それが一刻の猶予も許されない緊急の事態となった」
【参考】野口悠紀雄「まだ表われていない大震災の経済的影響 ~ニッポンの選択 最終回~」(「週刊東洋経済」2011年6月4日号)
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(1)すでに影響が生じており、その大きさをデータで確かめられるもの、生産設備の損壊に伴う問題。
震災による直接的な影響で、そのほとんどは生産量の減少や電力の供給制約だ。
この影響は、鉱工業生産指数や貿易統計にすでに表れている。3月の自動車の生産は、66年の統計開始以来最大の下落幅(57.3%減)となった。貿易収支は4,637億円の赤字となった。
生産設備はいずれ回復する。ただし(3)の海外移転が進む可能性があり、どの程度進むか、現時点では十分な評価が難しい。
発電施設も、火力については復旧・増強が行われている。定量的な見とおしは可能だ。ただし、(2)の電力コスト上昇の問題が生じ得る。
(2)今後生じることは確実だが、明確な形の影響はまだ生じておらず、したがって現時点では定量的に把握しにくい問題。
(a)原子力発電に関わるもの。
浜岡原発が運転停止となり、電力の量的制約は全国的な広がりを持つことになった。定期点検などで停止中の原発の運転再開は、不確実性が大きい。浜岡原発のような事態がほかでも生じれば、量的な電力制約はさらに広がるだろう。
(b)原子力から火力へのシフトに伴う発電コスト上昇。
近未来に生じることが確実であり、定量的にもある程度は見当がつく。東電は、LNGの輸入増加のため1兆円程度のコスト増が生じる、としている。中電、さらにほかの電力会社でも同じ事態が発生する可能性が高い。
電力コストの上昇要因は、ほかにもある。東電には、原発事故の賠償金、事故収束への費用、廃炉に必要な費用が発生する。5月13日に決定された賠償スキームには、東電の賠償責任に上限が設けられていないので、基本的には電気料金に転嫁されると思われる。
これらに起因する料金引き上げがどの程度になるか、現時点では完全には把握しにくい。しかし、東電の場合には、火力シフトと合わせて料金が2割以上、場合によっては4割程度の値上げとなる可能性もある。
(c)震災で損壊した生産施設、住宅、社会資本の復旧のための投資。
これらが行われることは確実で、どの程度の額になるか、おおよその見当はつく。被害総額が16兆~25兆円(内閣府の見とおし)だとして、復旧期間が2~3年とすれば、毎年の投資額は10兆円程度になる。
ただし、これらの投資がいかにファイナンスされるか、現時点でははっきりしない。財政が関与する部分(主に社会資本)について、主な財源が税になるのか国債になるのか、まったく不明だ。
民間主体による復興投資についても、金利や為替レートによって、動向が大きく左右される。そして、金利や為替レートは経済政策によって大きく変わる。
(3)極めて重大であるにもかかわらず、定量的な把握が現時点では難しい問題。
最も重要なのは、生産拠点の海外移転だ。これは円高によって、すでに昨秋から顕著に生じている。すでに日本の製造業は、怒濤の勢いで生産拠点の海外移転を進めている。しかし、震災後の状況については、現時点で得られるデータが極めて少ない。
(2)の(a)や(b)によって、海外移転が一層加速する可能性が極めて高い。また、(2)の(c)の増加で金利が上昇すれば、国内での工場再建は不利になる。金利上昇が円高をもたらせば、さらにその傾向が強まる。
これまで日本の中核産業であった製造業が海外に移転してしまえば、深刻な雇用問題が発生する。だからといって、民間企業に雇用の責任を負わせることはできない。製造業に国内にとどまってほしい、と要請することはできない。だから、製造業に代わって雇用を生み出す産業を作り出すことが、どうしても必要だ。それがいかなる産業になるかは、日本経済の命運を決める重大なポイントだ。
これまでも、製造業の雇用は減り続けてきた。問題は、製造業からあふれる雇用を受け入れる受け皿が小売業、飲食店など生産性が低いサービス業しかなく、そこでパートタイム形態の雇用が増えたことだ。ために、全体として給与水準が低下し、日本経済の所得が低下した。
「生産性の高いサービス産業を作ることは、これまでも必要とされてきたことだが、それが一刻の猶予も許されない緊急の事態となった」
【参考】野口悠紀雄「まだ表われていない大震災の経済的影響 ~ニッポンの選択 最終回~」(「週刊東洋経済」2011年6月4日号)
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