宮城県石巻市釜地区では、汚泥の中で1円玉と10円玉が一塊になって固まっている。1円玉も10円玉も、表面に白い物質が付着し、ボロボロになってお互いにくっついている。
石巻市の沿岸部には、製紙会社や化学、製鉄、水産加工の工場が集まっていた。内陸には町工場もあった。工場の薬品倉庫は、津波で屋根と柱だけになって、中にあったはずの薬品は影も形もない。
これら工場には、発ガン性物質のカドミウムやヒ素など、有害化学物質が製造に使われていた。致死量0.3グラムのシアン化合物は、小さな町のめっき工場でも使われている。いずれも法律で厳しい保管義務が課せられているが、津波被害で名自我どれだけ流出したか、住民に広報できている企業はまだ少ない。
被災地の道路端のあちこちに、何らかの化学物質が入っていると目される袋や「危険物」の表示が貼ってあるドラム缶が転がっている。農薬系と推定される硫化水素臭のするヘドロも数多くある。
被災地の自治体は、十分に対応できていない。被災による人手不足に加えて、専門家も分析装置も足りないからだ。
サンプルをとる人手はない。津波の汚泥を調査したことはない。どこが怪しいのか、見分けることも調査の方法も分からない。【気仙沼市の担当者】
多くの薬品は、目立つ色や形状はない。分析装置を使わなければ分からない。分析措置は、物質の種類や分析方法によって違う。微量でも危険なものが多く、測る場所を誤ると見つけ損なう。
宮城県内の大半の検査機関は震災で分析装置が壊れ、分析は県外の機関に委ねるしかない。【宮城県の担当者】
比較的対応が進んでいる仙台市では、まだ基準以上の有害物質は見つかっていない。
それは、昔から沿岸部に工場が少なかったからだ。【早坂昇・環境対策課長】
肝心の国の調査は、環境省がやっと6月末までに有害物質による環境汚染の実態調査を終える予定だ。
廃棄物資源循環学会は、震災から7日後にはタスクチームを組んで現地調査を始めた。しかし、結果はまだまとまっていない。
有機塩素系の値が高いところがみつかっている。これは規制される前に使われていた有害な農薬が海に流れこんで海底に蓄積していたものが、津波で運びこまれたものらしい。今回の被災地のがれきは、阪神・淡路のがれきとはまったく違う。がれきに付着した汚泥を調べてからでないと、適切な処理はできない。【吉岡敏明・東北大学大学院教授】
情報が不足するなかで、NPO法人「Tウオッチ(有害化学物質削減ネットワーク)」は、被災地にあった工場がそれぞれどんな有害化学物質を扱っていたか、一覧表をホームページで公開している。
各工場が保管していた量までは分からないが、津波の被害で、工場から有害物質が広く拡散した可能性がある。二次災害を防ぐためにも、環境汚染の危険性を認識してほしい。【寺田良一・明治大学教授/Tウオッチ理事】
同ホームページによれば、岩手、宮城、福島の各県の被災地には、カドミウムや六値クロムを扱い、ダイオキシンを排出した工場や廃液処理場などがそれぞれ33~43ヵ所ある。
顔料や電池の製造に使われるカドミウムには、腎臓障害を引き起こしたり、発ガン性がある。
クロムめっきに使われる六値クロムには、急性皮膚炎を引き起こしたり、発ガン性がある。
さまざまな薬品の製造過程で発生するダイオキシンは、奇形や生殖異常を引き起したり、発ガン性がある。
企業は、工場から流れ出した有害物質を公表すべきだ。住宅地などに流出したPCBやダイオキシンによる土壌汚染は、万全の対策が必要だ。津波が引くとき、有害物質が海に引きこまれた可能性があり、懸念される。【中地重晴・熊本学園大学教授/Tウオッチ代表】
化学物質が流出したのは、工場だけではない。汚水を沈殿濾過する下水工場からも流れ出した。下水工場には、ふだんから雑菌を含む汚泥が堆積している。そんな汚泥が市街地に流出すれば、破傷風などの感染症が広がる恐れがある。
気仙沼市など、三陸沿岸では、津波で打ち上げられた船舶が新たな脅威となりうる。最近の大型船には、船体にカーボン素材を使っているものがある。これが壊れたり、撤去のため解体するときに特殊な炭素繊維が飛散して、アスベストのように肺に入りこんで突き刺さり、肺ガンなどを誘発する危険性もありうる。
避難所の高齢者などに流行している呼吸器疾患に、汚泥が乾いて空中に浮遊した有害物質が関与しているのではないか、という疑いも出ている。浮遊する微粒子による呼吸器疾患や微粒子に細菌が付着して肺炎を起こす可能性もある。
気仙沼市で起きた住宅街の大規模火災で、住宅や工場、倉庫群にあった物質が燃えて、ダイオキシンが大量発生した可能性がある。
大火災の残渣にどんな物質が含まれるか、調査が必要だ。【瀧上英上・独立行政法人国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター室長】
農薬の中には、毒性の強いものがある。これが住宅街に流出する危険性もある。
毒性の強い農薬やシロアリ駆除剤などが心配だ。その上、被災地に散布する消毒剤、殺虫剤があり、特にクレゾールは発ガン性や急性中毒症を起こすおそれがある。【辻万千子・反農薬東京グループ代表】
以上、井上雅義「これが化学汚染の実態だ ボロボロの硬貨 微量でも危険 飲むと激しい嘔吐 追いつかない検査体制」(「週刊朝日」2011年6月24日号)に拠る。
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石巻市の沿岸部には、製紙会社や化学、製鉄、水産加工の工場が集まっていた。内陸には町工場もあった。工場の薬品倉庫は、津波で屋根と柱だけになって、中にあったはずの薬品は影も形もない。
これら工場には、発ガン性物質のカドミウムやヒ素など、有害化学物質が製造に使われていた。致死量0.3グラムのシアン化合物は、小さな町のめっき工場でも使われている。いずれも法律で厳しい保管義務が課せられているが、津波被害で名自我どれだけ流出したか、住民に広報できている企業はまだ少ない。
被災地の道路端のあちこちに、何らかの化学物質が入っていると目される袋や「危険物」の表示が貼ってあるドラム缶が転がっている。農薬系と推定される硫化水素臭のするヘドロも数多くある。
被災地の自治体は、十分に対応できていない。被災による人手不足に加えて、専門家も分析装置も足りないからだ。
サンプルをとる人手はない。津波の汚泥を調査したことはない。どこが怪しいのか、見分けることも調査の方法も分からない。【気仙沼市の担当者】
多くの薬品は、目立つ色や形状はない。分析装置を使わなければ分からない。分析措置は、物質の種類や分析方法によって違う。微量でも危険なものが多く、測る場所を誤ると見つけ損なう。
宮城県内の大半の検査機関は震災で分析装置が壊れ、分析は県外の機関に委ねるしかない。【宮城県の担当者】
比較的対応が進んでいる仙台市では、まだ基準以上の有害物質は見つかっていない。
それは、昔から沿岸部に工場が少なかったからだ。【早坂昇・環境対策課長】
肝心の国の調査は、環境省がやっと6月末までに有害物質による環境汚染の実態調査を終える予定だ。
廃棄物資源循環学会は、震災から7日後にはタスクチームを組んで現地調査を始めた。しかし、結果はまだまとまっていない。
有機塩素系の値が高いところがみつかっている。これは規制される前に使われていた有害な農薬が海に流れこんで海底に蓄積していたものが、津波で運びこまれたものらしい。今回の被災地のがれきは、阪神・淡路のがれきとはまったく違う。がれきに付着した汚泥を調べてからでないと、適切な処理はできない。【吉岡敏明・東北大学大学院教授】
情報が不足するなかで、NPO法人「Tウオッチ(有害化学物質削減ネットワーク)」は、被災地にあった工場がそれぞれどんな有害化学物質を扱っていたか、一覧表をホームページで公開している。
各工場が保管していた量までは分からないが、津波の被害で、工場から有害物質が広く拡散した可能性がある。二次災害を防ぐためにも、環境汚染の危険性を認識してほしい。【寺田良一・明治大学教授/Tウオッチ理事】
同ホームページによれば、岩手、宮城、福島の各県の被災地には、カドミウムや六値クロムを扱い、ダイオキシンを排出した工場や廃液処理場などがそれぞれ33~43ヵ所ある。
顔料や電池の製造に使われるカドミウムには、腎臓障害を引き起こしたり、発ガン性がある。
クロムめっきに使われる六値クロムには、急性皮膚炎を引き起こしたり、発ガン性がある。
さまざまな薬品の製造過程で発生するダイオキシンは、奇形や生殖異常を引き起したり、発ガン性がある。
企業は、工場から流れ出した有害物質を公表すべきだ。住宅地などに流出したPCBやダイオキシンによる土壌汚染は、万全の対策が必要だ。津波が引くとき、有害物質が海に引きこまれた可能性があり、懸念される。【中地重晴・熊本学園大学教授/Tウオッチ代表】
化学物質が流出したのは、工場だけではない。汚水を沈殿濾過する下水工場からも流れ出した。下水工場には、ふだんから雑菌を含む汚泥が堆積している。そんな汚泥が市街地に流出すれば、破傷風などの感染症が広がる恐れがある。
気仙沼市など、三陸沿岸では、津波で打ち上げられた船舶が新たな脅威となりうる。最近の大型船には、船体にカーボン素材を使っているものがある。これが壊れたり、撤去のため解体するときに特殊な炭素繊維が飛散して、アスベストのように肺に入りこんで突き刺さり、肺ガンなどを誘発する危険性もありうる。
避難所の高齢者などに流行している呼吸器疾患に、汚泥が乾いて空中に浮遊した有害物質が関与しているのではないか、という疑いも出ている。浮遊する微粒子による呼吸器疾患や微粒子に細菌が付着して肺炎を起こす可能性もある。
気仙沼市で起きた住宅街の大規模火災で、住宅や工場、倉庫群にあった物質が燃えて、ダイオキシンが大量発生した可能性がある。
大火災の残渣にどんな物質が含まれるか、調査が必要だ。【瀧上英上・独立行政法人国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター室長】
農薬の中には、毒性の強いものがある。これが住宅街に流出する危険性もある。
毒性の強い農薬やシロアリ駆除剤などが心配だ。その上、被災地に散布する消毒剤、殺虫剤があり、特にクレゾールは発ガン性や急性中毒症を起こすおそれがある。【辻万千子・反農薬東京グループ代表】
以上、井上雅義「これが化学汚染の実態だ ボロボロの硬貨 微量でも危険 飲むと激しい嘔吐 追いつかない検査体制」(「週刊朝日」2011年6月24日号)に拠る。
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