語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>高濃度汚染水は地下水になった ~飲料水は大丈夫か~

2011年06月16日 | 震災・原発事故
 福島第一原発の収束作業が、膨大な汚染水のため混迷をきわめている。原子炉冷却のために毎日注がれてきた水は、敷地内に溜まって、すでに10万トン。工程表の実現が疑問視される理由の一つだ。異様なことに、この汚染水の詳細について、ろくに情報が明かされていない。
 情報開示を求めても、政府は応じない。サンプル提供も断られている。【太田富久・金沢大学大学院教授】
 しかも、この汚染水が一部漏出している。
 消えた水は、例えば3号機では少なくとも4,270トン。これは海だけではなく、地下水に出た可能性が十分にある。しかも、津波でどさっと入った水が汚染されて漏れでた分もある。漏出した汚染水は、全体で数千トン単位、最悪で1万トンを超えている可能性もある。国会で質問したが、政府からは具体的な答はなかった。隠蔽以前に、政府は消えた汚染水の量すらきちんと把握していないらしい。これが一番の問題だ。【浅尾慶一郎・衆議院議員】

 損壊した原子炉の中の放射線量は、想像を絶するほと高くなっている。注水の汚染度も尋常ではない。核燃料再処理工場で扱う高レベル放射性廃液並みでもおかしくない。【青山繁晴・独立総合研究所社長】
 すでに1~3号機でメルトスルーが起こったことが判明している。実際には、さらに格納容器や建屋の床に溶けた部分があって、そこから高濃度汚染水が地中に吸い込まれていることが考えられる。他の号機では、原子炉建屋とタービン建屋の地下1階を結ぶ配管の周辺や、屋外のトレンチの亀裂から漏れているのではないか。【桜井淳・技術評論家】

 東電をはじめとする原発関係者は、「水」の重要性について認識が不足していた。原発で水を受けもつ業者を格下扱いをして、水の扱い方を勉強してこなかった。
 だから、今回のような大事故が起こると、汚染も排水も考えずに「とにかくぶっかけろ」となる。汚染水が大量に溜まって、初めて大慌てしている。【早川哲夫・麻布大学生命・環境科学部教授】
 汚染水に含まれる放射性物質のうち、セシウム、ストロンチウムが危険だ。プルトニウムが最も危険だ。原発の敷地の内外でプルトニウムが検出されている。汚染水にもプルトニウムが含まれているのは間違いない。プルトニウムは重い元素なので、大気中では遠くへ飛散する量は少ない。しかし、地下水の中では関係ない。

 地下水は、やがて海と川へ流れこむ。川から上水道が引かれているので、水道水が高濃度放射性物質に汚染される可能性がある。すでに継続的に水道水をモニタリングしている所もあるが、もっと細かく厳密に警戒する体制づくりが必要だ。【太田教授】
 地下水から直接汲み上げる井戸水も要注意だ。飲料水にしている家庭もあるし、生活用水や農業用水として使っているケースも少なくない。だから、特に浅い水を使っている井戸水は、検査が急がれる。汚染していない、という結果が出ても、長期にわたり定期的に検査しなくてはならない。相当の手間とコストがかかる。
 地下深く流れている水の場合、非常に長く汚染の影響が続く可能性がある。地下1,000mの水を調べたら、江戸時代に降った雨水だったことがある。数百年後、深いところから汲み上げた井戸水に福島第一原発から今漏れている放射性物質が混じっている、というような事態も生じ得る。【伊藤伸彦・北里大学教授】

 福島第一原発は、氷河期に形成された5mほどの堆積層の上に建設されている。その下には、水を通しにくい粘土層がある。漏出した水の大半は、スポンジのような堆積層にしみこんで地下水となり、ごく少量が下部の粘土層にしみこむ。そして、地勢の傾きに沿って、海に少しずつ流れていく。堆積層で地下水に混じった汚染水がすべて海に流れるのに5~10年かかる。粘土層にしみこんだ水は数百年だ。【丸井敦尚・産業技術総合研究所地下水研究グループ】
 汚染水が地下水になるには、まったく別のルートもある。大気中に拡散した放射性物質が地表に落ち、雨水と共に地中にしみこんで地下水に混じるのだ。そして、地下水の流れに乗って、内陸部で濃縮ないし拡散していく。
 福島県の地下水環境は、原発から30km前後より遠くの場所では地下水が原発の反対方向へ流れていく。特に、盆地にあるいわき市や郡山市などに地下水が集まっていく。この両市の周辺では、汚染されにくい深い井戸を整備し、水供給システムを強化する中長期的な対策をとる必要がある。【丸井氏】

 原発からの水漏れは一刻も早く止めなければならない。が、今はまだその手段がない。
 それどころか、梅雨になると汚染水はさらに増え、地下に漏れる分が増加するだけでなく、6月下旬には敷地内に溢れてしまう危険もある。

 以上、記事「飲料水は大丈夫なのか 高濃度汚染水は地下水になった」(「週刊現代」2011年6月25日号)に拠る。
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【読書余滴】なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか(その2) ~心理学と介護~

2011年06月16日 | 心理


 その1は、こちら
 さて、重症の記憶障害になった人は、ごく短期間に、あるいは長期にわたって、知的資本の大部分を失う。神経損傷、酸素欠乏、感染症、アルツハイマー症、コルサコフ症候群・・・・原因は何であれ、身につけたり覚えたりしたことや、苦心の鍛錬の末にものしたことの、ほとんどが消えてしまう。
 テオデュル・リボーの古典的な学説によれば、いちばん最近の記憶が真っ先に消え、いちばん古い記憶が最後に消える。ただし、このプロセスを単純化しすぎてはならない、と彼は警告している。古い記憶は、繰り返し頻繁に思い出されるために他の記憶とより密接に関連づけられ、そこに強い連携的結合が生まれる、というのがリボーの説だ。

 健忘症の経過に関する最近の説においても、古い記憶が比較的傷つきにくいことの説明には、結合が強いからだ、という仮設がいまだに重視されている。
 古い記憶は脳の中でも侵されにくい部分にたくわえられている、とも提唱されている。怪我をする直前の出来事の記憶が欠落するのは、その外傷が記憶痕跡の定着にかかわる化学的プロセスを妨げてしまったことを示す、とされる。

 逆行性健忘ではなく、忍び足の侵入のような記憶障害においては、ときに、外見上は普通の生活を送るのに十分なものが残っていることもある。慣例、反復、そして決まったパターンで反応するだけですむような環境は、多くの場合、自力ではほとんど生き延びられない記憶を長時間にわたって支え続ける。

【参考】ダウエ・ドラーイスマ(鈴木晶訳)『なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか -記憶と時間の心理学-』(講談社、2009)

   *

 「親父はいつの間にか、ファスナーの使い方を忘れているらしい。ズボンは全部前を開けたまま、リハビリパンツ(という名の紙オムツ)が丸見え。そんなコーディネートで裾を引きずりながら歩く。年取ると身体も縮んでくるので、前に履いていたズボンはブカブカでサイズが合わない。ただでさえ転びやすくなっているのに、カカトを踏んづけそうで危ないったらありゃしない」

 これは、慣例、反復、決まったパターンも失われた事例だ。
 心理学者なら、ここで終えてよい。診断すれば、彼/彼女の仕事は終わる。彼/彼女の仕事は、普遍的事象の認識だ。
 しかし、家族は違う。この認識は、まさに出発点だ。そこから家族の仕事は始まる。

 「いろいろなところを探してみたが、メンズのSサイズというのはほとんどないし、ズボンにはすべてファスナーやらボタンやらが付いている」

 そりゃ、そうだ。ファスナーやらボタンやらが付いてなければ、彼はトイレに行けない。
 だが、この書き手はへこたれない。

 「そこで考えた。『何も男ものにこだわる必要ないじゃん』。ホラ、よくオバアちゃんが履いてるウエストがゴムのズボンあるでしょ。試しにあれを履かせてみたら、これがかなりいい。ほとんどがポリエステルなどの化繊なので、洗ってもすぐ乾く。オヤジくさい色合いが多いので、違和感もなし!」

 発想の転換である。切羽詰まるとアイデアが湧くのだ。
 ところが、問題はまだ残る。

 「しかし、問題はこれからの防寒着だ。デイサービスに行くときなど外出時に、ユニクロのダウンは軽くて暖かいのでピッタリなのだが、すべてファスナーで着脱するようになっており前が閉められない。風邪でもひかれたら大変だ。身体&脳機能の衰えた人向けの服って、どうしてこんなに少ないんだろ。シルバーショップなどにあることはあるが、極端にモノが少ない。おまけに高い! こういうものこそ、税金かけないで安くするべきだろ(怒)。あ?あ、いっそのこと冬のトップスも女ものにするかな」

 身体が機能低下した人向けのファッションは、車いす利用者向けのものをはじめ、ぼつぼつ開発されている。
 しかし、脳機能の衰えた人向けのファッションは、あるかもしれないが、寡聞にして知らない。
 我が国の認知症患者は、2010年で226万人。今後うなぎ上りに増え、2035年には337万人に達すると推計されている【注】。企業が参入すれば、成長間違いなし、の分野ではあるまいか。

 【注】我が国の認知症患者数の推移および将来推計(認知症・アルツハイマー病を理解する 原因・症状・診断・治療・介護など)

 以上、引用は「オバアちゃん服のススメ」(フンコロガシの詩)に拠る。
 ブログ「フンコロガシの詩」には、記憶力が低下した高齢者の意表外な行動と、それに対応する家族のてんやわんやが綴られている。問題は深刻なのだが、このブロガーの語り口は陽気だ。上記のように、ちっともへこたれない。
 かつて大岡昇平は、もはや殲滅されるしかない未來が待ち受けている兵士たちが「墓掘り人夫のように陽気だった」と書いた。人は、どうしようもない事態に否応なく直面すると、開きなおることができるらしい。誰もがそうだ、というわけではないけれども。
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