(1)福島第一原発の高レベル放射能汚染水
福島第一原発で始まった高レベル放射能汚染水の処理開始と前後して、新たな課題が浮上している。
高濃度放射性廃棄物を最終的にどこに保存するのか?
新設の浄化処理施設で触媒として使われる塩化鉄やゼオライト(多孔質鉱物)は、放射能汚染水を純度の高い水へ浄化する代わりに、それ自体が「死の泥」になってしまう。
タービン建屋などにたまった汚染水には、3月の原発事故で大気中に放出された全体量に匹敵する量の放射性物質が溶けこんでいる、と目される。この汚染水から油分を分離した後、セシウム吸着装置、除染装置を使って二重に放射性物質を除去し、最後に除塩する。その結果生じる汚泥は、年末までに2,000立方メートルに及ぶ。
汚泥は、1立方センチあたり1億ベクレルの高レベル放射性物質だ。セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどを含む、と見られる。
汚泥は、六ケ所村の再処理工場で出てくる廃液をガラス固化したものに相当する高レベルの放射性廃棄物になる。そのレベルになると、公式には300mより深い地層に廃棄することになっている。【榎田洋一・名古屋大学大学院教授】
掘削場所を提供する自治体を見つけるのは大ごとだ。だから、東電も政府も、汚泥の最終的な落ち着き場所を明らかにしていない。
汚染水を処理しても放射性物質はなくならない。アンタチャブルな物質が増えるだけだ。汚染のスパイラルが始まっている。
(2)汚泥処理施設の焼却灰
下水に集まった放射性物質が、汚泥処理の工程で再び大気中に放出され、二次汚染を起こしている可能性がある。【山内知也・神戸大学教授】
この警鐘は、東京都の汚泥処理施設「東部スラッジプラント」周辺で高い放射線量が検出されたことなどによって傍証される。
4年前に始まった汚泥の海洋投棄全面禁止が、問題を複雑する。汚泥は、プラントに運ばれて全量が焼却されるようになり、焼却灰はセメント原料や肥料としてリサイクルする仕組みができあがっていた。ところが、二次被曝をおそれて引き取りを拒否された焼却灰が行き場をなくし、処理場の保管庫を埋め尽くす事態を引き起こした。
下水道法も水質汚濁防止法も、放射能汚染を想定していない。縦割り行政(下水道は国交省、埋め立ては環境省、処理場労働者の安全は厚労省)の弊害もあいまって、効果的な施策は打ち出されていない。
6月16日、ようやく汚泥処理法に係る新基準が示された。しかし、焼却の際に再び大気に放出されている可能性、すでにセメント原料などとして出荷されてしまったものがある可能性、が問題として残る。
80年代、台湾は台北市で、放射性物質コバルト60に汚染された鉄筋を使用した建築物が約180棟完成し、15,000人以上が影響を受けた、とされる。10年以上経過後、検査を受けた住民73人の2割に白血球の染色体異常が見られた。
(3)除染
被曝で恐ろしいのは、地面からの放射線だ。
子どものためにも、一日も早く校庭の表面を削ったほうがよい。セシウムは、雨が降るたびに深く浸透する。今なら低コストで可能な地表の土の削剥も、半年後、1年後になると莫大な費用がかかる。農耕地の除染はかなり難しい。菜の花、ひまわり、エリンギの有効性は、多少はある、という程度だ【榎田教授】
放射性物質をどう取り除くか。
ゼオライトは、珪素とアルミニウムが酸素で結合した多孔質構造の鉱物だ。山肌から採れる天然モノと人工モノがある。
人工ゼオライトは、石炭灰や製紙汚泥などを主原料に、アルカリで処理することで合成する。磁石のように周りのものを引き寄せるから、汚染水処理にはうってつけだ。汚染水処理のみならず、放射能に汚染された瓦礫の撤去、塩害の土壌改良にも役立てられる。【逸見彰男・愛媛大学教授(人工ゼオライトの開発者)】
人工ゼオライトをつくる最大のプラントは、石炭火力としては世界最大級の中部電力碧南火力発電所だ。同社は、原発事故後、東電に10トンの人工ゼオライトを提供した。火力発電所は、脱硫、脱硝の技術はほぼ完成し、二酸化炭素の処理技術も完成間近とされる。
しかし、こうした環境技術の力強い支援があっても、最終処理場の問題は依然として残る。
以上、藤生明(編集部)「汚染スパイラルは止まらない」(「AERA」2011年6月27日号)に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓


福島第一原発で始まった高レベル放射能汚染水の処理開始と前後して、新たな課題が浮上している。
高濃度放射性廃棄物を最終的にどこに保存するのか?
新設の浄化処理施設で触媒として使われる塩化鉄やゼオライト(多孔質鉱物)は、放射能汚染水を純度の高い水へ浄化する代わりに、それ自体が「死の泥」になってしまう。
タービン建屋などにたまった汚染水には、3月の原発事故で大気中に放出された全体量に匹敵する量の放射性物質が溶けこんでいる、と目される。この汚染水から油分を分離した後、セシウム吸着装置、除染装置を使って二重に放射性物質を除去し、最後に除塩する。その結果生じる汚泥は、年末までに2,000立方メートルに及ぶ。
汚泥は、1立方センチあたり1億ベクレルの高レベル放射性物質だ。セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどを含む、と見られる。
汚泥は、六ケ所村の再処理工場で出てくる廃液をガラス固化したものに相当する高レベルの放射性廃棄物になる。そのレベルになると、公式には300mより深い地層に廃棄することになっている。【榎田洋一・名古屋大学大学院教授】
掘削場所を提供する自治体を見つけるのは大ごとだ。だから、東電も政府も、汚泥の最終的な落ち着き場所を明らかにしていない。
汚染水を処理しても放射性物質はなくならない。アンタチャブルな物質が増えるだけだ。汚染のスパイラルが始まっている。
(2)汚泥処理施設の焼却灰
下水に集まった放射性物質が、汚泥処理の工程で再び大気中に放出され、二次汚染を起こしている可能性がある。【山内知也・神戸大学教授】
この警鐘は、東京都の汚泥処理施設「東部スラッジプラント」周辺で高い放射線量が検出されたことなどによって傍証される。
4年前に始まった汚泥の海洋投棄全面禁止が、問題を複雑する。汚泥は、プラントに運ばれて全量が焼却されるようになり、焼却灰はセメント原料や肥料としてリサイクルする仕組みができあがっていた。ところが、二次被曝をおそれて引き取りを拒否された焼却灰が行き場をなくし、処理場の保管庫を埋め尽くす事態を引き起こした。
下水道法も水質汚濁防止法も、放射能汚染を想定していない。縦割り行政(下水道は国交省、埋め立ては環境省、処理場労働者の安全は厚労省)の弊害もあいまって、効果的な施策は打ち出されていない。
6月16日、ようやく汚泥処理法に係る新基準が示された。しかし、焼却の際に再び大気に放出されている可能性、すでにセメント原料などとして出荷されてしまったものがある可能性、が問題として残る。
80年代、台湾は台北市で、放射性物質コバルト60に汚染された鉄筋を使用した建築物が約180棟完成し、15,000人以上が影響を受けた、とされる。10年以上経過後、検査を受けた住民73人の2割に白血球の染色体異常が見られた。
(3)除染
被曝で恐ろしいのは、地面からの放射線だ。
子どものためにも、一日も早く校庭の表面を削ったほうがよい。セシウムは、雨が降るたびに深く浸透する。今なら低コストで可能な地表の土の削剥も、半年後、1年後になると莫大な費用がかかる。農耕地の除染はかなり難しい。菜の花、ひまわり、エリンギの有効性は、多少はある、という程度だ【榎田教授】
放射性物質をどう取り除くか。
ゼオライトは、珪素とアルミニウムが酸素で結合した多孔質構造の鉱物だ。山肌から採れる天然モノと人工モノがある。
人工ゼオライトは、石炭灰や製紙汚泥などを主原料に、アルカリで処理することで合成する。磁石のように周りのものを引き寄せるから、汚染水処理にはうってつけだ。汚染水処理のみならず、放射能に汚染された瓦礫の撤去、塩害の土壌改良にも役立てられる。【逸見彰男・愛媛大学教授(人工ゼオライトの開発者)】
人工ゼオライトをつくる最大のプラントは、石炭火力としては世界最大級の中部電力碧南火力発電所だ。同社は、原発事故後、東電に10トンの人工ゼオライトを提供した。火力発電所は、脱硫、脱硝の技術はほぼ完成し、二酸化炭素の処理技術も完成間近とされる。
しかし、こうした環境技術の力強い支援があっても、最終処理場の問題は依然として残る。
以上、藤生明(編集部)「汚染スパイラルは止まらない」(「AERA」2011年6月27日号)に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓



