(1)復興経費と社会保障経費の違い
(a)復興経費と(b)社会保障経費は、次の2点で対照的な性格をもつ。
第一、(a)は1回限りの(一定期間に限定された)経費だ。他方、(b)は、永続的な性格をもつ。
第二、(a)は他の経費と切り離し独立して考えることができる。他方、(b)は他の経費と密接に関係し、財政全体の中でとらえる必要がある。
このような性格の違いに応じて、適切な財源を選択する必要がある。
(a)を賄う財源は、臨時的・一時的なものが望ましい。区分経理が可能なため、目的税的性格を付与しやすい。
(b)を賄う経費は、恒常的なものでなければならない。区分経理が不可能なため、目的税になじまない。
(甲)「復興構想会議」の第一次提言の骨子案、(乙)「税と社会保障の一体改革の集中検討会議」の改革原案、(丙)その他のさまざまな議論・・・・の多くは、対象経費の経済的・会計的な性格を十分に考慮していない。その結果、不適切な財源を提案している。
ここでは、消費税などの基幹税の一時的増税によって(a)を賄おうとすると、大きな問題が発生することを指摘する。
(2)消費税
消費税を一時的に増税すると、増税期間中に不当に重い負担が発生する場合がある。これは、経済活動に大きな歪みと混乱をもたらす。
この問題は、特に住宅について顕著に発生する。自動車、高額の家具や家電製品などの耐久消費財についても発生する。エコカー購入支援とエコポイントによって自動車と家電の購入が急増したが、それとまったく逆の現象が起こる。
この問題に対処するには、増税期間終了後に消費税の一部を還付する必要があるが、その手続きは煩瑣なものになるだろう。
(1)-(甲)の、(1)-(a)の財源として消費税を一時的に増税する案は、消費税のこうした側面をまったく無視した「暴論」だ。なお、消費税は課税地点を限定化することも技術的に困難なので、被災地にも一律に課税しなければならない、という問題もある。
この点、(1)-(乙)の改革原案も同じ誤りを犯している。消費税率を段階的に5%→10%→15%に引き上げるというが、臨時増税の場合と類似の問題が発生する。そもそも、社会保障のための財源手当が必要であるのに、なぜ一挙に引き上げないのか。段階的引き上げには、経済的に合理的な理由がない。
(3)所得税・法人税
(2)と類似の問題がある。
<例1>譲渡益課税・・・・資産保有期間中に蓄積されてきた資産価値の増加を売却時にまとめて課税するものだ。だから、たまたま臨時増税時に売却益が実現すつと、不当に高い負担が生じる。これを避けるため、人々は増税期間中は資産売却を控えるだろう。
<例2>退職金課税・・・・たまたま臨時増税期間中に所得が実現すると、不当に重く課税される。
<例1>も<例2>も、課税の標準化措置がとられるため通常の所得より軽課されるが、所得が実現した年に課税される点に変わりはない。
所得税・法人税の一時増税は、回避することは不可能ではない。特に法人利益については、発生時点をさまざまな方法でずらすことができる。こうした対策は一部の納税者しか利用できない、という点で不公平なものだ。
時限減税は、通常の減税より大きな経済的効果をもつ。<例3>投資促進のための税額控除・・・・時限的な政策の場合のほうが効果が大きい。時限増税は、これとちょうど反対のことをもたらす。
もともと所得税・法人税・消費税などの基幹税は、時間的に大きく変動しない安定的な課税が予定されている。平均課税などの課税平準化が取られているのも、そのためだ。臨時的な負担増を求めるのは、基幹税のこうした基本的性格に反する。
(4)復興税の財源として選択すべきもの
(2)や(3)の問題を惹起しないものを選択すべきだ。
<例>電気料金に対する課税・・・・電気は蓄積できないので、住宅や耐久消費財の場合のような消費と課税時点の食い違いは生じない。また、電力消費を抑制する効果もある。さらに、使途を再生可能エネルギー開発への補助や原発事故関連支出などに限定することで社会的な賛同を得やすいだろう。こうした区分経理は技術的に可能だ。
(1)-(a)の財源として、いま一つ重要なものは、資産の取り崩し、とりわけ対外資産の取り崩しだ。
【参考】野口悠紀雄「消費税の臨時増税は不公平で経済を攪乱 ~「超」整理日記No.567~」(「週刊ダイヤモンド」2011年7月2日号)
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(a)復興経費と(b)社会保障経費は、次の2点で対照的な性格をもつ。
第一、(a)は1回限りの(一定期間に限定された)経費だ。他方、(b)は、永続的な性格をもつ。
第二、(a)は他の経費と切り離し独立して考えることができる。他方、(b)は他の経費と密接に関係し、財政全体の中でとらえる必要がある。
このような性格の違いに応じて、適切な財源を選択する必要がある。
(a)を賄う財源は、臨時的・一時的なものが望ましい。区分経理が可能なため、目的税的性格を付与しやすい。
(b)を賄う経費は、恒常的なものでなければならない。区分経理が不可能なため、目的税になじまない。
(甲)「復興構想会議」の第一次提言の骨子案、(乙)「税と社会保障の一体改革の集中検討会議」の改革原案、(丙)その他のさまざまな議論・・・・の多くは、対象経費の経済的・会計的な性格を十分に考慮していない。その結果、不適切な財源を提案している。
ここでは、消費税などの基幹税の一時的増税によって(a)を賄おうとすると、大きな問題が発生することを指摘する。
(2)消費税
消費税を一時的に増税すると、増税期間中に不当に重い負担が発生する場合がある。これは、経済活動に大きな歪みと混乱をもたらす。
この問題は、特に住宅について顕著に発生する。自動車、高額の家具や家電製品などの耐久消費財についても発生する。エコカー購入支援とエコポイントによって自動車と家電の購入が急増したが、それとまったく逆の現象が起こる。
この問題に対処するには、増税期間終了後に消費税の一部を還付する必要があるが、その手続きは煩瑣なものになるだろう。
(1)-(甲)の、(1)-(a)の財源として消費税を一時的に増税する案は、消費税のこうした側面をまったく無視した「暴論」だ。なお、消費税は課税地点を限定化することも技術的に困難なので、被災地にも一律に課税しなければならない、という問題もある。
この点、(1)-(乙)の改革原案も同じ誤りを犯している。消費税率を段階的に5%→10%→15%に引き上げるというが、臨時増税の場合と類似の問題が発生する。そもそも、社会保障のための財源手当が必要であるのに、なぜ一挙に引き上げないのか。段階的引き上げには、経済的に合理的な理由がない。
(3)所得税・法人税
(2)と類似の問題がある。
<例1>譲渡益課税・・・・資産保有期間中に蓄積されてきた資産価値の増加を売却時にまとめて課税するものだ。だから、たまたま臨時増税時に売却益が実現すつと、不当に高い負担が生じる。これを避けるため、人々は増税期間中は資産売却を控えるだろう。
<例2>退職金課税・・・・たまたま臨時増税期間中に所得が実現すると、不当に重く課税される。
<例1>も<例2>も、課税の標準化措置がとられるため通常の所得より軽課されるが、所得が実現した年に課税される点に変わりはない。
所得税・法人税の一時増税は、回避することは不可能ではない。特に法人利益については、発生時点をさまざまな方法でずらすことができる。こうした対策は一部の納税者しか利用できない、という点で不公平なものだ。
時限減税は、通常の減税より大きな経済的効果をもつ。<例3>投資促進のための税額控除・・・・時限的な政策の場合のほうが効果が大きい。時限増税は、これとちょうど反対のことをもたらす。
もともと所得税・法人税・消費税などの基幹税は、時間的に大きく変動しない安定的な課税が予定されている。平均課税などの課税平準化が取られているのも、そのためだ。臨時的な負担増を求めるのは、基幹税のこうした基本的性格に反する。
(4)復興税の財源として選択すべきもの
(2)や(3)の問題を惹起しないものを選択すべきだ。
<例>電気料金に対する課税・・・・電気は蓄積できないので、住宅や耐久消費財の場合のような消費と課税時点の食い違いは生じない。また、電力消費を抑制する効果もある。さらに、使途を再生可能エネルギー開発への補助や原発事故関連支出などに限定することで社会的な賛同を得やすいだろう。こうした区分経理は技術的に可能だ。
(1)-(a)の財源として、いま一つ重要なものは、資産の取り崩し、とりわけ対外資産の取り崩しだ。
【参考】野口悠紀雄「消費税の臨時増税は不公平で経済を攪乱 ~「超」整理日記No.567~」(「週刊ダイヤモンド」2011年7月2日号)
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