語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】消費税臨時増税は不公平で経済を攪乱 ~復興経費と社会保障経費の財源~

2011年06月27日 | ●野口悠紀雄
(1)復興経費と社会保障経費の違い
 (a)復興経費と(b)社会保障経費は、次の2点で対照的な性格をもつ。
 第一、(a)は1回限りの(一定期間に限定された)経費だ。他方、(b)は、永続的な性格をもつ。
 第二、(a)は他の経費と切り離し独立して考えることができる。他方、(b)は他の経費と密接に関係し、財政全体の中でとらえる必要がある。
 このような性格の違いに応じて、適切な財源を選択する必要がある。
 (a)を賄う財源は、臨時的・一時的なものが望ましい。区分経理が可能なため、目的税的性格を付与しやすい。
 (b)を賄う経費は、恒常的なものでなければならない。区分経理が不可能なため、目的税になじまない。

 (甲)「復興構想会議」の第一次提言の骨子案、(乙)「税と社会保障の一体改革の集中検討会議」の改革原案、(丙)その他のさまざまな議論・・・・の多くは、対象経費の経済的・会計的な性格を十分に考慮していない。その結果、不適切な財源を提案している。
 ここでは、消費税などの基幹税の一時的増税によって(a)を賄おうとすると、大きな問題が発生することを指摘する。

(2)消費税
 消費税を一時的に増税すると、増税期間中に不当に重い負担が発生する場合がある。これは、経済活動に大きな歪みと混乱をもたらす。
 この問題は、特に住宅について顕著に発生する。自動車、高額の家具や家電製品などの耐久消費財についても発生する。エコカー購入支援とエコポイントによって自動車と家電の購入が急増したが、それとまったく逆の現象が起こる。
 この問題に対処するには、増税期間終了後に消費税の一部を還付する必要があるが、その手続きは煩瑣なものになるだろう。
 (1)-(甲)の、(1)-(a)の財源として消費税を一時的に増税する案は、消費税のこうした側面をまったく無視した「暴論」だ。なお、消費税は課税地点を限定化することも技術的に困難なので、被災地にも一律に課税しなければならない、という問題もある。
 この点、(1)-(乙)の改革原案も同じ誤りを犯している。消費税率を段階的に5%→10%→15%に引き上げるというが、臨時増税の場合と類似の問題が発生する。そもそも、社会保障のための財源手当が必要であるのに、なぜ一挙に引き上げないのか。段階的引き上げには、経済的に合理的な理由がない。

(3)所得税・法人税
 (2)と類似の問題がある。
 <例1>譲渡益課税・・・・資産保有期間中に蓄積されてきた資産価値の増加を売却時にまとめて課税するものだ。だから、たまたま臨時増税時に売却益が実現すつと、不当に高い負担が生じる。これを避けるため、人々は増税期間中は資産売却を控えるだろう。
 <例2>退職金課税・・・・たまたま臨時増税期間中に所得が実現すると、不当に重く課税される。
 <例1>も<例2>も、課税の標準化措置がとられるため通常の所得より軽課されるが、所得が実現した年に課税される点に変わりはない。
 所得税・法人税の一時増税は、回避することは不可能ではない。特に法人利益については、発生時点をさまざまな方法でずらすことができる。こうした対策は一部の納税者しか利用できない、という点で不公平なものだ。
 時限減税は、通常の減税より大きな経済的効果をもつ。<例3>投資促進のための税額控除・・・・時限的な政策の場合のほうが効果が大きい。時限増税は、これとちょうど反対のことをもたらす。
 もともと所得税・法人税・消費税などの基幹税は、時間的に大きく変動しない安定的な課税が予定されている。平均課税などの課税平準化が取られているのも、そのためだ。臨時的な負担増を求めるのは、基幹税のこうした基本的性格に反する。

(4)復興税の財源として選択すべきもの
 (2)や(3)の問題を惹起しないものを選択すべきだ。
 <例>電気料金に対する課税・・・・電気は蓄積できないので、住宅や耐久消費財の場合のような消費と課税時点の食い違いは生じない。また、電力消費を抑制する効果もある。さらに、使途を再生可能エネルギー開発への補助や原発事故関連支出などに限定することで社会的な賛同を得やすいだろう。こうした区分経理は技術的に可能だ。
 (1)-(a)の財源として、いま一つ重要なものは、資産の取り崩し、とりわけ対外資産の取り崩しだ。

【参考】野口悠紀雄「消費税の臨時増税は不公平で経済を攪乱 ~「超」整理日記No.567~」(「週刊ダイヤモンド」2011年7月2日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

【震災】原発>内部被曝の隠蔽 ~国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線管理基準~

2011年06月27日 | 震災・原発事故
 内部被曝は、外部被曝に比べて人体に大きな影響を与える。<例>1千万分の1グラムの放射性ヨウ素131が体内に8日間とどまった場合、1シーベルトほどの被曝線量となる。
 
 米国は、占領下日本で原爆情報を徹底的に秘匿した。原爆傷害調査委員会(ABCC、後の放射線影響研究所)が治療を一切しない非人道的な調査を進め、放射性降下物を無視した偽りの報告を行った。未熟な技術で破局を防げない商業原子炉を「平和利用」の名目で押しつけるため、内部被曝を見えないものにする必要があったのだ。原爆は破壊力がすごいが、放射線で人を後々まで苦しめることはない、という核兵器の虚像を仕立て上げる意図もあった。

 原爆による内部被曝隠しは、日本政府も協力した。「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」が57年に施行され、被爆者認定基準ができた。基準では、被曝を初期放射線だけに限定し、被曝範囲を爆心地から2km以内とし、放射性降下物による内部被曝が一切無視された。米国の核戦略を日本の法律に具現化したのだ。

 放射線影響研究所などが86年に定めた放射線量評価体系「DS86」も、この枠組みを擁護する。ヒロシマでは原爆投下の42日後、枕崎台風によって地表の放射性物質はほぼ洗い流された。そこにわずかに残った放射性降下物を測定し、「もともと、これしかなかった」という作り話のうえに評価基準を決めたのがDS86だ。

 内部被曝隠しは、米国主導で進められた国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線管理基準にも反映された。ICRPの基準から内部被曝が除外されたことは、米国の核戦略の世界支配が科学の分野も包みこんだことを示す。

 内部被曝では、体内に入った放射性の誇りの周囲で集中的に分子が切断される。ICRPでは、被曝の具体性を捨てて単純化し、臓器全体に分子切断を平均化するモデルに置き換える。これで内部被曝が見えなくさせられる。
 ICRPの基準に疑問を持たない科学者たちは、内部被曝の科学的な研究ができない。ICRPが世界中に振りまいている最大の害悪だ。

 欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、ICRPの評価基準を見直し、別の基準を打ち出した。ECRRは、第二次世界大戦後、世界で6,500万人超の人が放射線被曝によって命を奪われた、と試算する。ICRPの基準による試算では117万人だ。両者の数値の違いは、内部被曝を考慮するか否かの違いだ。
 ICRP信奉者は、ECRRのデータを無視する。科学的な議論ができず、政治に何時でも応じてしまう。

 以上、語り手:矢ヶ崎克馬・琉球大学名誉教授/聞き手:堀井正明(本誌)「ヒロシマ・ナガサキ 隠された『内部被曝』」(「週刊朝日」2011年7月1日号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン