サマータイムは、欧米を中心に70ヵ国以上で導入されている。
日本では、48年から52年にかけて、GHQの下でサマータイムが実施された。その後何度か導入が試みられたが、国民の理解が不十分、といった理由で見送られてきた。
このたび、節電策として、既に森永乳業、日本製紙グループ本社が開始。キャノン、東京都庁、宇都宮市役所が導入を表明した。
一方、「自主的に操業時間を1~2時間前倒しする効果は数十万kW減程度で、誤差の規模」だ【今中健雄・電力中央研究所・社会経済研究所主任研究員】。NECは、シミュレーションの結果大規模な節電効果はない、と見送った。
節電効果が小さいどころか、むしろ健康への悪影響が大きい・・・・という声が医療関係者からあがっている。
なお、以下、サマータイムは「ST」、サマータイムへ入る切り替え時を「ST切替時」、サマータイムを実施している期間を「ST期間」と略する。
(1)睡眠不足
米国のデータによれば、ST期間に睡眠時間が平均40分短縮する。
1時間早く起床する分、1時間早く就寝すればよいのだが、働き過ぎの日本人は残業したり仕事を持ち帰って睡眠時間を削る可能性が高い。睡眠不足は、消化器の不調やめまいなど、さまざまな病気を引き起こす恐れがある。【高橋正也・労働安全衛生総合研究所上席研究員】
実験的にSTを導入した北海道のデータによれば、「体調が悪くなった」人が「健康増進に役立った」人を上回る。悪くなったのは20代、30代に多く、若年層では朝早く起きても就寝は今まで通り標準時に合わせた行動をとっているか、仕事上そのような行動をとらざるを得ないケースが推定される。
(2)体内時計 ~朝の光~
STは、人間の体内時計を無視した施策、という意見もある。
体内時計(生体時計)は、人間の脳の奥、視交叉上核にあり、人間の1日のリズムを刻む司令塔的役割を担う。ホルモン分泌や体温調節に深く関わる、とされる。体内時計の1日は、大多数の人がおおむね24.5時間、とされる。つまり、体内時計と地球の周期には1日0.5時間のズレがある。1日ごとにリセットされないと、ズレは1週間で210分となる。
リセットするには、午前中に太陽の光を浴びる必要がある。目の網膜を通じて太陽光が視交叉上核に伝わるとズレを解消し、体内時計を24時間に戻す。人工光では同調効果は小さく、太陽光でも午後になると同調の動きはなくなる。
ST切替時、1時間時刻を早められると、その日は23時間で過ごさねばならない。これは1時間の時差ボケに相当する。たった1時間の時差ボケも、治すには1週間かかる、とされる。よって、ST切替時の直後の1週間は辛い。
(3)体内時計 ~夜の光~
夜の光は、朝の光と逆に、体内時計の周期を25時間以上に長くする。夜の光は、体内時計の働きを停止させる、という報告もある。夜の自由時間が増えたから、といって光を浴びすぎると、起床後朝の光を浴びても24時間にリセットされにくくなる。やはり時差ボケ状態になり、体調が悪化する。
夜の光は、体内時計の調節、睡眠促進、抗酸化作用をもつホルモン「メラトニン」の分泌を抑制する。コンビニの2,000ルクスの光はもとより、家庭の照明もメラトニンの分泌を抑える。
ドイツのデータによれば、ST切替時に体が慣れるまで4週間、秋に標準時に戻す時には3週間かかる。睡眠時間は、ST期間の間、平均25分短縮する。標準時には日の出時刻と連動していた睡眠リズムが、ST期間には日の出時刻と連動しない。
(4)交通事故
ST切替時の直後の1週間は、「魔の刻」だ。
カナダのデータによれば、ST切替時の直後に交通事故が増加する。英国にも類似のデータがある。
ST終了時に事故が増える、という逆の報告もある。
交通事故には眠気以外にさまざまな要因が絡むが、交通事故の少なくとも20%は眠気に起因する。STと交通事故との関連は無視できない。
(5)心血管系疾患・糖尿病・肥満・鬱・自殺・ガン
スウェーデンのデータによれば、ST切替時には心筋梗塞が増える。逆に、ST終了の直後には減少する。
体内時計は、血流の調整も行っている。ST切替時には、体内時計が乱れることで心血管系に悪影響を受ける人もいるのだ。
交通事故や心筋梗塞は急性の健康障害だが、STが継続的に取り入れられると慢性的な健康障害が引き起こされる可能性がある。
睡眠不足の慢性化は、糖尿病や肥満の危険を高める。鬱や自殺の引き金になる、という指摘もある。夜間に光を浴びすぎてメラトニンの分泌が抑制されると、不眠のみならず発ガンの危険が高まる、という報告もある。
(6)自衛策
たかが1時間。されど1時間。STが自分の職場に導入されたら、自己コントロールするしかない。
何時に寝るかを決める。そこから逆算し、仕事や入浴の時間を決める。だらだらと夜更かししない。
眠くなったら「自然の声」を謙虚に受け止めるのだ。気合いや根性で乗り越えようとするのはナンセンスだ。
「今震災では、人間が自然を制御できないことを痛感させられた。実は自分の体が最も身近な自然である。体内時計を意識しながら、夏を送りたい」
以上、菊池香(本誌)「サマータイムが蝕む体内時計」(「サンデー毎日」2011年6月19日号)に拠る。
*
子どもの体内時計の周期が通常の人(24.5時間)より大きくズレている場合、不登校の一因となる。
体内時計の維持安定は、認知症の症状を軽快させる。朝、定刻に朝の光を浴びるとよい。
↓クリック、プリーズ。↓
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日本では、48年から52年にかけて、GHQの下でサマータイムが実施された。その後何度か導入が試みられたが、国民の理解が不十分、といった理由で見送られてきた。
このたび、節電策として、既に森永乳業、日本製紙グループ本社が開始。キャノン、東京都庁、宇都宮市役所が導入を表明した。
一方、「自主的に操業時間を1~2時間前倒しする効果は数十万kW減程度で、誤差の規模」だ【今中健雄・電力中央研究所・社会経済研究所主任研究員】。NECは、シミュレーションの結果大規模な節電効果はない、と見送った。
節電効果が小さいどころか、むしろ健康への悪影響が大きい・・・・という声が医療関係者からあがっている。
なお、以下、サマータイムは「ST」、サマータイムへ入る切り替え時を「ST切替時」、サマータイムを実施している期間を「ST期間」と略する。
(1)睡眠不足
米国のデータによれば、ST期間に睡眠時間が平均40分短縮する。
1時間早く起床する分、1時間早く就寝すればよいのだが、働き過ぎの日本人は残業したり仕事を持ち帰って睡眠時間を削る可能性が高い。睡眠不足は、消化器の不調やめまいなど、さまざまな病気を引き起こす恐れがある。【高橋正也・労働安全衛生総合研究所上席研究員】
実験的にSTを導入した北海道のデータによれば、「体調が悪くなった」人が「健康増進に役立った」人を上回る。悪くなったのは20代、30代に多く、若年層では朝早く起きても就寝は今まで通り標準時に合わせた行動をとっているか、仕事上そのような行動をとらざるを得ないケースが推定される。
(2)体内時計 ~朝の光~
STは、人間の体内時計を無視した施策、という意見もある。
体内時計(生体時計)は、人間の脳の奥、視交叉上核にあり、人間の1日のリズムを刻む司令塔的役割を担う。ホルモン分泌や体温調節に深く関わる、とされる。体内時計の1日は、大多数の人がおおむね24.5時間、とされる。つまり、体内時計と地球の周期には1日0.5時間のズレがある。1日ごとにリセットされないと、ズレは1週間で210分となる。
リセットするには、午前中に太陽の光を浴びる必要がある。目の網膜を通じて太陽光が視交叉上核に伝わるとズレを解消し、体内時計を24時間に戻す。人工光では同調効果は小さく、太陽光でも午後になると同調の動きはなくなる。
ST切替時、1時間時刻を早められると、その日は23時間で過ごさねばならない。これは1時間の時差ボケに相当する。たった1時間の時差ボケも、治すには1週間かかる、とされる。よって、ST切替時の直後の1週間は辛い。
(3)体内時計 ~夜の光~
夜の光は、朝の光と逆に、体内時計の周期を25時間以上に長くする。夜の光は、体内時計の働きを停止させる、という報告もある。夜の自由時間が増えたから、といって光を浴びすぎると、起床後朝の光を浴びても24時間にリセットされにくくなる。やはり時差ボケ状態になり、体調が悪化する。
夜の光は、体内時計の調節、睡眠促進、抗酸化作用をもつホルモン「メラトニン」の分泌を抑制する。コンビニの2,000ルクスの光はもとより、家庭の照明もメラトニンの分泌を抑える。
ドイツのデータによれば、ST切替時に体が慣れるまで4週間、秋に標準時に戻す時には3週間かかる。睡眠時間は、ST期間の間、平均25分短縮する。標準時には日の出時刻と連動していた睡眠リズムが、ST期間には日の出時刻と連動しない。
(4)交通事故
ST切替時の直後の1週間は、「魔の刻」だ。
カナダのデータによれば、ST切替時の直後に交通事故が増加する。英国にも類似のデータがある。
ST終了時に事故が増える、という逆の報告もある。
交通事故には眠気以外にさまざまな要因が絡むが、交通事故の少なくとも20%は眠気に起因する。STと交通事故との関連は無視できない。
(5)心血管系疾患・糖尿病・肥満・鬱・自殺・ガン
スウェーデンのデータによれば、ST切替時には心筋梗塞が増える。逆に、ST終了の直後には減少する。
体内時計は、血流の調整も行っている。ST切替時には、体内時計が乱れることで心血管系に悪影響を受ける人もいるのだ。
交通事故や心筋梗塞は急性の健康障害だが、STが継続的に取り入れられると慢性的な健康障害が引き起こされる可能性がある。
睡眠不足の慢性化は、糖尿病や肥満の危険を高める。鬱や自殺の引き金になる、という指摘もある。夜間に光を浴びすぎてメラトニンの分泌が抑制されると、不眠のみならず発ガンの危険が高まる、という報告もある。
(6)自衛策
たかが1時間。されど1時間。STが自分の職場に導入されたら、自己コントロールするしかない。
何時に寝るかを決める。そこから逆算し、仕事や入浴の時間を決める。だらだらと夜更かししない。
眠くなったら「自然の声」を謙虚に受け止めるのだ。気合いや根性で乗り越えようとするのはナンセンスだ。
「今震災では、人間が自然を制御できないことを痛感させられた。実は自分の体が最も身近な自然である。体内時計を意識しながら、夏を送りたい」
以上、菊池香(本誌)「サマータイムが蝕む体内時計」(「サンデー毎日」2011年6月19日号)に拠る。
*
子どもの体内時計の周期が通常の人(24.5時間)より大きくズレている場合、不登校の一因となる。
体内時計の維持安定は、認知症の症状を軽快させる。朝、定刻に朝の光を浴びるとよい。
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