東電は、自民党の政治家に対する面倒見が実にいい。かつてのゼネコンのような特定の政治家にピンポイントで派手に献金、というのはないが、幅広い付き合いをしている。故・市川房枝が参議院議員に当選した直後、74年、経団連に対して自民党への政治献金の斡旋をやめるよう求めた。それを受けて、東電は同年以来、政治資金の提供をやめている。だから、自民党の政治資金団体である国民政治協会には、法人としての東電からの献金はない。しかし、勝俣恒久会長の30万円を筆頭に、幹部の個人献金として資金提供が行われている。役職ごとに献金額が決まっていて、約60人が652万円を献金している。
他方、民主党には、東電の労働組合がつくる政治団体が65万人余から平均400円ずつ集めた会費収入を原資に、上部団体の電力総連政治活動委員会に資金を拠出している。同委員会には、東電労組出身の小林正夫参議院議員に3,000万円を寄付するなど、民主党の政治家に資金を提供している。電力総連は、民主党の最大の市議基盤である連合の有力産別組織だ。
東電は、表向き企業献金はしていないことになっているものの、パーティー券購入の形で資金提供している。政治資金集めのパーティー券の購入に20万円超を払ったものは、その名前などを開示しなければならない(政治資金規正法第12条)。そこで、20万円以下の何社かに分けて、しかし実際は東電がまとめて支払う。
そんな東電にカネの無心に来ない政治家が2人いた。
一人は、小泉純一郎元首相だ【注】。
もう一人は、菅直人首相だ。
【注】ただし、次のような事実がある。小泉退任後の07年、国際公共政策研究センターというシンクタンクができた。小泉が顧問に就いた。このシンクタンクは多くの大企業からの寄付金で設立され、東電はトップランクの1億円を寄付するとともにスタッフを派遣した(「【震災】東電の電気料金は半額にできる ~左団扇の東電~」)。
以上、大鹿靖明(編集部)「菅降ろしと東電マネー」(「AERA」2011年6月20日号)に拠る。
*
(1)菅首相の「居座り」で政策論争が起こった
岡田克也幹事長ら民主党幹部に対して、菅首相は、(a)今年度第2次補正予算と(b)特例公債法の成立に加えて、(c)自然エネルギーの普及を図る全量固定価格買い取り制度の関連法案の成立を退任の条件とした。与野党の電力業界に近い議員の反対が強いこの法案成立まで続投することに菅首相がこだわれば、退任時期が大幅に遅れる可能性がある。
国政が停滞する懸念が強まっているが、菅首相が次々と政策課題を打ち出すことは悪いことばかりではない。政治の焦点が「ポスト菅」「大連立」という政局から、どの法案成立を菅首相の花道とするか、という政策論争に移ってきたからだ。
政治はこれまで政局に集中し、復興後の国家像をしっかり議論していなかった。
(2)与野党ともに「菅降ろし」後の構想なし
特に野党側は問題だ。谷垣禎一・自民党総裁は、菅首相の退陣表明後、不信任決議案提出直前の発言をコロッと翻した。「政策の合意が難しい」と。政策合意の困難さは、最初から明らかだった。谷垣は、「菅降ろし」後のことを何も考えていなかった。
谷垣ら自民党のベテランは、政治生命が残り少なくなったことで焦り、一日も早く政権に復帰したいから、民主党政権に難癖をつけてきただけだ。自民党は、首相の座を奪い返すまで、民主党政権に協力する気など全くないのだ。
しかし、民主党側は自民党ベテランの本音に鈍感だ。若手・中堅は世代交代を進めようとしているが、「ポスト菅」候補は皆、軽量な政治家ばかりだ。軽量首相では自民党に舐められるだろう。延々と難癖を付けられるだろう。
「大連立」を巡る政局は、本来民主党にとって、強硬な姿勢を崩さない公明党を取りこむ絶好の機会のはずだ。自民党との大連立を交渉しながら、公明党にも妥協を迫り、最終的に自民党を振って公明党と連立を組み、衆参の安定多数を確保するのはさほど難しくないはずだ。
それなのに、本来難しい立場のはずの自民党、公明党を悠々と構えさせてしまった。民主党も、「菅降ろし」後の戦略を持っていないから、政局への対応が後手に回るのだ。
(3)「怒り狂う側」のほうが、実は都合が悪いことがあるものだ
「菅降ろし」の過程では、鳩山前首相の菅首相に対する人格攻撃、誹謗中傷の類が目立った。「菅降ろし」は、戦略の欠如のみならず感情論に凝り固まったものだ。
政治の世界では、「怒り狂っている」側が、なにか都合の悪いことがあるものだ。例えば、昨年の「尖閣問題」では、一方的に怒り狂った中国は、実は国内の反日運動に苦しんでいたことが後に明らかになった。
菅首相は、冷静に政権延命の手を打ってきた。一方、野党や反菅勢力の異常な怒りは、菅政権が存続すると何か都合の悪いことがあるのでは、と思わせる。
(a)「親・財務省、増税路線」に対する反発。反発するのは、小沢グループや与野党の「旧政策新人類」議員だ。
(b)「脱原発路線」に対する反発。反発するのは、長期政権時代に原子力政策を推進し、東電と深い関係を築いた自民党議員だけでなく、電力総連を支持基盤の一つとし、東電と深いつながりがある民主党議員だ。実際、菅首相が浜岡原発の運転停止を要請し、これまでのエネルギー計画の白紙を表明した頃から「菅降ろし」は激しさを増した。
(c)「親米路線」に対する反発。反発するのは、「菅降ろし」に動いた小沢、鳩山、谷垣ら「親中・親露」の政治家だ。
以上、上久保誠人「菅首相「居座り」の意外な効果!? 与野党は今こそ“政局より政策”へ ~上久保誠人のクリティカル・アナリティクス 【第12回】 2011年6月22日」(DIAMOND online)に拠る。
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他方、民主党には、東電の労働組合がつくる政治団体が65万人余から平均400円ずつ集めた会費収入を原資に、上部団体の電力総連政治活動委員会に資金を拠出している。同委員会には、東電労組出身の小林正夫参議院議員に3,000万円を寄付するなど、民主党の政治家に資金を提供している。電力総連は、民主党の最大の市議基盤である連合の有力産別組織だ。
東電は、表向き企業献金はしていないことになっているものの、パーティー券購入の形で資金提供している。政治資金集めのパーティー券の購入に20万円超を払ったものは、その名前などを開示しなければならない(政治資金規正法第12条)。そこで、20万円以下の何社かに分けて、しかし実際は東電がまとめて支払う。
そんな東電にカネの無心に来ない政治家が2人いた。
一人は、小泉純一郎元首相だ【注】。
もう一人は、菅直人首相だ。
【注】ただし、次のような事実がある。小泉退任後の07年、国際公共政策研究センターというシンクタンクができた。小泉が顧問に就いた。このシンクタンクは多くの大企業からの寄付金で設立され、東電はトップランクの1億円を寄付するとともにスタッフを派遣した(「【震災】東電の電気料金は半額にできる ~左団扇の東電~」)。
以上、大鹿靖明(編集部)「菅降ろしと東電マネー」(「AERA」2011年6月20日号)に拠る。
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(1)菅首相の「居座り」で政策論争が起こった
岡田克也幹事長ら民主党幹部に対して、菅首相は、(a)今年度第2次補正予算と(b)特例公債法の成立に加えて、(c)自然エネルギーの普及を図る全量固定価格買い取り制度の関連法案の成立を退任の条件とした。与野党の電力業界に近い議員の反対が強いこの法案成立まで続投することに菅首相がこだわれば、退任時期が大幅に遅れる可能性がある。
国政が停滞する懸念が強まっているが、菅首相が次々と政策課題を打ち出すことは悪いことばかりではない。政治の焦点が「ポスト菅」「大連立」という政局から、どの法案成立を菅首相の花道とするか、という政策論争に移ってきたからだ。
政治はこれまで政局に集中し、復興後の国家像をしっかり議論していなかった。
(2)与野党ともに「菅降ろし」後の構想なし
特に野党側は問題だ。谷垣禎一・自民党総裁は、菅首相の退陣表明後、不信任決議案提出直前の発言をコロッと翻した。「政策の合意が難しい」と。政策合意の困難さは、最初から明らかだった。谷垣は、「菅降ろし」後のことを何も考えていなかった。
谷垣ら自民党のベテランは、政治生命が残り少なくなったことで焦り、一日も早く政権に復帰したいから、民主党政権に難癖をつけてきただけだ。自民党は、首相の座を奪い返すまで、民主党政権に協力する気など全くないのだ。
しかし、民主党側は自民党ベテランの本音に鈍感だ。若手・中堅は世代交代を進めようとしているが、「ポスト菅」候補は皆、軽量な政治家ばかりだ。軽量首相では自民党に舐められるだろう。延々と難癖を付けられるだろう。
「大連立」を巡る政局は、本来民主党にとって、強硬な姿勢を崩さない公明党を取りこむ絶好の機会のはずだ。自民党との大連立を交渉しながら、公明党にも妥協を迫り、最終的に自民党を振って公明党と連立を組み、衆参の安定多数を確保するのはさほど難しくないはずだ。
それなのに、本来難しい立場のはずの自民党、公明党を悠々と構えさせてしまった。民主党も、「菅降ろし」後の戦略を持っていないから、政局への対応が後手に回るのだ。
(3)「怒り狂う側」のほうが、実は都合が悪いことがあるものだ
「菅降ろし」の過程では、鳩山前首相の菅首相に対する人格攻撃、誹謗中傷の類が目立った。「菅降ろし」は、戦略の欠如のみならず感情論に凝り固まったものだ。
政治の世界では、「怒り狂っている」側が、なにか都合の悪いことがあるものだ。例えば、昨年の「尖閣問題」では、一方的に怒り狂った中国は、実は国内の反日運動に苦しんでいたことが後に明らかになった。
菅首相は、冷静に政権延命の手を打ってきた。一方、野党や反菅勢力の異常な怒りは、菅政権が存続すると何か都合の悪いことがあるのでは、と思わせる。
(a)「親・財務省、増税路線」に対する反発。反発するのは、小沢グループや与野党の「旧政策新人類」議員だ。
(b)「脱原発路線」に対する反発。反発するのは、長期政権時代に原子力政策を推進し、東電と深い関係を築いた自民党議員だけでなく、電力総連を支持基盤の一つとし、東電と深いつながりがある民主党議員だ。実際、菅首相が浜岡原発の運転停止を要請し、これまでのエネルギー計画の白紙を表明した頃から「菅降ろし」は激しさを増した。
(c)「親米路線」に対する反発。反発するのは、「菅降ろし」に動いた小沢、鳩山、谷垣ら「親中・親露」の政治家だ。
以上、上久保誠人「菅首相「居座り」の意外な効果!? 与野党は今こそ“政局より政策”へ ~上久保誠人のクリティカル・アナリティクス 【第12回】 2011年6月22日」(DIAMOND online)に拠る。
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