語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>電力会社に不都合な真実 ~原発で儲からなくなった理由~

2011年07月01日 | 震災・原発事故
 原発は、火力発電所に比べて発電コストが安い。設備投資額が高くても電気料金に転嫁できる(総括原価方式)。ゆえに、原発建設が進んだ。
 ・・・・という電力会社の収支構造は、じつは過去のものになった。だから、ここ15年間、原発の新増設は進んでいない。エネルギー基本計画に示された増設原発は14基だが、そのほとんどが何度となく繰り延べを経験している。反対運動のせいではない。14基は、中国電力の上関原発を除き、地元の合意を得ていた。むしろ早期建設を求める自治体の方が多かった。新規増設が進まない大きな理由は、需要不足にあるのだ。

(1)需要から見た原発の必要性
 70年代以降、原発の建設ラッシュが続いた。その背景に、石油ショックを契機とした石油代替エネルギーの開発があった。
 しかし、90年代後半に入り、ペースダウンする。<理由1>バブル経済崩壊で経済成長がスローダウンし、電力需要が伸びなかった。<理由2>電力各社とも、利益を上げていくために発電所を効率的に運転していくことが求められた。電力需要は1日の間で大きく変動する。24時間一定の出力で発電するベースロードとしての原発ばかり建設していくことは、合理的でなかった。夏の一日電力供給曲線において、最小電力は同じ日の最大電力の約半分だ。年間を通してみると、最小電力は最大電力の約3分の1だ。だから、原発の設備容量が全電源の3割を超えるのは無理がある。
 90年代以降、産業用の電気料金は円高によってドル換算では諸外国より高くなった。値下げが求められた。制度上、総括原価方式で設備投資分をすべて電気料金に上乗せできるとはいっても、簡単に上乗せできなくなった。しかも、深夜電力を貯蔵する揚水発電の発電コストは極めて高い(1kW時あたり数十円で、原子力+揚水という組み合わせは高くつく)。
 そこで、電力各社は、季節別・時間帯別料金制度の導入、エコアイス(氷熱ヒートポンプ)、電気温水器、後にヒートポンプ方式のエコキュートなどの導入で、電力需要のピークシフトやボトムアップを図った。さらに、90年代は、自家発電代行ビジネスが普及し、ピークカットも進んでいった。この結果、電力各社とも、必要以上に発電設備を整備する必要はなくなった。
 原発が電力会社にとって魅力的な設備となるのは、あくまで十分な需要がある場合だけだ。

(2)石油ショックで原発が主役に
 原発の発電コストは、71年度と76年度時点でさえ、当初の計画以上に高かった。主な理由は、設備利用率が低かったからだ。76年当時、原発の設備利用率は52.8%しかなかった。とりわけ福島第一原発1号機、美浜原発1号機のトラブルが足を引っ張っていた。
 それでも発電コストは、第一次石油ショック以降は、石炭火力と比較すると原発のほうが安くなった。仮に原発の設備利用率が80%に達していたら、kW時あたり3円台になっていたはずだ。
 さらに第二次石油ショック後の80年代には、原発のメリットはより大きなものとなる。原発の建設費は、現在の5分の1だ。だが、火力発電所の建設費はその半分よりも低い。それでも建設コストを原価に上乗せできる。安い燃料費と高い設備利用率が実現できる。さらに、減価償却が済めば、原発は自動的にお金を生み出してくれる。燃料費の急激な変動に左右されず、電力会社の経営を安定させてくれる。70年代から80年代にかけて、原発が勢いよく増設されていった所以だ。
 しかし、現実にはベースロードの需要は伸びず、バックエンドのコストはいくらになるか不明確なまま、のしかかってきた。原発は、電力会社にとっても魅力的な設備ではなくなっていった。
 電力会社には、運転開始から10年以上経過した原発はお金をよく稼ぐ存在だ。他方、自治体には、当初の10年間は立地交付金や固定資産税が入るが、それ以降はちっともありがたくない存在となる。早期増設を求める自治体と、増設を先延ばししたい電力会社との間に軋轢が生じた。

(3)事故や改竄で稼働率が低下
 00年代は、電力会社にとって、原発がいっそう重荷となった時代だ。
 90年代を通じて電力会社に強く要求されていたコストダウンは、原発にも及ぶ。原発の運転、保守・点検には下請け・孫請け以下、多くの外部からの作業員が必要となる。ところが、ガバナンス(企業統治)に欠陥があった。
 電力会社にとって、原発の設備利用率向上のためには定期点検の期間を少しでも短くしたいところだ。が、その要請は合理的なものではなく、現場の作業員に無理を強いた。かくて、02年に発覚した東京電力の原発におけるデータ改竄事件、07年のデータ改竄事件の再発が起こる。他電力会社でも事情は同様で、中国電力島根原発の点検漏れにおいては、自殺者まで出した。関西電力美浜原発や九州電力川内原発における死亡事故も、こうしたガバナンス欠如と無縁ではない。
 00年代には、さらに、ABWRの初期トラブル、東京電力柏崎刈羽原発の地震被害など、原発をめぐるトラブルが相次いだ。その結果、00年には設備利用率80%を超え、90%をめざそうとしていたものが、実際には60%台で低迷することになる。高い建設費を払いながら、十分な稼働ができない原発は、電力会社にとってかなりの重荷だったはずだ。

(4)破綻する核燃料サイクル
 だが、より大きな重荷となったのは、廃炉や使用済み核燃料の処分などの、いわゆるバックエンドだった。
 原発の運転は、核燃料サイクルを完結させることが前提となっている。しかし、核燃料サイクルは採算が合わない。これが、電力業界が抱えるジレンマだ。
 高速増殖炉(FBR)の開発は、きわめて困難なものだった。まして、一般の原発と同等の発電コストの実現など、遠い夢だ。しかし、核燃料サイクルが回らないと、使用済み核燃料が原発のサイトにあふれてしまう。かといって、再処理をしないでそのまま地中に埋めるにしても、最終処分場の手当はなかなかできない。一時的な貯蔵場所として、青森県に預けておくことで、サイクルの破綻を表面化させない、というだけのことだ。
 再処理のコストは、(a)全量再処理でも(b)部分再処理でも5兆円以上要する。(c)全量直接処分でも(d)当面貯蔵でも、政策変更コストを加えると6兆円を超える可能性がある。
 電気事業連合会は、MOX燃料の価格を一般の燃料の2倍と仮定し、発電コストが1%上昇するとしているが、実際はMOX燃料の価格は一般の燃料より4~10倍も高い可能性がある。仮にコスト増が1%としても、100万kW級の原発でプルサーマルを実施すれば、年間4億円の負担増だ。
 電力会社にとって、バックエンドの負担は大きい。しかし、そのことを認めてしまうと、原発が止まってしまう。この事実に、おそらく電力会社のほぼすべての経営者は気付いている。見て見ぬふりをしているだけだ。

 以上、本橋恵一(環境エネルギージャーナリスト)「電力会社にとってお得だった原発もいまやお荷物」(「週刊エコノミスト」2011年7月11日臨時増刊号)に拠る。
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