東電を筆頭に、とにかく電力会社の力は強い。日本中のそれぞれの地域で君臨している。電力会社は、どの地域でも最大級の調達企業だ。東電に逆らえる人は、ほとんどいない。【古賀】
マスコミもそうだ。テレビ局は、地震の後2週間ほど東電を批判しなかった。なぜなら、ものすごい量のCMをもらっていた。現場の記者が東電を批判しようとすると、プロデューサーが「お前、そんなことをやっていいのか」と露骨に言う局がある。電力会社の批判はタブーだった。さすがに、今回の放射能漏れで批判されるようになったが、そこには「もう金を出してくれないだろう」という下品な読みもある。少なくとも東電はお詫び広告しか出せない。補償交渉を進めている最中に、いくらなんでもコマーシャルはできない。そうなると、マスコミは手のひらを返したように批判する。もともと取材現場の連中は、東電批判をやりたかったわけだから。【須田】
週刊誌に載っていた原子力推進の広告記事は、他の広告とは比べものにならない掲載料だった。大手出版社にとって、東電は大のお得意だった。果実、長く有力男性誌の編集長を務めた人が定年退職したのだが、慰労パーティの仕切りが東電だった。出欠の連絡先が東電の支店長だった。地震が起きて中止になったが、そこまできめ細かくマスコミ対策をしていた。原子力行政や東電がメディアに支出していたお金は相当な額だ。【須田】
福島第一原発を津波が襲った時、勝俣恒久・東電会長は、中国にいた。大手マスコミ幹部を連れて旅行中だった。マスコミ幹部の旅費の大部分を東電が負担してたのは公然の秘密だ。東電のマスコミ接待旅行は、何十年も前から行われてきた。【須田】
実は今、東電は表だって動けなくなっているが、それに代わって電気事業連合会が動いている。東電について批判的な報道をしたら、なぜか電事連が抗議してきた、という話もある。電事連は、事実上、東電に支配されているといってよい。東電以外の電力会社は、今も強大だ。関西のテレビ局に出演した友人は、出演前にプロデューサーから、発送電分離は言わないでくれ、と釘を刺された。東京のキー局でも、あるデスクがヒステリーを起こし、「電事連と闘うつもりか!」と叫んで、スタッフに呆れられた。【古賀】
電力会社には競争がない。宣伝は必要ない。そんな金があるなら、世界一高い料金を下げるのだ。電力会社のCMや広告は禁止すべきだ。【古賀】
電力会社は、表裏、両方に手厚く金を撒く。これはおおむね総務畑の担当になるが、汚れ仕事というより大事な仕事、電力会社の中枢というべきだ。経団連会長を務めた平岩外四・元東電社長は、総務部長経験者だ。【須田】
電力会社には、「なんでもお金で解決する」という体質がある。【須田】
政府の予算には、エネルギー対策特別会計がある。電力消費者から電気料金と一緒にとって、電力のために使っているので特別会計にしている。ただ、電気を使っていない人はほとんどいないから、実質的には全国民から徴収している。この特別会計が、発電所の立地している地域の振興費とか対策費に使われている。役所が予算案を作り、国会で議決されて決まるのだが、電力会社と経産省が、大物族議員も相談しながら使途を決めている。いりろな名目で配っているが、細かい実態はわかりにくく、国民には正確に伝わっていない。【古賀】
そこに、いろいろな政治家が群がってくる。そういう資金源が減ると大変だから、政治家は電力会社を大切にしなくてはならない。つまり、原発に対して厳しい規制をすると電力会社が苦しくなり、政治家に回る資金も少なくなる、という構図だ。そういう意味で、政官財の利権トライアングルの典型的な例だ。【古賀】
以上、古賀茂明/須田慎一郎『日本が融けてゆく』(飛鳥新社、2011)第1章「この危機を招いたのは誰か」に拠る。
↓クリック、プリーズ。↓